第5話 やってきました。
琴音は思いのまま動く。
自分が見たいのだからしかたがない。
2人のそばにいて多分に影響を受けている琴音は性格はまるで違うものの、ある1点においては2人を超えるフッ軽さを発揮する。
1ヶ月前。
とあるバーガーショップにて。
「琴音ちゃーん! こっちこっちーっ!」
「春花ちゃん、待たせてしまってごめんね」
「そんなのいいよっ、食べる前に食べてたし」
春花の前にあるのは食べ終わっている普通のセット。
春花ちゃんのいう食べる前に食べてたって意味が全くわからないわ。
きちんと理解をしていてもすんなりと受け入れるのは
とっくに踏み込んでいて、よく知っている相手でもこればかりはしかたない。
「それじゃ、行こっ!」
「ジャイアントデラックス色々詰め込みすぎてごめんなさいバーガーギガサイズを2つお願いしますっ!」
たっか! 思ってた以上に高いじゃない……。
「ありがとうございます、特別メニューで少しお時間が掛かりますのでお席にてお待ち下さい」
「琴音ちゃんとこられて良かったよー! 美味しいものを一緒に食べるのっていいよね、共有できるのが嬉しいって感じかな?」
「そうね、私も興味あったから楽しみよ」
「でしょでしょっ! 美味しくてびっくりするからっ」
びっくりした、食べる前に。
「春花ちゃん、バーガーを頼んだだけよね?」
「そうだよ? 間違いなく、ジャイアントデラックス色々詰め込みすぎてごめんなさいバーガーギガサイズであってるよっ」
「単品からセットになってないかしら」
「これで1つ、単品だよ。バーガーにおまけが付いてくるって感じなんだから」
「単品なのに最後にセットなんて付けたら3文字も増えちゃって注文しにくくなっちゃう。お店の気配りが行き届いてていいよねっ!」
「名前については疑問に思うけど、たしかに行き届いてるわね」
大きすぎるバーガーに1つ1つが大きく量のあるポテト、手で持つには無理があるドリンク。
その隣にはナイフとフォークが添えられている。
ちゃんと食べやすいようにナイフとフォークあるなんて最高じゃん! きめ細やかすぎる!
「琴音ちゃんなら大丈夫だと思うけど残すのはダメだからね、1回でもすると出禁になってもう来られなくなっちゃうから」
なるほどね、イタズラ対策も万全と……。
頑張る方向が偏りすぎてないかしら。
「っで! 琴音ちゃんの相談ってのが気になってワクワクしてるから早く聞きたいっ」
琴音は簡潔に内容を話す。
「なるほど……」
あれ、結構難しいかしら。
「3人で誰が頂点に立つか決めたいんだねっ! りょーかい、いつか来ると思ってたよっ!」
3人? 決める?
「琴音ちゃん、どうしたの? きょとんとした顔して」
「3人って拓海と春花ちゃんと私よね?」
「うんっ! 他にも誰か呼ぶの?」
「呼ばないけど……2人じゃなくていいの?」
「もうっ、琴音ちゃん水くさいよー。私たちの仲なんだよ? それに主催者がいないとパーティは始まらないよっ!」
やってきた約束の日、それぞれの前にあるのは巨大なカレー。
どれだけの皿を積み上げられるかのシンプルな勝負!
参加者は驚きの30名、1本勝負のバトルロワイヤル。
参加費用はお高いものの1位には賞金あり。
主催者(?)は琴音、挑戦者3名のスポンサーは両家の母。
6つ離れた駅の先にある商店街、琴音が調べ上げたカレーの大食い大会にて熱い挑戦を今迎える!
スタートを切り1皿でも十分な量なのに3人とも4皿目に突入していた。
高校生に中学生、強者がそこにいた。
少しずつ脱落していく参加者もいるが止まらない。
均衡が崩れたのは琴音が脱落した時点。
「琴音ちゃん、ナイスファイトっ!」
「水でも飲んでゆっくりしてろよー」
琴音、16位。
「お兄ちゃんっ! 琴音ちゃんが脱落したいま、兄妹対決だよ。相手がお兄ちゃんだからって負けにいったりしないよっ!」
「話してていいのか? 先にいくぞ」
この季節にカレーはなかなか暑いわね。
しばらくカレーを食べるのは無理そう、食べ過ぎてきついわ。
琴音は2人よりも早く脱落してしまったが、やっと見たいものが見られる。
望んでいた2人が挑戦する姿をのんびりと観戦できる。
春花ちゃんの身体のどこにあれだけのカレーが収まるのかしら。
自分自身を比較対象には入れない。棚上げ。
なかなかすごい光景ね。30人も集まるなんて有名なのかしら。
琴音からすれば、ただ見たいと思いみつけたイベントでも商店街からすれば生き残りを賭けた戦いである。
まだキラキラとした瞳をしてるのね。
見た感じ春花ちゃんの方が優勢じゃないかしら、すごいわね。
結果。
「お兄ちゃん、私はもうここまでだよ……」
終わってみれば、春花6位、拓海5位。
「お兄ちゃん、私悔しいよっ!」
「気持ちはわかるけど、頂点に立つ人をしっかりと讃えるんだ。俺たちが向かう先にいる人だからな」
この兄妹はどこへ向かっていきたいのだろうか。
「拓海と琴音ちゃんは惜しかったわね」
「俺たちはまだまだだな。一位の人を見てみろ、まだ食べられるって顔してるだろ」
「そうだね、スタッフの人が止めないと食べ続ける気だったもんねっ」
「でも楽しかったんでしょ?」
「おう、いい経験になったからな。またみんなで大食いにチャレンジするのもいいかもな、他ならいける可能性もある」
「あれだけ食べたのによく言えるわね」
「俺たちの戦いはこれからだ」
「それマンガでよくある打ち切りの最終回じゃない」
「お母さん、今日の大食いのメニュー教えてなかった?」
「カレーでしょ、覚えてるわよ」
「夕飯にカレーを被せてきたのは?」
「一条さんと話してたの。大食いだと味わう暇がなさそうだからかわいそうかもって」
「だから一条さんと最高に美味しいカレーを作ろうってなったの。拓海くんと春花ちゃんも食べてる頃だと思うわよ」
「うん、美味しい」
夕飯は母たちの愛情がたくさん込められていた。
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