第3話 日常の1コマ。

「これどうかな、似合ってる?」


「似合ってるよ」


「ふーん。もっと具体的に知りたい」



 ワンショットキルの上に死体蹴り!?


 死体蹴りはマナー違反だろっ!



「なんかないの?」


 !!


 あっ……。



「琴音にその総柄の白いワンピースは良く似合ってるし、綺麗な黒髪が映える。前に他の店で買ったミュールがあっただろ? あれと合わせるといい感じじゃないか」


「それにあそこにあるシンプルなブレスレットがその服に合うからオススメだな。さっき待ってる間にチラっと見たけど安いのに安っぽく見えないし財布に優しい」



「ありがと、着替えるから待ってて」


「おう」



 ごぼっ……。


 はぁはぁ、このお店のスタッフさんやるわね、客を気持ちよくさせた上で他の商品に誘導するなんて買わせ上手だわ。



 琴音が買い物に行くと必ず現れる、どこにでもいるのにどこにもいないというショップスタッフの一条さん。


 男性スタッフの一条さんと、女性スタッフの一条さんが存在する。


 毎回、必ずどちらかが現れるがダブル一条さんが揃うと相乗効果は計り知れない。


 実際ミュールを買いに行った時にはダブル一条さんが出現したのでそこそこのお値段のバッグを合わせて購入した。


 まだ会ったことはないが母が懇意にしている店長の一条さんは客に何1つと気付かせない生きる伝説らしいので女店長さんと遭遇するのだけは避けたい。



「お待たせ」


「まだ見て周るんだろ、それ持つよ」



 このお店はアフターケアもしっかりしてるわね。


(ブレスレットと合わせてのご購入ありがとうございます)




「拓海は何か買いたいものないの?」


「特にはないけど、何か食べたいかな。昼飯って食べてきた?」


「食べてないわ、食べてきてないと思ってたから」


「じゃあ行くか」




「それで? 拓海はなぜそれを注文したの?」


「昼飯だから」


「注文した時に気付いていたけどちゃんと聞かないといけないの。そのマキシマム何とかってなに?」



「マキシマムデラックス色々乗せてみましたパフェ」



「私が頼んだのは?」


「バカにしてるのか? オムライスじゃん」


「色々言いたいことがあるけど、せめて頼むなら逆じゃないかしら。 それと今撮った写真はどうするの?」


「春花に送るんだよ、前に送ってもらった写真のお礼みたいなもんだな」



「お礼?」



「これ、春花がこれを食べたらしい。ジャイアントデラックス色々詰め込みすぎてごめんなさいバーガーギガサイズっていうらしい」


「それはそれで逆じゃない? サイズも重複してるから色々と言いたいことしか思い浮かばないわ」


「気にするな、人は追い続けた先にきっとそう名付けたくなるんだよ。たぶんな」


「そのパフェでお腹壊さないでよ」




【春花ちゃん、あのバーガーを食べきったの?】


【お、見た? もちろん完食したし大満足だったよっ! 今度一緒に食べに行こうよっ!】


【行くけど、なんであのバーガーなの?】


【行った先にそれがあったら、ふつーに追うよね?】


【うん、わかったわ。また連絡するわね】


【またねーっ!】




 とりあえず拓海語録ページ数アンリミテッドと別冊春花語録以下略に記載しておかなくちゃ。



「すごい勢いで食べてるけど、大食いで有名になりたいの?」


「溶けたらそれはもうほとんど液体じゃん。それに有名になるなら他のことがいいな」


「拓海が有名になるとしたら、どんなことでなりたいのか気になるわね」


「相対性理論を突き詰めた先には何か他の理論が思い浮かぶのか、矛盾が見つかるのかとか」


「まずは学年で1位になってからね。それでもスタート地点にすら立てないのに」


「春花と同じことを言うな、学年1位なんて取れるわけがない」



 春花ちゃんから色々聞いているけど何気なく話してそうなところほど濃いのよね。


 2人に混ぜるな危険ラベルでも貼っておこうかしら。要検討ね。



 拓海と春花ちゃんが大食いに挑戦してるところを見てみたいから帰ってから大食いチャレンジのお店を探さないと。2人なら喜んで挑戦するはず。




「げっそりとした顔してるわね」


「あのパフェ美味しかったなって」


「顔とセリフが合ってないから怖いわよ」


「固形から液体に変わりだすとしんどくなるな。食べてる感じしないときつい」



「イメージだけどラーメンとか量がすごいのとか大食いとかありそうじゃない?」


「麺は伸びたらやばいだろ」


「急に冷静に返されたら困るんだけど。パフェで頭が冷えたのかしら」



 まぁいいわ、今は優先しなきゃいけないこともあるから。


 そろそろあそこに連れていってもいい頃合いよね。




「お化粧するのってどう思う?」


「いいと思うけど、うちの学校ってどこまで大丈夫とか知らない」


「進学校だからかあまりにも濃い化粧だと指導されるらしいわ、だから拓海には鏡代わりになってほしいの」



「鏡代わり?」



「自分で試すと鏡を見ないといけないけど、拓海で試せば直接見れるし試しやすいでしょ」


「待て、それはおかしい。俺にしても何の参考にもならないだろ。あと進学校の定義を返せ、全国の皆さんに申し訳ない」



 これは春花ちゃんのためだし、私も見たいから成功させなきゃいけないのに難しいわ。


 ここは春花ちゃんの案を試してみるしかないわね。



「私、泣くわよ」


「泣き返すけど」


「地獄しか生まれないから泣くのはやめておくわ」



「よし! 地獄が広がる前にぶらぶらして適当な時間に帰ろう!」




 その夜、琴音は春花に電話で報告する。




『春花ちゃんの案は通じなかったわ。泣くって言ったけど駄目だったもの』


『泣くのを堂々と伝えたらダメだよ……。ちょっと待ってね、聞いてみるから』



『「おにぃちゃーん! 私が泣き叫んだらどうするー!?」 「いくら払ったら泣き止んでくれるんだー!?」 …って感じ』



『今のやり取りにお金が発生する点なんかあった?』


『これぐらいは普通だよー。あっ切るね、お兄ちゃんが本当にお金を持ってくる気配がする。ばいばいっ!』



 ずっと一緒にいるのにいつも普通っていったい何なのかなって考えさせられるわね。



 どうなったのかは明日にでも聞かないと。

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