第35話 新発見

 イモンを食べながら軟膏作りについて、考えていた。


「んー。イモンおいしいね」


「そうですね! この味付けがいいです! バターを上からかけて塩を振るの最高です!」


「ねぇ。おいしいよね。そういえば、軟膏ってこの辺にあるの?」


 軟膏を作ろうにもこの世界に作るための素材があるかはわからない。蜂が巣を作る時に分泌する、ミツロウとか植物油も必要なんだけど。ただ、植物油を手に入れるには別の機械が必要になった気がする。前の世界の軟膏を再現するのは難しいだろう。


「この前話していた感じだと、肌に塗るってことですよね? そんな薬ないと思いますよ?」


 そっかぁ。軟膏が無いんだとなじみがないだろうから、ちゃんと使い方を伝えないとなぁ。そして、万が一食べちゃっても大丈夫なように作るとか。むしろ、食べたらおいしくないように作るとか。


「そうなんだ。わかった。じゃあ、自分で作り方考えないといけないね」


「軟膏のことを知っているのに作り方は知らないんです?」


「んー、そうなんだよねぇ。僕、薬師ではないからねぇ」


 そうなんだよね。今までどうにか薬を作ってきたけど、僕は薬師ではない。本来薬を作るのは専門ではないのだ。でも、この世界では薬も欲している。治癒魔法が効かなくなってからそれは顕著に表れているのではないだろうか。


 ご飯を食べ終わると薬を作るための材料の在庫を見てみることにした。なにか使える物はないかと考えるためだ。


 石化はヒビが入っていることがある。小さなヒビなら軟膏で治せると思うのだ。ということを考えると、傷の治りを早める薬草は必要そうだ。それと、傷口へ張り付ける為に粘りが欲しい。治療した後に張る植物の葉を使おうか。


 あれはアロエと同じような感じがする。粘り気もあるし。


「ユキノさん、傷に張る葉を持ってきてもらえるかな?」


「はいっ!」


 薬草とにらめっこしていると、メルさんがやってきた。


「おはよーございまーす。何をしているんですぅ?」


「あっ。メルさんおはようございます。軟膏を作ろうとしてまして」


 そう話すと目を見開いて目を輝かせた。


「ウチがてきとーにしゃべったことを再現してくれるんですぅ? こんなドロドロの脳みそが役に立ってよかったですぅ」


「いやいや、実際塗る薬っていうのもあるからね。今、試行錯誤しようとしているんだ」


 そこへユキノさんがアロエに似た葉を持ってきた。

 お礼をいい、受け取るとナイフで端っこを切ってみる。

 初めて断面をみたかもしれない。


 水分が滴ってくる。

 これを絞るだけでもいいかもしれないなぁ。

 断面の真ん中には、気になるものがあった。


「この白いのは繊維なのかな?」


「あー、こんなの切ったことないから知らなかったですけど、何かあるみたいですね」


 三枚おろしにしてみようと思い立ち、ナイフを入れる。

 スッとナイフが入った。

 白い繊維を引きながらナイフを滑らせると綺麗に縦に切ることができたのだ。


 もう片方も葉を切り離し、繊維だけにする。弾力もあり、粘着性もある。これは、包帯として使えるぞ。


「これ、今度から傷を治した後にまこうか。包帯だね」


「ホウタイ? ですか?」


「そう。これを巻いて、傷口を保護するんだ」


 包帯もこの世界にはないみたいだから、いい発見だった。まさか、軟膏を作ろうとして包帯が見つかるとは。ラッキーだった。


「ヤブ先生はすごいですぅ。こんな植物も使うなんてぇ。軍の腐った脳汁の奴らには考えもつかないですよぉ。アイツ等は、一回ヤブ先生へ地に頭をつけて教えを乞うべきですぅ」


 それもなんか極端な気がするけど。別に、僕の知識を教えないと言っているわけではない。なんなら、治療方法を広めてこの世界を救いたいとさえ思っている。


「そんなことないよ。みんなより、ちょっと経験があるだけだから。みんなにできないことが、たまたま僕にはできるだけ。僕にできなくて、みんなができることなんて数えきれないくらいあるよ」


「知識があることを自慢しないのもすごいですぅ。ウチなんて知識があったら、ひけらかして、教えを乞う奴は跪かせますぅ」


「はははっ。そういうのも力を誇示するためには、いいかもしれないけどね。僕はねぇ。昔、そういう風に振る舞っていて周りに誰もいなくなったんだ」


 大学病院にいた時は、教えて欲しいとゴマをすってくる人に高圧的な態度を取ったり。失敗したら罵倒したり。そんな人だった。あの時はなんにも考えていなかった。力を誇示することしか。


 人の命を亡くして初めて気が付いたんだ。医者っていうのは、威張る者じゃないんだって。患者に寄り添ってあげることが大事なんだって。恥ずかしかった。威張るためにその職へついたのかと言われてもなにも言えなかっただろう。


 だから、誰も助けてくれる人がいなかったんだ。僕のミスだとみんなに責められ、そして地位も失い蹴落とされた。負け犬なんだ。


 それでもまた街医者を開いたのは、何もする気力がなくて無気力な毎日を送っていた時だった。訪れた飲食店で、急に倒れた人がいた。その人を咄嗟に救護したのだ。すると、医者かと聞かれた。一応そうだと伝えると、店主に頼まれたのだ。


 『この街には病院がねぇんだ。最寄りの病院までは遠い。治療が間に合わなくて死ぬ奴もいる。なぁ、病院開いてくれねぇか? この街には、あんたみたいな人が必要だ』


 嬉しかった。僕を必要としてくれる人がいるということが。そして、病院を開くことに決めたのだ。今度こそ、人に寄り添うと誓い。


「ふふふっ。その経験があったから、今の素敵なヤブ先生がいるんですね? 今は、周りに人だらけですよ」


 ユキノさんが、天使のような微笑みを浮かべてそう呟く。

 内側からこみ上げてくるものを抑えるのに必死だった。

 そうだ。この世界でも僕を必要としてくれている。


 もしかしたら、神様が必要としてくれたのだろうか。

 だとしたら、僕はこの世界を救うよ。

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