第6話 乳姉妹――ではない?

 春の暴風雨のその夜中

 二人の嬰児 生まれたり

 同じ国の その里に

 一人は広き お屋敷に

 一人は狭き 城下町


 乳姉妹(ちきょうだい)

 1985年に放映されたテレビドラマ。

 毎回流れるオープニングナレーションをこの作品風にアレンジさせて頂きました。

 ユーチューブで検索すると元を聞く事が出来ます。

 ◇◆◇◆◇◆◇


 婚約の儀が滞りなく行われた。

 かと言って私の仕事は特に変わりない。雑用……雑用……また雑用。

 昨日と違うのはお妃様の就寝時間が少しだけ遅くなった事。

 当然私も小屋に戻るのが遅くなり、疲労困憊でベッドにたおれこむ。


 ゴーンゴーンゴーン……


 もうこんなじか――


 ガチャ


 「おい、魔法が解ける時間だぞ。悠長に寝てるんじゃないぞ、欲望まみれのシンデレラ」


 そうだった。

 この謎の男は毎日来ると言っていた。しかも律儀にタキシードを着て、夜中の12時ピッタリに。


 「き、今日は疲れてるから明日にしてよ……」


 横になったままではさすがに女性としてはしたない。私は体を起こしてベッドに座る。


 「今日の婚約の儀は素晴らしかったぞ。ヤヌスお妃様もお美しかった。うすぎたねえミミンとは大違いだ。同じなのは誕生日が一緒な事だけだ」


 なにその豆知識?

 そんな情報いらない――え? 確か私とお妃様は同じ年……。しかも同じ日に生まれたの?!


 「今日はお前を奈落に突き落とす新情報を持って来てやったぞ」


 「……な、なんですか?」


 「今回の事件、お前は犯人と被害者両方共知らないと言っていたよな?」


 「はい」


 「お前の死んだオヤジと犯人は親友だった――おいっ! これでもまだしらを切るつもりか!」


 またも私の髪の毛を鷲掴み。


 「イタタタッ! 痛い!痛い! 乱暴はやめてよ! しかも初めて聞いたよそんなこと!」


 「フッ。まあいい。だがこれでお前と犯人の線は結ばれた。あとは被害者とお前が付き合っていたと言う証拠が見つかれば、一気に逮捕だ!」


 「そんなのないよ! だって被害者の人と付き合ってなんかいないから! 知らない人だよ!」


 正直驚いた。

 世間は狭い――私もそう思っていたが、なんと亡くなった父と犯人が親友だった。

 髪の毛を掴まれながら私は動揺した。

 

 「まあ、これくらいでお前が自白するとは思っていない――良い事を教えてやろう。お前は母と二人暮らしで経済的にも貧しい。だからその為にお城で働いているらしいな?」


 「……そうだよ」


 「殺人事件の主謀者は財産を全て没収と言う法がある。つまり、一ヶ月後の給金日を待たずにお前が働いた分は没収――警備隊の運営資金になるんだ!」


 「…………」


 「どうだ? 言葉もないか? 悪い事は言わん。どのみちお前に未来はやって来ない。自白して楽になったらどうだ?」


 「しないよ! するわけないじゃんか!」


 「馬鹿な女だ。不毛な労働を続けると言うのか。まあいい。この程度でお前が自白するとは思っていない。まあまだ時間はたっぷりある。それまで首を洗って待ってろよ! じゃあな」


 やっと髪を離して退室しようとする男に、私は自然と言葉を発した。


 「あ、ちょっと待ってよ!」


 「なんだ? 自白する気になったのか?」


 「違うよ! 貴族は子供を使用人として働かせてるものなの? そんなの許されるの? 警備隊でしょ? 法に詳しいでしょ?!」


 「……なるほど。お前はお妃様の実家で働いてる子供を見たんだな」


 「う、うん」


 「問題ないな。12才以下の子供が働いて給金を受ける事は禁じられている。だが、お手伝いのお駄賃と言う事でどの家庭も行なってる事だからな。いちいちそんなの取り締まる訳ないだろ。そんな事より自分の心配をしたらどうだ? そのあまりある欲望による完全犯罪を自白して終わらせたらどうだ?」


 「だから犯罪なんかしてないってば! いい加減にしてよ! 二度と来るな!」


 「残念ながら俺はヘビよりもしつこい男でな。あいにくだったなミミン。明日はもっと驚愕の情報を突きつけてやるから覚悟しとけ! 欲望まみれのシンデレラ」


 「…………」


 男はドアを開けて出ようとしたが、足を止めた。そして外を向いたままつぶやいた。


 「人身売買なら別だがな。 じゃあな」


 バタン


 ちょっと待って?

 たしかお妃様は「子供達を引き取って」と言っていた。


 しかし、それ以上考え及ぶ間もなく、私は気を失う様に眠りについた。


 

 

 

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