第4話「一ノ瀬花林の正体」

「で、誰なんです一ノ瀬花林って?」

「なんだ知らんのか」

「知りません」

「若き時代に書いた、推理小説の断片だよ」

「どういう話なんです?」

「彗星が落ちて、死ぬという話だ」

「なんてヒステリックな」

「あの時代はな、泣ければ、名作だったんだ」

「なるほど、つまりは情に訴えていたと」

「そこまで言うと、一ノ瀬花林が誰かと分かるだろ」

「同情するなら金をくれのドラマですか」

「そうそう、あの子がヒヤジョウだ」

「え?いや一ノ瀬花林じゃ、ないじゃないですか」

「ああ、ほら推理小説といったろ」

「どこのネタかさっぱり分かりません」

「私が書いたのは彗星の落ちた日だ、そしてドラマが出来た日が彗星の落ちた日だ」

「はぁ・・・?」

「よく考えてみろ、二つは一つの日に出来た、だが二つは一つではくくれない」

「つまり?」

「なんだ答えは考えて出すものだぞ」

「では質問ですが、一ノ瀬花林は現実にいる方ですか?」

「居ないね、居るとすれば、本の中だ」

「では次に本は完成したのですか?」

「していない」

「なるほど、分かりました」

「では聞かせてもらおう」

「それですよ、それ、」

「ほお?」

「物語を書いているのではなく、先生は物語を想像させる、そしてそれを書き留めるんです」

「より簡潔に言ってくれ」

「先生は、自ら書くのではなく、問として出して続きを読者に書かせているんです」

「なるほど良い見解だ、しかし甘いな、それでは、物語は破綻する」

「なぜ破綻するのですか?」

「物語とは読み手によって変わる、もし君の言う読者が居ないとすればどうする」

「なるほど分かりましたよ、あなたは初めから、嘘を付いているんですね」

「どういうことだ?」

「ドラマが出来たのは今から何十年前、つまり先生自体が読者であったんですね」

「ほお?」

「つまりはドラマが出来た日、彗星の落ちた日が出来た、これは逆説的に、先生が作ったオマージュ、二次創作だった、だから二つはくくれず、一つ一つである。」

「参ったよ、君は一ノ瀬花林を見抜いたみたいだ」

「一ノ瀬花林、つまりは先生自体のペンネームだったと」

「そうだ、あっぱれ」

「では謝罪をお願いします」

「なぜだ」

「私を泣かせたことです」

「そうか、確かに君は、本より真の涙を知ってるな」

「いつか読ませてくださいね」

「ああ、君が読んでくれるなら。書くさ、必ずね」

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