第29話 今の仕事で後悔してない?
「先生! いるだろうか!?」
人を抱えてやってきたのは、この前治療したライル隊長さんだった。また誰かが斬られたのだろうか?
「いますよ。どうしました?」
「コイツは後輩なんだが……足が……」
抱えている人の足を見ると太ももの辺りが石のような色になり、カチカチになっている。
また見たことのない症状である。
これはいったいどうなったらこうなるんだろう?
「これはぁ、ストーンヒルに吸われたんですねぇ」
「ストーンヒル? メルさん、この症状を知っているんですか?」
「知ってはいますぅ。ただ、元に戻す方法は知らないですぅ。よく聞くのは、石化した部分を削ぎ落したりですねぇ。じゃないと動きにくいのでぇ」
なるほど、たしかに石化したままだと動きにくいだろう。でも、そぎ落とすっていうのも極端な気がするけど。
それに、後輩くんの石化しているところは、歩くのにも血液を送るのにも重傷なふくらはぎだ。
「先生。どうにかなんないだろうか? コイツはいい奴なんだ。そして、稼ぎたい理由がある……」
軍に所属している人たちは命を懸けてお金を稼いでいるようなものだ。そうとうな理由があるだろうとはおもっていたが。
「ヤブ先生っていうんっすよね!? お願いっす! 俺を働かせて下さい!」
頭を下げるその後輩くん。こんなになるくらいならやめたらいいのにとか思ってしまうけど。そんな簡単な事ではないのだろうか?
「軍を辞めるわけにはいかないの?」
「やめるわけにはいかないんっす! アッシは、親兄弟の為に働かなきゃいけないんっす!」
見た所若い。まだ元の世界なら高校生くらいだろうか。
「何歳なんですか?」
「十八っす!」
「兄弟はどれくらいいらっしゃるんですか?」
「アッシの三個下に弟、二個下に妹、その一個下に妹、その二個下に弟、さらに四個下に妹っす!」
「えぇっと? 六人兄弟なんですね?」
「そうっす! 家にお金を送らなきゃいけないんっす!」
「たしかにそれはたいへんですね。ふくらはぎを切り落とすとなると、確実に歩けなくなります」
後輩くんは、僕に顔を近づけて頭を下げた。
「それだけは勘弁してほしいんっす! どうにかなんないっすか? アッシが働けなくなったら……兄弟と親が、ご飯を食えなくなるっす……」
「ご両親は働いてないんです?」
「親父は冒険者だったんす。それが、魔物に食われたらしいっす。噂っすが。依頼に出掛けてっきり帰って来なかったそうっす」
冒険者とは。ヤコブさん達を一緒か。
「キミは、お父さんと同じ末路になってもいいの?」
「いやっす! だから冒険者なんかやらずに、軍に入ったんっすから!」
少し僕は中空を眺めながら考えを巡らせた。
これは気が付いていないのかもしれない。
「こういっちゃなんですけど、軍で国のためと戦争に加担して、自分の命を懸けているのと。冒険者をしながら魔物と戦っているのではどちらも命を懸けている。同じではないですか?」
「違うっす! アッシは国民の為に働いているんっす! 冒険者なんかとは全然違うっすよ!」
「それは──」
「──お前みたいなわけのわかんない理屈捏ねてる奴がいるから冒険者との関係がよくならないんだわぁ」
急に毒舌が入ってきたと思ったら、メルさんだった。
急に僕と後輩くんの会話に入ってきた。どうしても我慢できなかったみたいだ。
「なんっすか!? あんたは!?」
「軍の治癒士よぉ。ここへ研修に来ているのぉ。冒険者を馬鹿にするなら、魔物と戦ってみたらいいんじゃないかと思うわぁ。勝てないと思うけどねぇ」
「なんでっすか!? 勝てるっすよ! そのくらい!」
後輩くんがその言葉を発するとメルさんは目を吊り上げた。
「お前はぁ、物事の本質がわかってないんだわぁ」
「なんでっすか?」
「冒険者の受けている依頼だって、国民の依頼をこなしてるんだわぁ。ようするに、人助けしてお金を貰っているのぉ。むしろ、敵国を傷つけてお金を貰っている方が愚の骨頂なのぉ」
「それはいいすぎじゃないっすか!?」
後輩くんが前のめりに来たので、メルさんとの間に入る。ライル隊長はこの言い合いを見守ることに決めたみたい。
どちらの言い分もわかるからであろうか。
「まぁまぁ。キミは、お父さんがしていた冒険者という職業を遠ざけているだけではないですか? 戻って来なくなったから。自分が支えていかなければいけなくなったから」
「それは関係な──」
「──国民を助けているという点では同じじゃないですか?」
僕は被せ気味に聞いてみた。
だって、この後輩くんはきっと助けを求めているから。
「それは……」
「辛いんでしょう? 軍で、戦争をしてお金を稼ぎ続けるの」
「違うっす! アッシは……」
「別に、足を諦めろというわけではないですよ。なんとか、治す方法を探ってみます。そしたら、もし治ったら、自分のやりたい仕事したらいいのではないですか?」
「そんなこと……」
後輩くんは徐々に頭を俯かせた。
やっぱり辛いんじゃないかな。
「意地を張らなくていいんですよ? 自分のやりたいことをやればいいじゃないですか! 自分の人生ですよ?」
「だからって、兄弟を見捨てられない!」
「なぜ、君だけが犠牲にならないといけないんですか? お母さんは?」
「子供をみるので忙しいって……」
「だからって、子供にお金を稼がせるんですか? 許せませんね。僕が話しましょう」
「いや、いいんっす。実は、アッシの夢は、冒険者になることなんっす」
後輩くんは、急に静かに語り出した。
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