第44話 ヤコブの勲章
俺達は魔吸草の生息域までもう少しというところまで来ていた。
ここは紛争地帯。
それを忘れていたわけではないが。
「貴様ら何者だ!?」
自国の軍人に見つかった。
「俺達は同じ国の冒険者だ!」
「ふんっ。どうせスパイだろうが! 越境してくるなど、いい度胸だ!」
軍人は聴く耳を持たず、剣を突きつけてくる。
軍人に手を出したら俺達もただじゃすまないだろう。
だからといって、自己防衛しないのも違う。
「俺達は、依頼で魔吸草を取りに来たんだ!」
「そう言って、我々を攻撃する算段を練っていたんだろう?」
この軍人ども、俺達を信用する気はまるで無いようだ。
「しかたねぇ。ミナ!」
「あいよぉ! ファイヤーボム!」
軍人の足元へ向けて魔法を放つ。
凄まじい轟音と共に砂埃が舞う。
視界が遮られたところで突っ切る。
「行くぞ!」
ここを突っ切れば魔吸草の群生地だ。
早く行かねぇとまた軍人に見つかる。
四人でひし形になり、俺を先頭に、右にゴンダ、左にリスケ、後ろにミナという形で進む。
軍人たちが喚いている声が遠ざかっていく。
これでいい。
無駄な争いをすると面倒だ。
音を聞きつけてきたのか、前方から集団が来る。
「こっちだ!」
少し進行方向から外れるが、茂みの中へと身をひそめる。目の前を招待規模の隣国の軍人が駆けていく。本当に紙一重だった。
自国の軍人には悪いことをしたが、アイツらが話を聞かないのが悪い。俺達は話し合いをしようとしたのにそれを信用しないからこうなるんだ。
隣国の軍人と戦闘になっていようと、知ったことか。
「よしっ。進むぞ。この先の丘の上に生えているはずだ!」
魔吸草の生息しているところは、ギルドの情報でわかっていた。
だが、その地点が紛争地帯のど真ん中だったから問題だったのだ。
俺達なら大丈夫だ。
進む先には丘が見える。
あそこを登れば魔吸草が生えているはず。
そう思い、丘を登る。
登った先には葉が竜巻のような巻きこみ型のようになっている魔吸草があった。だが、その先には、小隊規模の隣国の兵士が待ち受けていた。
──ドスッ
脇腹に激痛が走る。
「ファイヤーウォール! 大将! 大丈夫かい!?」
「くっ……大丈夫だ。早く魔吸草を確保しろ!」
脇腹が焼ける様に熱い。
さっきの黄色い稲妻のようなものが刺さったのだ。
サンダーランスだろう。
雷属性は速度が段違いだから嫌いだ。
俺みたいなドン臭いバワーバカとは相性が悪い。
ミナの防御魔法が発動しているうちに魔吸草を採取する。
「ミナ。傷口を焼いてくれ」
「……相当痛いよ?」
「このままだと血を流し過ぎる」
「わかった。行くよ? ファイアー」
「ぐあああああっ!」
脇腹を灼熱の炎が焼いていく。
気が遠のきそうになるのをなんとかこらえた。
「ぐぅぅぅ。はぁ。はぁ。はぁ。採取したか?」
「自分と、ゴンダ。採取完了。これだけあれば。大丈夫だろう」
リスケが魔吸草の束をもっている。
「そんだけあれば上出来だろう。はぁ。はぁ。くっそやろーどもがぁぁぁ! Aランク冒険者たる所以、見せてやろう!」
「大将! 無理しないで!」
「一矢報いる! はぁぁぁぁぁ」
体に白い湯気のようなものが立ち込める。
これは、俺が使える闘気という魔力とは異なる生命エネルギーの力だ。
大剣を最上段へと構える。
「防御魔法、切れるよ! 3、2、1、今!」
ミナがカウントダウンしてくれた。
それに合わせて俺は闘気を練る。
「はぁぁぁ!
白い波のような斬撃が扇状に広がって隣国の兵士たちへと襲い掛かった。
遠くから悲鳴のようなものが聞こえる。
一矢報いた。
俺はやられたらやりかえさないと気が済まない性質だ。
「よし。くっ……退却!」
「ったく。無茶するんだから」
ミナから小言を言われたが、やられたままじゃあ俺じゃねぇ。やりかえしてこそ俺ってもんよぉ。
元来たルートを少し遠回りする様に回り込む。
そうじゃないとまた自国の軍人たちとかち合うからだ。
体に鞭を打って駆ける。
脇腹がとてつもなく痛い。
目が少し霞んできたが、血は流していないから、大丈夫なはずだ。
以前、ヤブ先生に教えてもらったんだ。
怪我をした時に、まずすることは止血。
血が流れない様にすれば、ひとまず助かるらしい。
森へとやってくると、茂みを見つけて座り込んだ。
「はぁ。はぁ。はぁ。くそっ! しくじった! いてぇよ! くそっ!」
俺は思わず近くにあった木を殴りつける。
痛みでイライラする。
「大将、ありがとう。もし大将にあたっていなかったらアタイが負傷していたから……」
そうか。真後ろにいたもんだ。俺はまた自分のことだけ考えていた。
「俺で良かったよ。痛みには強い方だからな」
「すんごい痛がっているくせによく言うよ!」
「いや、痛くねぇ」
「嘘は良くないよ。少し休憩しよう」
「その必要はねぇ、いくっがぁぁぁ!」
立ち上がろうとすると激痛が走った。
焼くとこんなに痛いのか。
しかも火傷は後が残る。
俺は別にかまわない。
傷は勲章だと思っているからだ。
ただ、こんな姿をヤブ先生がみたら、また自分のせいだと思って落ち込んじまうかもな。
「みんな。この傷のことは、黙っておいてくれ! ヤブ先生に心配かけたくねぇ」
リスケとゴンダはそれに頷いたが、ミナは考え込んでいるようで反応がなかった。まぁ、いい。早く戻らねぇとな。
「もう大丈夫だ。行こう」
俺達は、来た道を来た時より速い速度で戻っていた。
先生、もう少しだ。
もう少しで魔吸草を届けるから待っていてくれよ。
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