第39話 絶望からの僅かな光

 体にできていた魔方陣に、どう対処したらいいのか。

 それを考えていたところに、メルさんが戻ってきた。

 しかし、顔色が優れない。


「メルさん、何か情報はありましたか?」


「ウチの頭ではぁ、もう抱えきれないほどの物が出てきたのですぅ」


 頭を抱えながら蹲るメルさん。


「どうしました!? 大丈夫ですか!?」


「はうぅぅぅぅ。まさかあれが必要なんてぇぇぇ」


「何が必要なんですか?」


「エターリプピアーの眠りを解くには魔封薬が必要です。一つは魔草。もう一つが、極めて困難なところにある植物の花粉が必要です」


 そういうことか。その材料が入手困難なところにあるんだ。それで半分あきらめている様な顔なのか。


 ヤコブさんたちなら行ってくれるかも。今度はしっかりと報酬を出せば、足手纏いの僕は行かなくても済む。それならば、どうにかなるんじゃないかな。


「僕に当てがある」


「そうは言っても、魔吸草というのが群生しているのは、今、紛争をしている地域の近くですよ!? 一体誰が行ってくれるんですか!?」


「ヤコブさんという冒険者を知っている。その人なら、行ってくれるかも」


「ヤコブ!? ゴリミヤのですか!?」


「そうです。知っているんですね?」


「この街では有名なパーティですから。そうですか。Aランクパーティならいけるかも……」


 そこへ、ユキノさんが割って入る。


「また、先生が行くなんて言いませんよね!?」


「いや、それはさすがにタイムロスだろう」


「はぁ、よかった」


 ホッとするユキノさんだが、メルさんの顔はまだ曇っている。


「でもぉ。やっぱり無理かもですぅ。エターリプピアーに刺されたら、四日の命らしいですぅ」


「実質、あと三日……」


「諦めても仕方ないと思うのですぅ」


「僕はねぇ、もう昔のように諦めたくないんだ。できることはやるよ。さっそく、ヤコブさんに交渉してみるよ」


 そう言い放ち、駆け足で治癒院を後にした。


◇◆◇


 ヤコブさんの家へと来たのだが、呼びかけても誰も出てこない。


「嘘だろぉ。ギルドへ行ってみるか」


 ギルドへと駆ける。

 そして、いつも苦言を言う受付嬢へと問う。


「ヤコブさんたちと連絡を取りたいんですが」


「現在、ゴリミヤパーティは長期任務の為、この街にはいません。あと一週間は戻ってこない予定です」


 それじゃあ、間に合わない。


「他にAランクパーティはいますか?」


「この街に残っているAランクパーティはいません。依頼ですか?」


「魔吸草という植物の花粉を取ってきてもらいたいんです! 三日以内に!」


「三日以内? 強行スケジュールでもギリギリですね。なんで三日なんです?」


「エターリプピアーに刺された患者がいるんです」


「なるほど……酷ですけど、厳しいですね」


 それは、あの女性の死を意味する宣告だった。


「他のパーティでは無理ですか?」


「魔吸草がどこに生えているかご存知ですか?」


「紛争地帯です」


「そこまでご存知ならわかりますよね? あなたの言っていることは、冒険者に死ねと言っているのと、同じなんですよ?」


 違う。僕はあの人を救いたかったんだ。だから、魔吸草をとってきてほしいとお願いしているのに。でも、その取りに行ってくれた人が死んでしまったら、それは、僕が殺したことになるんじゃないのか?


 それは、人を救おうとしている僕の考えに反しているんじゃないのか?

 でも、患者さんを救おうとするのは当たり前だ。

 だからって、他の人が犠牲になってもいいのか?


 患者を救うために他の人が犠牲になったら本末転倒じゃないのか。この前の軍の兵士も戦いに身を投じて死にそうになっていたじゃないか。彼らがA級冒険者なみに強いのか?


 そういうわけでもないだろ。ただ、軍で連携して敵と当たるのと、冒険者はただその地域に紛れ込んだ人だ。問答無用で攻撃を受けるだろうし、命を奪うことを敵は躊躇わないだろう。


 しかも、こちらの国の兵士だとしても、冒険者は国を証明することはできない。だとすると、敵だとみなされて殺されてしまう危険があるということか。


 ヤコブさんがいないと僕は、こうも無力なのか。

 他人に生かされているとはこのことだ。

 一体どうしたらいいのだろう。


「わかりました」


 頭を下げて受付から遠ざかる。

 誰も受けてくれる人がいないのなら仕方ない。

 僕が行くしかないかもしれない。


 街をフラーっと歩いていると。


「あっ! ヤブ先生だ! 何してるのぉ!?」


 あの子は、毒を受けてしまったマイトくんだ。


「やぁ。元気かい?」


「うん! 先生のおかげで元気だよ! そういう先生は元気がないね!?」


「うーん。ちょっと治療で悩んでいてね」


「そうなんだ! でも、大丈夫だよね! ボクのことだって助けてくれたんだから!」


 あの時は、考え抜いた末に賭けをしたんだ。毒で毒を相殺できるんじゃないかと。そう思ったから行動できたんだ。あれは、毒とわかっていたから。


 魔法が施された患者をどうやって治せっていうんだ。

 僕は、結局誰かの力を借りないと治療ができない。

 だから、誰もいないとなにもできないということか。


 でも、ユキノさん、メルさん、ムーラン、ライトグレー家族が僕にはいる。

 どうにか……。

 ?……何かひっかかる。


 そうか。

 この方法なら、もしかしたらいけるかもしれない。

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