第13話 ミミン物語

 マーガレットお婆さん……


 お妃様のいつもと変わらない嫌味を、愛想笑いで右から左へと受け流した私は、仕事を終え自分の小屋に持って来た日記の山を目の前にしていました。


 しかし、いざ読み始めようとすると手が進まず、お婆さんを思い出しながら、ボロボロになった表紙を眺める事しか出来ませんでした。


 だってそもそも人の日記を見るなんてしちゃいけないから。


 ボーンボーンボーン……


 カチャ


 「…………」


 やはり12時にやって来た謎の男。


 「……あれ? いつものどうしたの? 欲望まみれのシンデレラ……は?」


 「それが例の日記だな?」


 「う、うん」


 やっぱり人の話を聞かない男。

 いつもと違い、小屋のドアを静かに開ける男に違和感を感じました。だからつい、茶化してしまう私。


 「どうした? なぜ読まない?」


 「だってさ、人の日記だよ? あまり良い気はしないのは普通じゃない」


 「じゃあちょうどいいな」


 「え?」


 「おい。この日記を運び出せ!」


 合図と共にドカドカと小屋に入る二人の衛兵。

 私を払い除け、テキパキと日記を抱えました。


 「ちょ! やめてよ! 何すんの!」


 「うるさい! これは証拠に回収するんだ」


 「イタタタタ! また髪の毛! 痛い! 痛い!」


 「うるさい! ドジでノロマな亀! これでようやくお前のシッポを掴めるぞミミン!」


 「は? ほんとにや――」


「じゃあな、欲望まみれの灰かぶり姫!」


 同じだよ。

 

 わずか二分たらずで、私の――いや、お婆さんの日記を持ち出す暴挙に出た謎の男。

 「…………」

 あまりの突発的な出来事に私は放心状態。


 しかし、遺品であるはずの日記を持ち出された事に動揺はしましたが、悲しみや怒りはありませんでした。


 私、お婆さんの部屋から日記を持ってきて、そもそも何がしたかったの?

 お婆さんの本音?

 思い出?

 そんな事は書いてないかも知れない。勝手に私が想像してるだけかも知れない。

 

 もう何がなんだかわからないよ。

 お婆さんの死。

 変わらないお妃様と城の日常。

 謎の男の行動。


 そう考え混乱してる私に、再び何がなんだかわからない出来事が直後にやってきました。

 

 コンコンコン


 ガチャ


 「え? お妃様?」


 「ミミンさん! お婆さんが! お婆さんが! ワーッ!」


 現れたもう一人のお妃様。

 なぜわかったか?

 それはもちろん彼女の悲しみの優しい表情と涙と声。

 初めて小屋に来た時よりも、私の胸に飛び込み泣き崩れるお妃様。もちろん、嫌味と言う猛毒を持つ昼間のお妃様ではありません。


 もう一人のお妃様は、心からお婆さんの死を悲しんでいます。それは紛れもない事実、そして気持ち。


 二つの人格を持つお妃様。

 これもお妃様。

 

 もう何がなんだかわからない。

 でも、目の前の出来事を受け入れる――私はこの状況を運命に置き換えて、お妃様の頭を撫でていました。


 その後ベッドに座り、スヤスヤと私の膝枕で眠りについたお妃様。


 「え?」


 私の膝に顔をうずめるお妃様を覗く。


 (顔が……いつものお妃様……)


 同一人物でも内面が違うと、別人に見える生ける教科書みたいなお妃様。

 

 ガチャ

 

 「おい! 汚れまみれのミミ……」


 「シーッ!」


 あんたはなんで戻って来たの?

 しかも、うす汚いから汚れまみれに悪化してるよ?

 でもちょうどいいや。


 驚く男に私はシャーッ! と言う威嚇する猫の様な表情で問答無用にお妃様を抱えさせ、そのまま城内の寝室に運ばせました。

 もちろん私も一緒に行き、誰にも見られないように細心の注意を図りました。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ミミン。今日は化粧のりが良くないわ。あなたみたいに何をやっても人生失敗ばかりのドジでノロマな亀みたいね? まさかあなたみたいに婚約破棄されたりしないかしら? オーホホホ!」


 大丈夫。

 昨日の事は全然覚えてない。

 

 

 あと、のりが悪いのは泣き腫らした目だからじゃない?

 ついでにもう一個いいかな?

 あなた達同じ亀の例えセリフ吐いちゃって、打ち合わせでもしてんの?



 

 後書き

 スチュワーデス物語

 1983年に放映された、堀ちえみさん主演のテレビドラマ。

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