Day21 自由研究
「学校の七不思議を確かめる!」
夏休みの自由研究について問われ、クラス一のお調子者の彼は高らかに宣言した。
クラスのみんなは冗談だと思っていたし、担任ももちろんそうであったが責任ある大人である分、夜間の外出や許可されない時間の学校への立ち入りは控えるようにと注意を添えた。
「うちの学校の七不思議――お前、知ってんの?」
放課を言い渡されれば、明日を待たずとも夏休みも同然――教室を駆け出そうとした彼は、一番後ろの席にいた少年にひょいと呼び止められた。
「そんなの、みんな知ってるだろ?」
彼自身は、参加しているサッカークラブで付き合いのあるふたつ隣りのクラスの児童から、去年の夏ごろに聞いたのだったと思う。その児童は、兄から聞いたというし――他にも学級委員や美化委員、保健委員など頻繁に召集される委員会の経験者には、そこの先輩たちから教えられる場合も多いらしい。そうやって、上級生から下級生へいつの間にか広まり、伝え続けられている……そう言うものだと当たり前に感じていたので、そんなふうに訊くクラスメイトがいるとは思ってもみなかった。
「お前、知らないの?」
重ねて問えば、少年は得意げにも見える笑みを浮かべて小首を傾いで見せる――知らないのではなく、こちらを試そうというのかもしれない。
ならば…とばかり負けん気を刺激され、机の正面に回り込むと順に指を立てながら数え上げることにした。
ひとつ、下校時間が過ぎると一段増えている階段。
校舎の西側の三階から屋上に上がる階段の踊り場から上の階段が一段増えている。
その増えた階段を上って屋上に出るドアを開けると、異次元に繋がっている。
ふたつ、女子トイレの鏡をのぞくと背後を白い影が横切る。
女子トイレに並ぶ洗面台のうち一番奥の鏡がないのは、かつて鏡の前に立つと背後を誰かが横切ると複数の女子児童が大騒ぎしたためらしい。
今でも、その洗面台の前で手鏡を使うと、背後を白い影が横切る。
みっつ、帰ってくる音楽室の鍵盤ハーモニカ。
音楽室の貸し出し用の鍵盤ハーモニカの中にひとつだけ、明らかに年代物とわかる古いものがある。
新しいものと買い替える際に処分するのだけれど、いつの間にか棚に帰っている。
よっつ、唸り声をあげる理科室の剥製。
何匹かの皮を繋ぎ合わせて作られた剥製があり、雨の夜には痛がって低い唸り声をもらす。
いつつ、夜中の図書室を彷徨う白い服の女子児童。
難病で入退院を繰り返し、あまり学校に来られないまま亡くなった本好きな女子児童が、今でも病室で読む本を探しに来ている。
むっつ、体育倉庫の怪。
体育館の用具入れに入る際に扉を閉めてはいけない。
閉めると積まれたマットや跳び箱が崩れてきたり、床掃除用のモップが倒れてきたりする。
昔、いじめで閉じ込められて熱中症で亡くなった児童の霊の仕業で、少しでもいじめに加担する児童には無差別に祟る。
「それから……」
すっかり開いた右手と人差し指だけの立つ手――次に中指を起こそうとして、はた…と彼は動きを止めた。
思い浮かぶ歩く二宮尊徳像も影が寝ている保健室のベッドも漫画で読んだどこかの学校の七不思議だ……似たような話はたくさん浮かぶけれど、どれもやはりこの学校の話ではない――。
「ななつ目は……」
ななつ目を聞いたことが、あっただろうか……?
疑問に思った瞬間、ぞっ…と血の気が引いた。
「ななつ目、教えてやろうか?」
目の前に座る少年は、顔も声も仕草もなにもかも――彼自身だった。
ななつ、七不思議を集めようとしてはいけない。
七不思議を数え上げて、ひとつ足りないことに気が付いてしまうと、もうひとりの自分が現れて成り代わられてしまう。
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