Day7 ラブレター
最初は、古式ゆかしく下駄箱に入っていたと言う。
「古典過ぎて、からかわれてんのかと思うよなー」
反応を動画に撮ってネタにしようとしている奴らがいるのだろうと、その場に落として立ち去ったのだと。
しかし、ひと月もするころ――また、入っていた。
封筒にも入っておらず、ファンシーな便せんをただ四つ折りにしただけで――わざわざ読むまでもなく、記されていたのはひと言。
好きです
「名前も書いてないのに、そんでどないせぇっちゅう話だろ?」
その日は、ひとまずポケットにつっこんで、登下校に利用する地下鉄のホームのゴミ箱に捨てたそうだ。
さらにひと月が経ち、今度は――教室の机の中に、入っていた。
また、違うキャラクターの便せんに、やはりひと言――。
「だから、名前くらい書けっちゅーに……」
丸めて、教室のゴミ箱に放り込んだらしい。
次は、二か月ほど間が空いて――教科書のページの間から現れた。夏休みを挟んでいたので、もしかしたらひと月前には既に仕込まれていたのかもしれないが……やはり、可愛らしい便せんにひと言、四文字だけが記されていた。
やはり、教室のごみ箱に捨てた。
それからも、ほぼひと月ごと……それは現れた。
一度、家のごみ箱に捨てたからか――その後は、気付くとカバンの中から見つかるようになった。
以来、見付けた時に最寄りのごみ箱に捨てるようにしているという。
「いや、でも……ごみ箱直行は、酷くね?」
さすがの『ゴミ箱』連呼に眉を潜めるが――誰からかわからない手紙なんか気持ち悪い……言われてしまえば、ごもっとも。
「だいたい、カバンの中に入ってるってことは、勝手にひとのカバン開けてるんだぞ、そいつ」
うわぁ……背筋を駆けあがる悪寒に、思わず声が出た。
「いい加減、やめてほしーわけよ」
ただ、本当にまったく差出人の心当たりはないらしく――しかし、考えに考えてひとつ方法を思いついた……と言う。
かさり…そして、取り出された――四つ折りの便せん。
「え? これって……?」
「そ。昼休みに、気付いた――」
開いてみせられた中には、ひと言――可愛らしい文字が並んでいた。
「こいつに、なんか書いて戻しとけばどうかな?…ってさ」
なるほど――。
彼とは、さほど親しいわけではなく――当たり前のクラスメイトでしかなかった。
だから、その時、彼からそんな話を聞かされた理由もわからない。
その後、彼がどんな言葉を返信としたのかも……。
翌日から、彼は学校に来なくなった。
しかし、クラスの人数は変わらなかった――。
誰も彼のことを知らず……彼の席は、元からなかった。
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