第34話 石化、緊急治療
夜が明けて治癒院へと戻ると安堵の顔をしたユキノさんが待っていた。
「はぁ。ヤブ先生、帰ってきたんですね。よかった」
その疲れた顔を見るとなんだか心配させてしまったようだ。申し訳ない気持ちになりながらも、中庭へとストーンヒル家族とムーランを放つ。
「えっ!? なんか、増えてます?」
「うん。石化の治療に必要な子達を連れてきたんだ。このストーンヒル達は必要不可欠。そして、これからの石化へ対する薬を作ることができるかもしれない」
「それはすごいです! 石化で悩んでいる人たちを救うことができますね!」
「うん。まずは、後輩君の石化を治すことだね」
明日にでも後輩君を呼ぼうかなぁと思っていたのだが、事態は急変した。
突然、入口が開かれてドタバタと誰かが入ってきた。
「先生! すまない。コイツ、石化したまま戦場に出ちまって……」
足の石化したところにヒビが入ってしまっていた。
「なんで出てしまったんです?」
「アッシが働かないと家族が食っていけないんす!」
「ですが、これで足がもしダメになったら、まともに歩けなくなるんですよ? その時の方が損失は大きいんじゃないですか?」
「でも、一日出ないだけでも引かれるのがデカいんす……」
焦る気持ちもわかるけど。
安静にしていてほしかった。
でも、もうヒビが入ってしまった。
これはどうしようもないだろう。
おそらく、石化を元に戻しても裂けている状態となっていると思われる。
そこは縫合するしかない。
「一日でないだけでいくら引かれるんです?」
「一万ゴールドっす」
「わかりました。では、十四万ゴールド差し上げます。これから治療しますので、二週間は安静にしていてください」
「えっ?」
後輩くんは目を見開いて固まっている。まさかお金を上げると言い出すとは思わなかったのだろう。でも、それで安静にしてくれるなら安いものだ。
「先生、そんな大金……」
「安静にしていてもらえるなら、安いものです」
「なんでそこまで?」
「私は、ここにくる患者さん、一人一人を大事にしたいんです。生きていく上での相談を受けることがあります。日々、みんな悩みながら生きていると思うんです。患者さんの悩みに寄り添ってあげたいんです」
俯いていた後輩くんは顔を上げた。
「だからって、そんな大金受け取れないっす! それに人からもらったお金だって知られたら、母ちゃんになんて言われるか……」
「話を聞く限り、子育てに一生懸命なお母さんだと思います。そんなお母さんが、子供が怪我をしてでも、これからの人生を棒に振るうかもしれない後遺症を残してでも稼いだお金を、まともに使えると思いますか?」
「それは……」
事の重大さに気が付いていないであろう後輩くんへ諭すように話す。
「十八歳でしたね? これからの人生、まだまだたくさんの可能性が残っています。夢をかなえるにも十分な時間が残っています。夢を叶える為には、後遺症があっても無理だとは思いません。ですが、ない方が夢に近づくとおもいませんか?」
「そうっすけど……」
「回避できる未来があるなら、回避しましょうよ。これから治療をします。しばらく安静にしていれば、以前と同じように歩けると思います」
「本当っすか?」
「はい。ただ、今度は本当に安静にしていないと傷口が開きます。この箇所は、出血すれば危険です」
「わかったっす。お願いするっす」
後輩くんのその言葉に頷くと中庭へと向かい、この石化の元凶とムーランを連れてくる。
戻ってくると二人はポカンとしている。
「先生、なんでストーンヒルがいるんだ?」
「ストーンヒルには石化を元に戻す作用がある液体を出す器官があるんです。こればっかりは信用してもらううしかありませんが……」
「だから、信用してほしいって……なるほど」
後輩くんに視線を巡らせると決意の籠った目をしていた。
「やってくださいっす」
「うん。解除したときに痛いと思うから、これを吸ってもらいます」
それに頷くとシービレの花粉を吸いこみ痺れを起こさせる。
これで、マヒして痛みは感じないだろう。
「じゃあ、ライトグレー親子、この人のふくらはぎを元に戻してくれる?」
手をふくらはぎへと持っていくとヌルッと動いて石化した部分におりたった。
すると、忙しく散らばって行き、縦横無尽に動き始めた。
すぐに効果は出ないようだ。
僕は祈りたい気持ちを抑えながらストーンヒルを見守る。
お願い。どうにか、元へ戻りますように。
「おっ!」
ライル隊長が声を上げる。
後輩くんのふくらはぎが肌色になってきたからだ。
ただ、ヒビの入っているところは痛々しい状態になっていた。
完全に石化が解けると、ストーンヒルを肩へと戻す。
「ありがとう。ムーラン、糸出してちょうだい?」
その呼びかけに答える様に体を震わせるとお尻からピューッと糸を出した。先端を持ち、植物の牙に付ける。そして、ふくらはぎを縫い合わせていく。
最後に血を拭きとり、少し様子を見ると血が止まった。
「うん。これで大丈夫みたいですね」
痺れを取り除き、あらためて後輩くんへ話をする。
「本当に安静にしてくださいね」
ユキノさんが用意してくれたお金を手渡す。
「これは、君に託します。どう使っても構いません」
「……ありがとうございます。しっかりと治します」
そう答えるとライル隊長に抱えられて治癒院を去って行った。
その後ろ姿を見送り、力が抜けた。
「ふぅ。なんとかなってよかった。あとは、軟膏作らないと」
「先生、しばらくイモン生活ですね」
イモンというのは元の世界のジャガイモみたいなやつなのだが、比較的安価で手に入るものなのだ。そして、貧民層は主食にしている。
「そうだねぇ。貯蓄全部渡しちゃったからねぇ。まぁ、どうにかなるよ。頑張ろう」
「はいっ!」
こんなことに付き合ってくれるユキノさんには頭が上がらないのであった。
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