第43話 俺のヒーロー

「なぁ、大将。本当に今日出るのかい?」


 ミナが問いただしてくる。

 こいつは疲れた時、相応の理由がないと動かない性格だ。


「出ようと思う。みんなはどうだ?」


 ミナは肩をすくめた。

 諦めたんだろう。


「アッシはいいっすよ。ヤブ先生のためっすもんね!」


「自分。問題ない」


 ゴンダとリスケは問題ないと頷いてくれた。意見がまとまったのなら、買い出しをして行こう。


 街で食料を買い出す。いつもの干し肉と野菜類を買い、最後に魔除け用のお香を買う。


 これは、寝るときに焚くと魔物が寄ってこない様になるという優れものだ。

 普段から焚けばいいと思うだろうが、これが一つで一万ゴールド。

 なかなかにお高いのだ。


 買い出しが終わると街を出て目的の紛争地帯へと向かう。

 

 この街から紛争地帯へは、森を抜けるのが一番早い。この魔の森を抜けることができるのは、Aランクパーティぐらいなものだろう。


 森を抜けるのに今からだと二日はかかる。その後、魔吸草を手に入れて一日。その後に戻るので二日。休憩しながら行けばそんなものだろう。


 今回は先生から急ぐようには言われていない。

 通常のスケジュールで行こうと思う。


「ウルフのお出ましだよ! ファイヤーランス!」


 ミナが先制攻撃を行っていく。

 それに続いて駆けていくのはリスケだ。

 凄まじい速度で駆けていき、次々とウルフをなぎ倒していく。


 今回は、ゴンダと俺の出番はなさそうだ。

 この浅い層ならそう強い敵はでない。


 三時間ほど進んだだろうか。

 外は日が落ち始めていた。


「そろそろ野営するか」


 俺の号令を聞くと即座に周辺でいい場所がないかリスケが探してくれる。いつもそういう役割だ。


 場所を見つけると薪を集めてくるのはゴンダ。

 薪を山上に積み上げて周りへと座る。

 ミナは火をつける役だ。


「ファイヤー」


 ゴウッという勢いのある炎を上げた薪たちは自分達のことを主張する様にパチパチと音を鳴らしながら俺達を照らしてくれている。


「大将はさぁ、なんでヤブにそこまで肩入れするんだい?」


「前に話しただろう? ヤブ先生は、俺の命の恩人なんだ。だからだよ」


「もう恩は返したんじゃないのかい? あんなに協力してやったし。今回は報酬を出してくれたから強行スケジュールで来たけどさぁ」


「ミナにはわかんねぇか。ヤブ先生はなぁ。自己犠牲の塊のような人だ。だからかなぁ。助けてやりてぇのよ」


「だからって、ここまでするかい? こっちが疲れちまうよ」


「あのままだと、ヤブ先生は命を落とすこともあるかもしれねぇ。今回だって、俺達が行けねぇって言ったら、自分で行くって言ったと思うぜ?」


「そんな、無謀な」


「でも、何か方法を考えて自分で行くという選択をすると思う。なぜなら、他の人が命を落とすくらいなら自分が落す選択を選ぶような人だからだ」


 ミナは肩をすくめてため息をついた。


「ヤブはバカヤローだね」


「でも、俺はな、ヤブ先生は本当にこの街に、この国に必要な人だと思う。この治癒魔法が効かなくなっているという状況を打開できるのはヤブ先生だけだと思う」


「大将が倒れた時、治癒魔法をかけてきて金を要求した奴がいたんだっけ?」


「そうだ。あの時はこの国に絶望した。けど、ヤブ先生が俺の命を救った後に、それをつっぱねてくれた。人に助けられる感覚。これを俺は初めて味わった」


 今までは依頼で人を助けることばかりしてきた俺達。

 それが、救われる立場になった。

 その時に思ったんだ。


 俺はこの人の助けになりたいと。


「天下のゴリミヤのヤコブが人に助けられたんだものねぇ」


「俺は思い上がっていたのかもしれない。人の助けはいらねぇと。だが、実際あの時は死にそうで走馬灯まで見えたんだ。今まで皆でしてきた冒険を思い出していた」


「はははっ。本当に危なかったのかい」


「そうだったんだろう。さっそうと現れて助けてくれたヤブ先生は、俺からしたらヒーローだったわけよ」


「その人の為に、強行でもなんとかしてやりたいということだね?」


「あぁ。そしたら、俺達も誰かのヒーローになれるかもしれないだろう?」


「そうさねぇ」


 微笑みながら肩をすくめるミナ。

 腹を空かせていたのだろう。

 腹の虫が空腹を告げた。


「やだねぇ。いい話をしているのに」


「ハッハッハッ! ミナらしいな。飯食うか」


 カバンから干し肉を出して三人へと配る。

 そして、木を組んでたき火の上に鍋を吊るす。

 そこへ水と野菜をぶち込み、塩で味付けして煮立たせる。


 火が通ったら完成だ。

 このパーティでは、料理係は俺だ。

 オレ以外、壊滅的に料理が作れない。


 一度、ミナは作ったことがあったが、食べられたものではなかった。


 器へと盛り、配ると皆熱そうに胃へ流し込んでいく。

 この美味しそうな顔を見るのがいいんだよなぁ。

 そんなことを思いながら自分もすする。


 野菜の旨味と塩味が良い感じだ。


「うん。うまい」


「大将は良いお嫁さんになるんじゃないかい?」


「ハッハッハッ! 貰ってくれんのか?」


「大将はタイプじゃないんだ。考えさせておくれ」


「こっちが願い下げだ!」


 こんな軽口を叩けるのは長年の付き合いだからだ。

 こういう雰囲気がこのパーティのいいところだ。

 俺は、このパーティが好きだ。


 明日は気合を入れて魔吸粉取りに行こう。

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