第4話 陽気なあいつ。

「琴音は弁当に唐揚げ必須派か? それとも玉子焼き必須派か?」



「急に何を言い出すのかと思えば、私はどちらも必須派よ」



「それだと弁当箱の大部分を占めるだろ」



「どちらも入っていないとダメってわけじゃないわよ。それに長年幼馴染やってきて今更すぎないかしら」



「ふと湧いた疑問を解消したかっただけだ」



 拓海に唐揚げと玉子焼きだけのお弁当を作って持ってこようかしら。


 それとも大きなハンバーグのみで埋め尽くすとかどうかしら。




「よ! 上々あげあげコンビ!」




「「うわぁ、出たー」」




「相変わらず息ぴったりだな」



「これは仕方ないだろ、もうその変な呼び方はやめろよ」



「中学3年間で全く浸透しなかったものね。成瀬君しかそう呼ぶことはなかったわ」



「心機一転で高校で流行らせるために頑張ってるのさ!」



「成瀬、もうその絶望的にセンスのない自分から卒業しろ」



「いいじゃねーか、どこがわりぃのかは俺にはわからん」



「成瀬君、その名付けはダサい上に古臭いのよ」




 成瀬重道なるせしげみち、拓海と腐れ縁が築かれてしまって琴音も巻き込まれた。


 ファッションセンスとかは悪くないのに、とにかく言動がやばい、アンバランスさを兼ね備えそれを地で行く2人からしてもやべー奴。




「佐城さんは辛辣だなー」



「成瀬しか使わなかったことからいい加減に察しろって」




(成瀬君、来ちゃったじゃない)

(中学が一緒だったんだろ? クラスが違うから寂しいんじゃないのか)

(にわかなの? あの2人の間に挟まるのはダメ)

(別世界から急に現実に戻された感ある)

(そう、上々コンビには不純物は必要ないわ)

(ここに使ってる奴がいるじゃん)

(2人の会話はろくに聞こえないのに成瀬君の声だけ大きいから妙に耳に残って)

(しらねーぞ、2人に聞かれてあんな顔されても)




「成瀬君の用ってまたあれかしら」



「その通り! 一条、陸上部に入ってくれ」



「もう何回目だよ、何回誘われようが断る」



「また一緒に走って一緒に汗流すのいいだろ?」




 成瀬君は変わらないわね。


 熱心なのはわかるけど、誘い方がちょっと暑いわ。




「たまにでもいいから参加してくれよ」



「それは真剣に部活動してるみんなに失礼だ」



「拓海がまともな事を言ってるから雪でも降りそうだわ」



「琴音、心の声が漏れてるから気を付けろよ」



「大丈夫よ、聞かせてるだけだから」




 一条に言っても駄目、佐城さんに言っても蹴散らされるだけだしな。


 負け越してんだよなー、今なら前よりいい感じになると思うのに上手くいかねー。



 駄々こねてみるか!




「一条たのむたのむー、走ってくれないといーやーだー」




「「うっわ」」




「成瀬、理性を取り戻せ。お前なら出来る!」




 こいつは俺が更生させよう、このままじゃまずい。


 成瀬のためにも俺のためにも良くない。


 琴音の教育上、もっとよろしくない。




「拓海、その決意した顔はなに? 部活動をする気になったの?」



「マジか!?」



「それは違う、目標が出来たから気を引き締めただけだ」




 絶対にろくでもない事を考えてるわね。


 突っ走る前に軌道修正しておかないと駄目ね。




「高校の部活動はレベルが高いんじゃないの? 拓海はしばらく離れてたし厳しいと思うわよ」



「いや、帰りに見かけた時になかなかいい線いけると思ったけどな」




 拓海が立ちはだかってどうするのよ!


 さっきの流れからしておかしいでしょ。


 成瀬君がやる気だしちゃってるじゃない……。




「今日の放課後、俺と勝負しようZE!」



「なんだろうな、語尾がなんかおかしかった気がする。悪寒が全身を駆け巡ったんだよな」



「私は全身に鳥肌が立ったわ」




 成瀬は走るのがそんなにも好きなのか。


 部活動が終わった後なら……駄目だな、下校時間を超えてしまうな。


 でもこれは成瀬の更生に使えるんじゃないか?




「成瀬、陸上部って人数が多いんだよな?」



「あぁ、他の部活と比べてもかなり多いな」



「条件をクリアしたら、一度だけ一緒に汗を流してやる」



「条件を早く教えろ」



「タイムが上位に入る事だ。前に見かけた時に成瀬が遅いほうなのは確認済みだしな」



「成瀬君が遅いほうだなんて、この学校って部活動のレベルが本当に高そうじゃない」



「陸上部の人数が多いだけだ。それに成瀬はスタートがみんなより下手だった。その日に5回確認してるから間違いない」




 なにが見かけただよ、しっかり見てるじゃねーか。


 痛いところを突いてきやがって!




 成瀬はそこまで酷いわけではない。

 一条拓海と中学の3年間を陸上部で過ごしていたし、それなりに自信もある。

 ただ高校の部活動が本当にレベルが高かった、拓海は否定していたがこれは紛れもない事実。




 一条はいい線いけるとか言ってたな……よし! これ以上は考えるのはやめておこ、へこむかも知れないのは回避一択だ。




(ねぇ、成瀬君と一条君が2人で濃厚な汗を流すんだって)

はかどる! どっちが受けでどっちが攻めなの!?)

(なぁ、前に俺が話聞こえるって言ったらドン引きしてきたよな。なんで普通に聞こえてるか教えてくれよ)

(耳がいいのよ)

(俺たちはあの空間を見守り尊さを感じる会だろ)

(ちょっと黙って、BがLの話のほうが大事よ!)

(それを持ち出したのは頂けない、次からは参加するなよ。あの空間を汚すな)




「一条、俺は天下を取ってやる! 待ってろよ、約束を果たさせるからな!」


「休憩が終わるから戻るけど、今日にでも陸上部のみんなを蹴散らしてくる。じゃなー!」




「拓海ってそんなに速かったわけでもないわよね」



「成瀬よりは速く、陸上部全体で比較したら少し速いくらいだぞ」



「それっていい線って言うのかしら」



「いいじゃないか、俺も成瀬も気持ち良くなれるんだから」




(大変よ! 成瀬君と一条君が2人で気持ち良くなるって!)

(あれ? さっきの子は?)

(創作活動が捗るとか呟いて帰っていったな)

(それじゃ名前知らないのは当たり前か、他のクラスの子もいたなんて驚きなんですけど)

(私の佐城さんと一条君の空間を汚すからあなたも会から抜けてもらうからね)




 この日、密かに活動するBとLな会が立ち上げられた。

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