第3話 出会い

 永続的に健康体で過ごせる身体だが、腹は減るらしい。

 何も食わなくても栄養失調にはならないのかも?

 でも空腹感は残り続けそう。

 それは避けたい。

 温泉から上がった俺はメシを調達することにした。


 自慢の十徳工具はなんと猟銃にも変化可能だった。

 今はそれを握り締めて散策中。


 猟銃は散弾タイプ。

 なので遠距離じゃなくて近距離で撃たないといけない。


 さあ、何か出て来い。

 でも変なモンスターは勘弁。

 熊も怖い。

 鹿辺りでオナシャス。


 ……。


 現実は野ウサギだった。

 散弾は多少オーバーキルだったが、とりあえず1羽仕留めて満足。

 拠点に戻った。


 日が暮れてきた。

 血抜きしつつ、十徳工具をライターに変えて焚き火をおこす。


 血抜きした野ウサギの肉はナイフモードで捌いた。

 十徳工具の「過程をすっ飛ばす」効果が発動して、ナイフを入れたそばから綺麗なおろし状態になってくれた。

 イイネ。


 肉を枝に刺して焚き火で炙る。

 味付けは出来ないけど、贅沢は言えない。


 はあ。

 にしても、まったりと過ごせていいな。

 社畜として慌ただしかった毎日がウソのよう。

 急かされる事象がないって最高だ。

 夜中に仕事のLINEが来たり、電話が来たり、応じなかったら怒られたり。

 そういう理不尽、もうないんだろうな。

 このまま温泉のほとりでのんびり生きていこう。


 そういえば、この温泉ってどういう効能?

 分からん。


「お、焼けてきた」


 野ウサギの肉は直火に触れさせず、熱気で炙るようにしている。

 脂がじゅわじゅわと染み出してて旨そう。

 塩胡椒だけでもあれば最高なんだが、繰り返しになるが贅沢は言えない。

 死んだヤツがコンティニュー出来てるだけ儲けモンなんだ。

 

 ――ガサゴソ。


 そんな折、どこからか物音。

 草木が揺れるような……。


 なんだろう……動物?

 俺は周囲をキョロキョロ。


 すでに暗くなっている。

 何も見えない。

 ……怖い。


 この世界って異世界なわけだし、野蛮な山賊とかが居ても不思議じゃない……。

 でも神様がわざわざ危険地域に俺を再構成したとは思えない。

 だから今の物音は山賊とか危険なモンスター、ではないと思う。

 でも熊くらいならありえるか……?


 心臓がバクバク言ってる。

 俺は十徳工具を投光器に変えて、物音の方向を照らしてみた。

 そして、


「ま、待って……敵じゃないわ……っ」


 投光器の圧倒的な光源にビビったかのような声。

 てか眩しすぎて俺からしても声の主が見えない。

 投光器の光量を下げる。


「……女子?」


 ちょうどいい光量の向こうには1人の女の子。

 民族衣装的な格好で草木の間に立ってる。

 長くて白い髪の毛。

 背中にはリュック。

 しかもよく見れば、その子には耳と尻尾がある。

 どっちも狼チック。

 獣人ってコト?


「……なんだ君は?」

 

 往年のコント番組みたいな問いかけをしてしまう。

 これで彼女が「なんだチミはってかっ?」と応じてくれたら泣いて喜ぶけどそうはならなかった。


「わ、私はセーラ……旅の者」


 セーラと名乗った彼女は続けてこう言ってきた。


「お、お肉の焼ける匂いに釣られてしまったわ……丸2日くらい水しか摂れてなくて……よければ、その……」


 なるほど、お腹が空いてるらしい。

 こういうときは助け合い。

 情けは人のためならず。

 良いことをしておけば、巡り巡って自分に返ってくるかもしれない。

 そんなわけで、


「もし塩持ってるなら助かる」


 俺はそう言って彼女を手招きした。

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