Day20 摩天楼
大手企業の事務所の多く入る高層ビルの乱立するオフィス街。
一番古く、五番目に高いビルの高層階の事務所では、夏になると雨の降るたび一斉にブラインドが下ろされる。
理由については、噂はある。
数年にひとりふたり、どこかの事務所の若手社員が、こっそりと……または、宣言して――噂の真偽を確かめようとするのだが……みな一様に青い顔をして事の次第を語るのを嫌がった。
勤続二十年になる課長も若い頃に確認したひとりであったそうだが、若かりし頃の武勇伝にすることもなく――雨が降り始めると、神経質なほど誰より早く、近年一部自動化されたブラインドを操作し始めるのだった。
「鳥だよ……」
ある時、雨雲の隙間から日が差したのだろう、降り続いているにもかからずブラインドの向こうがひどく明るくなったことがあった。思わず、誰もが窓を振り返ったほんの一瞬――ブラインド越しにもわかる影が、上から下へと過った。
噂は、本当なのだと……目にした全員が思った。
しかし、課長はそれを否定した――。
いや、きっと――否定したいだけなのだ……と、やはり全員が思ったのだけれども。
見てしまった――。
たまたま、営業が持ち帰った商材のあまりが、窓近くに置かれていた。
いくつかの発砲ポリエチレンで裏打ちされたポップが、降りてきたブラインドのスラットと呼ばれる薄い回転版を不規則にひっかけてしまった。
外を覗き見ることができるほどの小窓が空いた。
程なく、銀糸の連なるような雨足を背景に――あの影が、落ちてきた。
確かに、鳥だった。
猛禽のような、首は短く、翼は太く、尾の長い――鳥だった。
ただし、大きな頭部には……。
恐怖に慄く――人間の顔が、あった……。
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