第36話 軟膏を求めて
包帯の代わりになるものを発見して、勢いに乗っていた。そのまま軟膏も作成に取り掛かる。
「ユキノさん、薬草を潰してもらえる?」
「はいっ! 任せてください!」
ユキノさんに指示を出すと、メルさんも手伝いたいのだろう。何故か手を挙げている。
「メルさんは、この葉から液体を出して貰えますか?」
「はぁーい。こんな何にもできない愚者がお役に立てるならぁ」
へんに卑下たことをいうメルさんにアロエに似た植物の液体採取をお願いして、僕は肝心の石化を治す物の採取にとりかかる。
と言っても、ストーンヒル家族にお願いする他ないのだが。中庭へと行くとムーランが糸にぶら下がっていて、ストーンヒル達はどこかに居るようだ。
「ムーラン、ストーンヒル家族はどこにいるかな?」
その言葉を聞くと、プツンッと糸を切り着地する。奥の方へと消えると少しするとストーンヒル家族を引き連れて戻ってきた。
「連れてきてくれたんだ。ありがとね。みんな、ちょっといいかな?」
ストーンヒル達は体を起き上がらせて話を聞いてくれている。
「君たちの石化を治す何かをこれに出して欲しいんだけど、できるかな?」
少し小さめのガラスの器にした。
それを差し出すとお父さんストーンヒルが器の縁におしりを中に入れて体を外に投げ出す形でダランとぶら下がっている。
身体を震わせると少しずつ液体が底へと溜まっていく。それを見ていた他のストーンヒル達も同じようにぶら下がると、液体を出してくれている。
ちょっと見た目はあれだけど。これは僕しか見ないところだからいいかな。石化を解くためだもんね。
ある程度溜まったくらいでお礼を言い、石をプレゼントする。それには飛び跳ねて喜んで可愛い一面を見ることが出来た。
処置室へと戻るとユキノさんもメルさんも終わるところだった。三人の持ち寄ったものを混ぜるのだが、ストーンヒルから採取したものはなるべく混ぜる比率を少なくしたい。
「薬草をスプーンすり切り一杯分、これに入れてくれるかな?」
「はい! すり切り一杯!」
ユキノさんは張り切っているため、元気に別の小さな木の器へ薬草をのせる。
いつも元気なユキノさんには元気をもらっている。最近は休みをちゃんと取るようにしていらる為、前のように疲れがたまることはないようだ。
「メルさんの作ってくれたものを、スプーンの半分入れてもらおうかな」
「はぁーい。入れますねぇ」
メルさんがゆっくりとスプーンですくってだいたい半分くらいの液体を入れる。そして、混ぜていく。
液体はいい感じに粘り気があって、塊だった薬草のペーストをのばしてくれた。ただ、ちょっとベトっとしている。
器に混ぜられた緑のペーストへストーンヒルの分泌液を一滴垂らす。
これを試すには石化するしかない。
再び中庭へと行くと石化して欲しいと頼む。
最初はムーランが何言ってんだ? 見たいな感じで前足でバッテンを作っていた。
薬の試験のためだと説明すると最小限で激化するように伝えてくれたみたい。少し石化した手を動かしながら処置室へと戻る。
「せんせー! なんで石化してるんですか!?」
「えっ? 軟膏を試すためだけど?」
「またそんな無茶をして! 石化している人に使えばいいじゃないですか!」
「でも、どのくらいで効果が出るか分かんないでしょ?」
「経過を見れば良いだけじゃないですか!」
なんとなく、僕のポリシーなんだと思う。患者さんで実験するような事はしたくない。ちゃんと成果が出たものを使いたい。
「いいんだ。これが、僕のやり方なんだ」
そう話すとユキノさんは少し呆れたようにため息をついた。ただ、メルさんは納得いかなかったようだ。
「ヤブ先生のやり方も理解できるわぁ。でも、自己犠牲は、やり過ぎればただの愚かな行為だと思いますぅ」
その言葉は、胸にグサリと刺さった。僕は、過去の失敗から患者さんを傷つけたり、煩わせるようなことはしたくないと思っている。
それは行き過ぎると愚か者か。たしかにそうかもしれない。石化した所へ軟膏の試作品を塗り、包帯を巻いた。
石化している人は本当に動かしづらいだろう。こんなに違和感があるとは。石化している部分は力が入らないし違和感が付きまとう。
これで、どのくらいかけて治るかを観察しよう。
ユキノさんとメルさんの発言を受け止め、今のやるべき事へと意識を向けていく。
それから三時間経って昼になり、少し石化が解けたくらいだった。もう三時間経つと残り二割くらい。更に二時間で完全に石化は解けた。
ストーンヒルから取れる液体には限度がある。この位の分量で最小限の石化で結果が出るまで、八時間。実際に使ってもらう人には、石化の度合いによっては何回か塗らないと行けないだろう。
それがわかって良かった。
「ユキノさん、石化は治ったよ。治る目安を書いて、石化の大きさによって何度か塗らないと行けない注意書きを書こうか」
「もう、無茶しないでくださいよ? 治らなかったら治癒院に支障が出るんですからね?」
「今度から気をつけるよ。ユキノさん、メルさん、心配してくれてありがとう」
二人に頭を下げると二人とも照れくさそうにしていた。僕なんかを心配してくれるなんて、幸せ者だな。
この軟膏は少し改良が加えられ、治癒院で売り出すことにした。価格は悩んだ末に二千ゴールドとることにした。
これは、石化の治療を治癒院で行った時と同じ値段。同じ効果がある軟膏もその値段にすることにした。
「ヤブせんせー。呼び出しですぅ」
朝来たメルさんは急にそう言い放った。
「誰から?」
「国王ですぅ」
なんか、すごい展開になってきた。
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