第18話 まとまらない状況
涙が止まらない。
そりゃあ、そうだよね。
結婚式なのに色々あり過ぎたから。
仕方ないよね。
私は、お妃様が永遠の眠りについた医務室をあとにし、もう一つの医務室に――今夜がヤマだと言うダイエイさんが眠る枕元の椅子に座り、止まらない涙に激しく抵抗し、自分を納得させる術を考えています。
気づけば夜中の0時。
私は別になんでもない、ただの命の恩人の手をずっと握っていました。
そしていつもなら、必ずこの人がやって来る時間。
まさか目を覚ますのかな?
そんな奇跡は起こるはずもなく、涙を流し続けて2時間後、微動だにしなかったダイエイさんの手が私の手を握り返した。
少しの奇跡。
この人、男性なのに手が小さい。
途中そんな事も考えていました。
私は声をかけました。
「ダイエイさん! 起きて! 頑張って……また明日から12時に来てよ……お願い……」
カチャ
「どうかな……ダイエイ様は……」
「あっ……アリエスさん……今、手を握り返してくれたんですが意識はまだ……」
私は様子を見に来たアリエスさんに向かって首をふる。
「そうか……」
アリエスさんはお妃様の遺体をアンドレアス家に運んで戻って来たとの事。
「今日の仕事はもうない。僕もダイエイ様の側にいさせて欲しい」
「はい。一緒に声をかけ続けま――」
「お……い……欲望……まみれ……」
「え?! ダイエイさん?!」
「ダイエイ様!」
彼は目を閉じたまま、いつものセリフを弱々しい声で話したのです。
静かに目を開くダイエイさん。
「夢を見ていたんだ……ウッ」
「ダイエイ様!」
「駄目だよ! 無理してしゃべっちゃ!」
「いや……俺にはお前に話す義務がある」
「…………」
「随分とお前には意地悪をしたからな」
意地悪?
髪掴んだり、罵倒したり。
そんなレベルじゃないでしょ?
「いいよ、別に。私を庇って刺されたんだから帳消しだよ」
「まあ、仕事とは言えやはり人を傷つけると、自分に返ってくるものだな。世の中はうまく出来てるんだな。イテッ」
刺されたお腹を抑えるダイエイさん。
私は黙ってその手を払いのけ、代わりに優しくさすりました。
「ミミン。ありがとう」
「そんな事より早く元気になってよ」
「ああ……そうだな……ところでアリエス……アンドレアス家夫妻とヤヌス嬢は逮捕するぞ」
「え? ダイエイ様? どう言う事でしょうか?」
「ヤヌス嬢は俺とミミンに対しての殺人未遂と殺人罪……当主夫妻は長年の人身売買の罪と通り魔事件の首謀者である裏が取れたからだ」
ダイエイさんは、生死を彷徨う気力を振り絞って説明してくれました。
アンドレアス家夫妻は、テリー皇太子の婚約者ミミンを陥れる為、犯人と被害者をそそのかした。二人はアンドレアス家に多額の借金があり、それを帳消しにすると二人に話を持ちかけた。
犯人には公園で人を殺めれば帳消しと多額の報酬、被害者には帳消しの話をしようと公園の花壇に別々に誘いだした。
私が現れたのは全くの偶然。
そして犯行に及ぶ。
すぐに逮捕→処刑も口封じ。
私が被害者と付き合っていたと言う噂話を広め、私の婚約破棄を実行すると言う計画は、皮肉にも私が偶然現れた事で信憑性が増したとの事。
「俺は奴らの企みに乗り、ミミンを尋問して自白させるとアンドレアス家に話をして城内を出入りする自由を得た。そこでヤヌス嬢と親密になり、両親である夫妻の人身売買の事実を掴んだ……」
「そうですか……そうだったんですか……」
「ミミン。君には随分と辛く当たったが、これもお妃様を信用させる為でね。許してくれ」
「は、はい……」
「それと……アリエス……お前が被害者宅に仕込んだ、亀の事が書いてあったラブレターの様な手紙だが……」
「はい――えっ?」
「あれはいただけないな」
「ダダ……ダイエイ様? 何を……」
「被害者は字が書けない」
「…………」
「驚いたか? それだけじゃない。今回の一連の事件、表向きは俺が一人で調べていたと言う事になっているが、お前以外の警備隊全員が周知しているんだ。お前がアンドレアス家に多額の借金がある事もな」
「な、何を言ってるのかわかりません」
「とぼけるなよ。お前は今どこに行っていた?」
「…………」
アリエスさんはお妃様の遺体をアンドレアス家に運んでいた――
え? え? どう言う事なの?
「今度はアンドレアスに何を依頼されて来た? 俺を殺せか?」
重苦しい沈黙が医務室内を包んでいました。
あとがき
今エピソードのミミンのセリフ。
「そうですか……そうだったんですか……」
これは『少女に何が起こったか?』の最終回の有名な演技のセリフです。
当時は少し話題になった程度でしちが、もし放送当時に今のSNS等があったら大炎上かネタにされてしまっていたでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます