第30話 何か、策は?

「母ちゃんには言えないんっす。だって、アッシらを置いてどっかにいったんすから……」


「正確には、亡くなったかはわからない。ということですね?」


「そうっす。でも、アッシの記憶では強くてカッコイイ冒険者だったんす! アッシ達を見捨てるなんて考えられないんっす!」


 やっぱり後輩くん自身はお父さんを恨んではいないようだ。だとすると、恨んでいるのは。


「母ちゃんが、父ちゃんを恨んでるんっす。置いて行かれたと思っているっす」


 そうなのだろうね。でも、自分が働こうとしないのは……いや。小さい子のことを食べさせるというのはかなりの労力を必要とする。


 働いている体力はないのかもしれない。だとすると、後輩くんが働くのも仕方ないのかもしれない。なにより、後輩くんが働きたいと思っているのなら、それでいい。


「そうだよね。本当は冒険者をしたいんでしょ?」


「そうっす。でも、実は軍は安定して高給を貰えるんっす」


「ふーん。いくらもらえるの?」


「下っ端のアッシでも、月に三十万ゴールドもらえるっす」


 僕は思わず目を見開いた。

 それは破格の値段だった。

 この世界の平均世帯の収入は月に十万ゴールドが良い方。


 その三倍となるとたしかに働けば生活は安定するのだろう。


「それって、全部渡してるの?」


「十万ゴールドだけ、自分にとってあとは母ちゃんにあげてるっす」


 それは、子供が居たとしても贅沢ができるくらいの金額である。


「それは、動けなくなったらまずいでしょうけど……」


「そうなんっすよ。お願いです。どうか、動ける様にしてほしいっす!」


「見たことがない症例なので、少し時間がかかるかもしれません。ですが、なんとかしてみます」


「お願いしますっす」


「でもさ、治ったら冒険者したらどう?」


「安定しないのは、リスクが大きいっす」


「それもそうか」


 言っていることは理解できるし、たしかに正論なんだけど。僕が頂けないのは、自分の意思が入っていないということ。


「ゴウなら冒険者でもやれるさ」


 それまで静かに話を聞いていたライルさんが口を開いた。


「そうっすかね?」


「あぁ。自分は応援するぞ? やってみたらどうだ? 上には話を通しておいてやる」


「……少し考えます。ありがとうございます」


「治るまでの間、軍は休むしかないだろう? その間にゆっくりと考えろ」


「うっす」


 二人が話し終えると診察室から片足を引き摺りながら帰って行った。進行したりしなければいいんだけど。と思いながらどうやったら治療できるかを考えていた。


 今の状態は、ふくらはぎの所が丸々石になってしまっている。あの状態で注射器などいれられないし。刺さった瞬間に真っ二つになりそうな気がするし。


 そうなってしまったら二度と元には戻らない。後輩くんを、なんとか無事に助けてあげたい。


「メルさん、なんか思いつきますか?」


「私ですかぁ? ウチはぁ、クソ固い脳みそでまったく役に立たないと思いますぅ。薬草を塗り付けておくとどうですかね?」


 薬草を塗るのか。それは一回やってみてもいいかもだけど、軟膏は効果が出るのに時間がかかる。その間、あの後輩くんは働けないことになる。


 それもかわいそうだし。でも、戦争だから参加しなくていいんじゃないかという気持ちもある。なんとも複雑な気持ちだ。


 あんな若者が、人を殺すために投入される。それもかわいそうだ。歳をとっていればいいというわけでもないけど。


「それもいいかもしれません。試してみる価値はあるかと。ユキノさんはどう思います?」


「わ、私ですか? うーん。ストーンヒルっていうのがどういう魔物なのかわからないので……」


 そうなんだよね。

 どんな魔物かがわからない。

 そんなことではその魔物の症状に対する対策なんて立てられるわけがない。


「ユキノさん、流石です! またヤコブさんと森へ行ってきます」


「先生、いい加減危険ですよ? この前だってスリープバタフライとかいう魔物にやられて寝てしまったんですよね!?」


 目を吊り上げてこちらに迫ってくるユキノさん。

 いったいどこから聞いたんだろう?

 僕はそんな話していないはずだけど……。


「とぼけた顔しても無駄です。ヤコブさんから聞きましたよ」


 ヤコブさんの裏切り者め。

 なんで僕の失態の話をユキノさんにするんだ。

 まったく。でも、行かないわけにもいかないし。


「今回はストーンヒルの生態をしらなければならない。観察のため、数日留守にするかもしれません」


「そんな長い間ですか!?」


「一日では、なにもわからない確率が高い。最初から数日の日程で行きたいです」


「ヤ、ヤコブさんが良いっていうかわかりませんよ!?」


「そこは、掛け合ってみますよ」


 そういいながらも、ヤコブさんは絶対に首を縦に振ってくれると確信していた。なぜなら、ヤコブさんは命の恩人である僕のいうことを聞いてくれるからだ。


「ヤブ先生、行けるって確信しているんですね? 頬が吊り上ってますよ?」


 僕は嘘をつけない性分だということを忘れていた。

 こういう時に嘘はつけないのだ。

 その後、ヤコブさんに話すと食費だけを払ってもらえるなら行くと言ってくれたので、行くことが決定した。ユキノさんは呆れていたけど、しかたないよね。

 

 

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