Day27 鉱物


 大学時代、ちょっと面白い友人がいた。

 地質や鉱物に興味がある…と、大学を受験する段階で既に卒業後には大学院に進むつもりでいる、実績を作ってその後も研究を続けたい……自分達の世代には充分珍しいタイプで、言葉を選ばなければ、『オタク気質の変人』なのかもしれないが――普段は、流行りの映画や漫画の話もするし、安くて美味い食堂探しや飲み会の誘いにもつきあいの良い、いたって気さくな友人だった。

 それでもやはり、学生らしい興味で出かける博物館や科学館で――解説付きで並べられた鉱物を展示ケースに額を押し付けんばかりに見つめ続ける姿には特異なものを見る思いがしたが、同時にそこまで心奪われる対象があることを微笑ましくも羨ましくも感じていた。


 僕は、いつか鉱石になるんだ……。


 なんの機会だったか……たまたま、ふたりで時間をつぶしていたのだと思うが――そんなに熱心になるには、なにかきっかけがあったのか?……なんの気なく問うてみたことがあった。

 彼は、とっておきの秘密を明かす子供のようにはにかんで、ぼそぼそと早口に囁いた。

「幸いにも……出会ってしまったんだ、僕は」

 そうして、いつも一緒にいるのだという――手のひらに乗るほどの艶々とした黒い石を見せてくれた。

 まるで、恋人を紹介してくれるかのように思われたのは……本当に、ものの例えだっただろうか?



 やがて、それぞれが師事する教授や准教授のもとに所属する頃――。

「また一歩、あなたに近づいたよ……」

 研究室の引き戸にかけた手を止めたのは、ぽそぽそぽそ…やはり囁きに近くはあったもの、誰かに話しかける彼の声が聞こえたから。

「△×☆※◇~……」

 一方で、答えたと思しき声は――確かに、声ではあったが、言語というよりは金属を弾くような……楽器の音の連なりに似ていたろうか。

「うん。もう少し待っていて――頑張るから」

「☆$~○※△……!」

 言葉として聞き取れない相手の声は、歓喜を帯びていただろうか?

 そろり…好奇心に負けて、覗き見る薄暗い研究室には――彼ひとりしか見当たらなく……。



 友人が愛し気に見つめる先――彼の手の中で、あの黒い石が微かなきらめきに揺れていた。




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