第2話 兄が兄なら。

「お兄ちゃん、おかえりーっ!」



「ただいま!」




 いきなり登場したのは誰か気になるって?




 お兄ちゃんって呼んでるから、わかると思ったのになー。




 お兄ちゃんの天使こと一条春花いちじょうはるかっ!




 中2! 好きな言葉は思い立ったが吉日!



 兄妹仲は極めて良好、お兄ちゃんから大切にされてるよ!



 お兄ちゃんがたまにポストする時は大体が私のこと。


 いつも一言だけど、あれは成長記録を残してるつもりなのかもしれない。パパかな?




 お兄ちゃんのアカウント名はengelの後に私の名前の頭文字が入って数字とかが続いたりするけど、engelとくっついてるからそこはかとなく危ない香りを漂わせてるよ。



 女の子は精神的な成長が早いし少女マンガはなかなかあれだからわかる。大人の匂いしかしない。




 でも指摘はしない、嬉しいからねっ!




「お兄ちゃん、遅かったね」



「琴音とジムに行ってきたから」



 焦れったいなー、お兄ちゃんと琴音ちゃんが付き合うという気配がまだ漂ってこない。



 付き合いましたって報告をずーっと待ってるのに。




 ちょっとここで私の立場を表明しておくね!



 琴音ちゃんを全力で応援してる!



 琴音ちゃんはお兄ちゃんと幼馴染であると同時に、私の幼馴染でもありお姉ちゃん的な存在。



 お兄ちゃんと仲は良いし優しくて大切にしてくれるから神と讃えてはいるけど実兄と実妹の間に恋愛感情なんてなし。




 あるのは家族の絆と兄妹愛っ!




 高校生になったらすぐにでも付き合うと思ったのにおかしいなー。



「琴音ちゃんを送ってきたー?」



「隣なのに送るとかないって、普通に一緒に帰ってきた」



 今日も変化は見られない。



「ちゃんとかっこつけてきたー?」



「まかせろ! それは問題ない」




 お兄ちゃんと私の間には齟齬がある。



 お母さんに似てお兄ちゃんと私は中性的な顔立ちをしてるから、お兄ちゃんは言葉遣いだけでも男らしくしようとしてるけど帰ってくるとほぼ素に戻る。



 涙ぐましい努力を応援してるからね、お兄ちゃん!



 でも私が知りたいのは琴音ちゃんにかっこいいところを見せてるかどうかなのだけどダメっぽい。


 前に3人でジムに行った時は2人は会話もせずに淡々と走ってて、それは違うよ! って叫びそうになったけど堪えた。




 お兄ちゃんには妹からの愛ある罰としていずれ女装させようと企んでいるけど今は我慢。


 思い立ったが吉日の私が我慢してるんだから必ず行う。これは譲れない絶対にっ!




「琴音ちゃんと何か進展あったー?」



 よしっ! ぴくって反応を確認、問題なしっ!


 意識してるのは相変わらずなのに。




「幼馴染から琴音ママにランクアップしたんでしょ?」



「春花、待って。それは色々誤解を生むから」



「なら言わなきゃいいのに」




「そこに掴むべきものがあったら掴みにいくって」



「それはわかるけど、黒歴史になるよ? お父さんみたいに」




「父さんを例に出されたら気をつけようと思うな、わからさせられた」



「お兄ちゃん、今のは掴みにきたらダメだよ……また我が家が凍るなんて経験はしたくないよ」




 そうあれは忘れもしない、私が中1でお兄ちゃんが中3の時にその大事件は唐突に起こる。



 主にお母さんが料理動画や動物の動画を観るためにリビングに置いてあるタブレット。



 まだ私がスマホを持っていなくて、動画でも見ようとしたらおすすめ欄に出てきたのは……メ◯◯◯の動画ばかり。




 webの検索履歴にも大量に残ってた。




 私は即座に行動に移したよ、犯人はお兄ちゃんかお父さんしかいないから。


 私が取った方法は至ってシンプルでお母さんのいないところで◯◯◯キの動画ばかりを観てる人って投げ掛けただけ。



 この時の反応で犯人はすぐに分かったから、私はあとからさり気なく犯人にこれからは見つかるような事はやめてって伝えようと思った。




 けれど大事件の幕はここから開いた。




 そのあとに隠れてそっとお兄ちゃんに1万円を差し出すお父さんを見てしまった私はブチギレた。


 中3にとって1万円は大金だよ、お兄ちゃんも揺れ動いているのが見て取れたし危なかった。



 お兄ちゃんを守るために即座に動いた私はお母さんに全てを報告。報連相は大事。



 なぜお父さんがタブレットで観てしまったのかは両親の間でしかわからない。


 その次の月から私たち兄妹のお小遣いがなぜか上がったけど出所は知らないし聞かない。




 墓場まで守り通さないといけない秘密と共に私は甚大な傷を背負うことになるけど、いざとなったらお父さんに「ざぁこ」と言うのも辞さないつもり。



 切り札を持つのは大事だとお母さんから学んでいる。


 うん、これからも集めていこう。



 あの事件以降しばらく寒波に襲われたけど両親は仲良くしてるので問題なしっ!




「あの年はうちだけ夏がこなくて寒かったな」


「電気代安くなるかもって思い付いても試したらダメだからね、私も試すのはしないんだから」



 私たち兄妹の長所でもあり短所でもあるのは想像力と妄想力が高い上に即行動に移すフッ軽さ。



 我慢できるのはこの性格の持ち主の聖母の存在が大きい。


 聖母はそのせいで苦労したからって、先人の教えとしての教育が半端ない。



 たぶんお父さんの影響かな?

 


 兄妹とも少し迂闊さがある気がするよ、ギリギリを攻めたくなるところとか。




 けれどそこをしっかりと抑えてくる聖母の教えは偉大っ!


 お母さんの厳しい教えがなかったら、お兄ちゃんも私もやりたい放題でお母さんに凍らされちゃってたかもしれないんだからっ!



 さっきも危なかった、事件を語る内にポロっと何か出ちゃいそうだったよ。



 セーフっ!




 それにしてもお兄ちゃんなら高校に入学しましたっ! からの付き合いましたっ!

 っていう流れもあるかなって少し期待してたのになー。



 幼馴染だから慎重になるのかな?



 琴音ちゃんはいつでもウェルカム状態だよ。



 琴音ちゃんは好意を匂わせてるだけのつもりっぽいけどダダ漏れしてるもん。



 んー、逆にそれがわかるからお兄ちゃんは慎重になってるのかな。



 琴音ちゃんも今の状態を楽しんでるみたいなところもあるし。




 私は恋をしたことがないから全くわからない。


 少女マンガとwebとかに転がってる知識しかない。



 琴音ちゃんを応援してるし、琴音ちゃんに聞かれたらお兄ちゃんのことなら何でも話すけど私が出来るのは後押しくらい。



 それ以上はしたらダメってことくらいはわかるもん。



 私の大切なお兄ちゃんとお姉ちゃんだから焦れったく思いながらも見守るしかない。

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