Day14 さやかな


 星影さやかに、静かに更けぬ――。


 キャンプファイヤーを囲んで、ひとりだけ違う歌詞を綺麗な声で歌い始め――気付いて、真っ赤になって首を竦めた彼女は、愛らしかった。

 友人に誘われて……という彼女は、いわゆる『パリピ』寄りの集団の中で浮いてはいたが、いつもごく自然体でそこにいる。大学デビューを試み、夏となればキャンプを企画するようなサークルに、無理をして在籍している自分とは似ているようで違う存在だった。

 とても羨ましく……好ましく感じていた。

 それは、恋人になりたいなどとか……そんな、生々しい感情のつもりは、なかったのだけれど。


 飲み会で言うテーブルチェンジを兼ねたフォークダンス――お辞儀に似た仕草に揺れるボブカットに、胸がときめいた。


「みんな、青春…って感じで、パワフルですよねー」

 ステップを進めながら苦笑する様子が、自分を彼女側の人間と思ってくれているようで、嬉しかった。



 いつしか焚火は燃え尽き――片付けを担当する数名を残して皆、懐中電灯を手にそれぞれのテントへと引き上げていく。

「おやすみ――」

 ちょうど、いつもの友人と目の前を通り過ぎる彼女に声をかけたのは、ちょっと気が大きくなっていたのかもしれない。

 を揺らして振りむいた彼女は、しばしぽかんと立ち尽くし――間もなく。


「あぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 絞り出すような悲鳴を上げて先を行こうとしていた友人の腕にしがみついた。

「え? なに? どうしたの? 虫? 蛇?」

 驚く友人を引きずるようにして、なおも遠ざかろうとする――彼女の取り乱しぶりに、思わず手を伸ばす。


 そして、気が付いた――。


 手を腕を……透かして、夜の暗がりが見えた。

 引き戻して確かめる両手――やはり、透かして地面が見える。


 先ほどまで、あんなにはっきりと確かであったのに……。


 先ほど……?

 いや、違う――あれは、去年だ。


 押し寄せる記憶は、同時に喪失感を伴う。

 あの夏のあと、なにがあったのだったか……?



 思わず見上げた星影だけが、あの夜と同じく――。





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