【完結】陽炎(作品230623)

菊池昭仁

陽炎

第1話 愛が生まれた日

 地元の居酒屋で、私は親友の修一から修一の恋人、三浦涼子を紹介された。



 「紹介するよ栄次、俺のカノジョ、三浦涼子。

 どうだ? すっんげえ美人だろう?

 同じ高校の音楽の先生なんだ。

 涼子、栄次は俺の高校時代のダチでさ、すげえんだぜコイツ。

 イケメンで東大出てマサチューセッツ工科大学に行って、それからNASAだぜ。NASA! 天才だよコイツ!

 栄次の実家は代々地元では名の知れた豪農の一人息子でさあ、家を継ぐために仕方なくアメリカから戻って来たんだよ、かわいそうな奴だろう?

 だから涼子、音大時代の友だちとか紹介してやってくれねえかなあ?」

 「いいよ俺は」


 グレープフルーツサワーを飲んでいた涼子が言った。


 「いるわよ、ひとり」

 「ホントか?」

 「凄い美人でね、オッパイはCカップでちょっと小さいんだけどね、感度は抜群。多分、あはははは。

 性格も明るいし、なかなかいい子だよ」

 「良かったじゃねえか栄次! 音大だぞ音大。

 清楚でエロいなんて最高じゃねえか!

 まあちょっとオッパイはしょうがないとして、どうだ栄次? 会ってみるか? 会ってみるよな?

 それで涼子、その子は今どこにいるんだ?」

 「ここよ」

 「ここってお前?」

 「私のことよ、三浦涼子。

 どう、栄次君? 私じゃダメかしら?」


 修一と私は笑ったが、涼子は笑ってはいなかった。

 涼子は私をまっすぐ熱い視線で見詰めていた。


 「でもなあ、涼子にはイケメンの彼氏がいるしなあ」

 「イケメンの彼氏? どこにいるの? イケメンの彼氏どこ?」

 「いるだろ? お前の隣に」

 「あっ、忘れてた! イケメンなんて言うから、探しちゃったわよ、どこにいるのかしらって、あはははははは」

 「兎に角だ、栄次に女を紹介してやってくれよ、栄次は俺の大切なダチなんだからよ」

 「はいはい、わかりましたよ。

 栄次君はどんな女の子が好みなの?」


 美しい人だと思った。

 絹のように艶やかな栗色の髪と透けるような白い肌。

 鳶色の瞳に吸い込まれてしまいそうだった。


 だが本格的にピアノをやっていただけあって、指だけは男のようにゴツゴツとしていた。

 それはピアニストの手だった。



 「農家の長男に来る嫁なんていないよ」

 「そんなことないわよ、私、土をいじるの大好き!

 実家でも母が家庭菜園をやっていてね? 子供の頃からよく手伝っていたから。

 朝、もぎたてのトマトとか、すっごく美味しいわよね?」


 涼子が、ただ美しいだけの女性であれば「綺麗な人だな」で終わっていたかもしれないが、時折見せる彼女の寂しげな横顔が、なぜか私は気になった。




 二次会は行きつけのスナックにやって来た。

 修一はかなり酔っていて、とてもご機嫌だった。

 久しぶりに私に会い、自慢の彼女、涼子を紹介することが出来たからだろう。




 修一は尾崎豊の「シェリー」を熱唱していた。


 曲が終わり、


 「ちょっとオシッコしてくる」


 と、修一が言うと、涼子はそれを窘めて笑って言った。


 「言わなくていいから黙って行ってきなさい。

 ねえ? 栄次?」


 いつの間にか涼子は私のことを「栄次」と呼び捨てにしていた。



 修一がトイレに立つと、

 

 「ねえ栄次、私とデュエットしない?」


 涼子の#太腿__ふともも__#が私の太腿に触れた。


 「何を歌う?」

 「愛が生まれた日」



 ママは笑いながらカラオケのリモコンを操作し、私と涼子の前にマイクを置いた。


 今思えばこの日が、私と涼子の『愛が生まれた日』だったのかもしれない。


第2話 晴美

 一週間後、修一から電話が掛かって来た。


 「栄次、今度の金曜日なんだけど、空いてるよな?

 カノジョもいないお前だから、どうせヒマだろう?」

 「俺はいつも暇だよ、どうした?」

 「じゃあまた、この前の『春団治』に7時な?」

 「いいのか? 俺が一緒で?

 涼子ちゃんとデートだろ? お邪魔じゃないのか?」

 「今度はお前が主役だ! 俺と涼子はお前たちの仲人さん! 愛のキューピットってワケだ、あはははは」

 「俺が主役?」

 「正確には「お、ま、え、たち」だけどな?

 お見合いだよ、お、見、合、い」

 「見合いなんていいよ。まだ俺は半人前だから」

 「いいからいいから、心配すんなって。

 俺に任せておけって。涼子の音大時代の友だちなんだ。

 俺も一度だけ会ったことがあるんだけどな、すっごいかわいい子だから、期待して来い  

 よ。な、栄次?

 彼女の方は結構乗気だそうだ。ほら、この前三人で写メ撮っただろう? イケメンだって喜んでいたそうだ。

 ちなみに男と別れたばかりで今が狙い目だぞ。

 当日、お持ち帰りもあったりしてな? アハハハハ

 時間厳守だからな、遅れるなよ。じゃあ金曜日、7時だからな、絶対来いよ!」


 修一はそれだけ言うと、一方的に電話を切ってしまった。



 

 

 週末、金曜日の夜は、古いフランス映画のような小雨が降っていた。

 涼子とその友人の女の子は、少し遅れてやって来た。



 「ごめんなさい、遅れちゃって」

 「初めまして、三井晴美です」

 「どう? 栄次、凄くかわいいでしょ? 晴美ちゃん。

 涎が出ているわよ栄次のエッチ。うふふ」

 

 涼子は悪戯っぽく笑ってみせた。

 笑った笑顔がとても可憐だった。


 「ホントだ、涎が出ちゃうな。わはははは。

 アイドルみたいだろ? 栄次?」

 「褒め過ぎよ、富田君。

 でも涼子には負けるわ、涼子は女優さんみたいな大人の美人だから。

 それに比べたら私はまだお子ちゃまよ。

 でも、お酒なら涼子に負けないわよ。あはっ」

 「晴美ってこんなに小柄でチャーミングなのに、お酒は底なし沼なのよ。

 だから下心のある男性は、みんな撃沈されちゃうんだから」

 「こんばんは。はじめまして、上田栄次です」

 「どうだい、晴美ちゃん? コイツ、実物はもっとイケメンだろう?

 それに大地主の倅で東大からマサチューセッツ工科大の秀才。

 おまけにNASAの主任研究員だったんだぜ。

 NASAだよNASA、あのスペースシャトルのNASA!

 高校時代は俺と同じラガーマン。コイツがキャプテンで全国優勝。

 どれほど神様に愛されているのかねえ? 栄次の奴」

 「すごーい! スーパーエリートさんじゃないですかあ!」

 「ただの農家の長男ですよ、女子が嫌う」

 「そんなことありませんよ。私、お野菜とか作るの大好きなんです。

 ちっちゃい頃から泥だらけになって遊んでましたから」

 「晴美も中々のお嬢様なのよ。

 お母さんのご実家は誰でも知ってる、あの有名な戦国武将の末裔でね? お父さんは 

 病院経営をしていて地元では知らない人は誰もいないお金持ちなのよ。

 お兄さん二人と、妹さんもドクターだしね?

 私はピアノ科だけど晴美はチェロ科。

 プラハにも留学した経験がある才媛よ。

 それなのにいつも気取らないの。私の親友だから大切にしてあげてね? 栄次」


 「栄次」と私を呼び捨てにして微笑む涼子に、私は心を奪われていた。



 私と晴美はすぐに打ち解けることが出来た。


 「わかるわかる、もぎたてのトマトってとってもおいしいわよねー。

 私も大好き! よく母の畑からこっそり獲って食べてましたもん。

 あの少し青臭いところが最高なのよねー」

  

 晴美は本当に酒が強かった。

 生ビールの大ジョッキを5杯、その後に大吟醸を五合も飲んでいた。

 それでも顔はほんのり桜色になるだけで、肝機能は欧米人並みのようだった。


 修一はいつものように既に出来上がってしまい、居酒屋の座布団を枕に寝かされていた。



 晴美の飲み方はとてもエレガントなものだった。

 決してだらしない飲み方ではなく、明るく楽しい品のある飲み方だった。

 晴美と涼子がいると、居酒屋が王宮のようにさえ感じた。

 酒の飲み方にはその人間の品性が出るものだ。

 晴美の育ちの良さが窺えた。



 「お似合いよ、ふたりとも。羨ましいくらい」

 「何を言ってるのよ、涼子。

 あなたたちの方こそ、ラブラブのくせにー」

 「寝ちゃってるラブラブさんだけどね?

 この人、お酒に弱いくせにお酒が好きなのよ。

 お酒が好きというより、こうしてみんなといるのが楽しいんでしょうけどね?

 寂しがり屋さんなのよ、彼」


 涼子はカシオレを飲んでいた。

 グラスを口に運ぶその仕草が悩ましく、すらりと伸びた細くて白い腕を見た時、こ 

 の美しい肢体を修一が自由にしているのかと思うと、その艶めかしい光景を私は想

 像してしまった。



 「栄次、お代わりは?」

 「じゃあ同じ物を」

 「すみませーん、ハイボールをお願いしまーす」

 「あと、私も大吟醸!」

 「まだ飲むの?」

 「だって久しぶりに美味しいお酒なんだもん」

 「よかったね? 栄次。

 晴美がお気に入りなんてめずらしい事なのよ。

 中々ハードル高いんだから、晴美は」

 「何よ、涼子。さっきから栄次、栄次って呼び捨てにしてー。

 まるでアンタたちが付き合ってるみたいじゃないのー」

 「もしかして妬いてる?

 じゃあ、こんなこともしちゃたりしてー」


 すると突然、涼子が私の腕に抱きついてみせた。

 彼女のやわらかい胸の感触が腕に伝わる。



 「こらー、ダメダメ! 私の栄次君、じゃなかった栄次だぞー! あはははは」

 「ゴメンゴメン、晴美お嬢サマーっ!」

 「わかればよろしい。ちと栄次に近いぞよ、離れるがよい、涼子。アハハハハ」


 私の腕を離した際、涼子はさりげなく私の肩にボディタッチをした。

  


 「修一、帰るわよ」

 「あ、うん・・・。 今、何時?」


 修一は半分寝ぼけている様子だった。



 「もう11時だよ、ほら帰るわよ。

 晴美もウチに泊まって行くでしょ?」

 「栄次のところに泊まるー」

 「ホントに?」

 「ウソぴょーん、次はわからないけどねー。あはははは」


 晴美はそんなに酔ってはいないと思った。彼女は酔ったふりをしているように見えた。

 私は完全にイニシアチブを晴美に握られてしまっていた。



 「じゃあ、栄次。またね、おやすみ」


 帰る時、晴美は振り向きざまに私の頬にキスをした。


 「おやすみ、栄次」

 「晴美、やるーっ! 良かったね、栄次!」


 でもその時、涼子が悲しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。



 私は彼女たちと修一をタクシーに乗せて見送ると、今日の涼子との余韻を忘れることがないように、コルトレーンしかかけない馴染みのジャズ・バーに寄り、閉店までひとりで過ごした。


 店を出ると雨に濡れた夜の舗道を、一匹の白い猫が横切って行った。

 


第3話 デートの誘い

 三日後、晴美からLINEが届いた。



     先日はとっても楽しかったです

     久しぶりに大笑いしてお腹が痛い(笑)

     今度 ふたりで会いませんか?

   

                       いつがいいですか?


     土曜日はいかがですか?

     

                       何時にどこで?


     今、電話しても大丈夫?

     文字を打つより話した方が早いので



    

 私は返事を送る代わりに電話を掛けた。


 「もしもし」

 「栄次さんて、女の子とあまり付き合ったこと、ないでしょう?」

 「ええ、まあ。

 そうですね、ありません」

 「でも、なんだか新鮮。普通の男性ならグイグイ来るのに、そんなおっとり刀はあなたが初めてよ。

 だから私から連絡しちゃった」


 だが、それは彼女の思い違いだった。

 私はヒューストンでリンダと3年間、同棲をしていたからだ。

 彼女は同じ研究チームの研究者だった。



 「エイジ、急に日本に帰るってどういうこと! ここを辞めるつもりなの!」

 「ああ、そうすることにした」

 「私は残るわよ、ヒューストンに」

 「それはわかっているよ、恋愛で自分の研究を無駄にすることはないからね」

 「あなたはどうかしている! どうしたの? あなたの火星探査への夢は? 私たちの夢

 は!」

 「それはリンダに引き継ぐよ、僕の代わりに・・・」


 その時、リンダの右手が私の左の頬を打った。

 

 「引き継ぐですって? あなたはまだアメリカンジョークが下手ね!

 私たちは研究でも恋愛でも、最高のパートナーだったじゃないの!

 私はあなたのsteadyじゃなかったの? 信じられない!

 あなたは2つの大切なものを捨てるつもりなの!

 火星への夢と、私という女を!

 そんなに日本がいいならさっさと行きなさいよ!

 日本に帰ってママのオッパイでも飲んでいるといいわ!

 私は日本へは行かない! だって火星は私の夢ですもの!

 トラクターに乗っているエイジなんか見たくもないわ!」



 そして私はリンダと火星を捨て、日本に帰って来た。

 親父が体を壊し、母親だけでの農作業や資産管理は不可能だったのだ。

 江戸時代から続く稼業を途絶えさせるわけにはいかなかった。

 

 


 「ねえ、どこに連れて行ってくれるの? ディズニーランドとか言わないわよね?

 私、並ぶのも歩くのも嫌い」

 「ごめん、気が利かなくて」

 「でも、逆に女性慣れしていない、そんなところが好きかも。

 すぐに体を求めてくる男よりは」


 晴美は自由奔放なお嬢様だった。

 どんどん自分のペースで行動していく。

 素早い決断力と強引さ、緻密な分析力、そして展開を先読みする先見性。

 それが音楽家としての彼女を物語っていた。


 「海はどう?」

 「太平洋ならいいわよ」

 「日本海はダメなのかい?」

 「だって日本海って暗いじゃない? 石川さゆりとか、鳥羽一郎みたいで」


 私は思わず笑ってしまった。

 

 「そうだね、そうかもしれない。

 じゃあ、大洗の水族館はどう? 太平洋だし」

 「いい! それならいい!

 私、お魚大好き! トロでしょ、ウニでしょ、ヒラメにアワビ! それからそれか 

 ら・・・」

 「それは寿司ネタだよね?」

 「そうよ、水族館にはネタを見に行くの!

 だから好きよ、お魚が泳いでいるところを見るの。

 だって美味しそうなんだもん!」

 「晴美さんにとって水族館は、居酒屋の生簀なんだね?」


 私はこの時、そんな晴美に惹かれる自分がいることに気付いた。


 「じゃあ、土曜日の朝9時に上野駅で」

 「9時ね? 楽しみだなあ、大きな生簀。

 上野の中央改札口で待ってるね?」

 「では9時に上野駅の中央改札ということで」

 

 電話を切った私は、ふと涼子のことを想い出していた。

 また、涼子に会いたい。


 (栄次、涼子は親友の彼女だぞ)


 私は不謹慎な自分の想いをすぐに打ち消した。


第4話 渚にて

 「お天気で良かったわね? ねえ、どうして大洗の水族館なの? しながわ水族館でも良かったんじゃない? 海も見えるし」

 「でも、砂浜がないだろう? 砂浜を君と散歩したくてね?」

 「ロマンチストなのね? だから宇宙が好きなの?」


 私は晴美のその問いには答えず、


 「電車に乗るのは久しぶりだなあ」

 「赤いスポーツカーでドライブを想像していたけど、意外」

 「クルマは軽トラしか持っていないよ。必要ないからね。

 農家に赤いスポーツカーは要らないよ」

 「それもいいかもね。二人しか乗れないし」


 私たちは笑った。


 田園地帯は見慣れているはずだったが、こうして車窓から観る景色は全く違うものだった。

 私の頭の中ではベートーベンの『田園』が鳴っていた。



 「なんだかベートーベンの『田園』が聞こえて来そう。

 ねえ、そう思わない?」

 「僕の頭の中でも聞こえていたよ、『田園』が」

 「私たち、同じことを考えていたのね?」


 私はそれに黙って頷き、缶コーヒーを飲んだ。

 晴美はKIOSKで買ったポッキーを食べながら、『田園』をハミングしていた。


 「なんだか遠足みたいね?」

 「そうだね?」

 「ねえ、NASAではどんな研究をしていたの?」

 「色々だよ」

 「たとえばどんな研究?」 

 「惑星探査機の軌道解析とか・・・」

 「ケプラーの公式とか使うの?」

 「よく知っているね?」

 「高校の時、物理で習うじゃない?」

 「そうだっけ?」

 「忘れたけどね、それがどんな公式か。

 ただ言ってみただけー」

 「宇宙ではニュートン力学ではなく、アインシュタインの一般相対性理論に基づく軌道計算になるから、ケプラーは使えないんだよ」

 「私、理系の人、好き。

 家族はみんな理系だからかもね? 私だけが変わり者なの」

 「でも君は音楽の天才だろう?」

 「天才? 天才なら音楽の世界にはゴロゴロいるわよ。 

 私は努力の凡人、人の10倍練習しただけ」

 「天才は努力の賜物だよ」

 「そうね、そうかもしれない・・・」


 晴美は珍しく、少し寂しそうな表情になり、視線を窓の外に広がる田園地帯に移した。






 駅からタクシーで大洗の水族館に着いた。

 

 「うわー、パシフィック・オーシャンだあ!」


 晴美は大きく手を広げて爪先立ちになり、海に向かって深呼吸をした。

 晴美の長いサラサラの髪が、潮風になびいていた。

 彼女が私に振り向いた時、驚いたことに晴美は泣いていた。



 「ごめんなさい、久しぶりの海だから感動しちゃった」

 「水族館に入ろうか?」

 「ううん、もう十分。ここでいいわ、ここで」


 晴美は防波堤を降りて靴を脱ぎ、砂浜へと降りて行った。

 私も靴を脱いで彼女と砂浜を歩いた。



 「なんだか恋愛ドラマみたいね? 一度やってみたかったんだ、こうやって裸足でヒールを持って恋人と渚を歩くの」

 「美人チェリストと、農家の長男坊だね?」

 「栄次じゃなきゃダメ、栄次じゃなきゃダメなの!」


 晴美は笑ってはいなかった。

 まっすぐに私を見詰める晴美の瞳に、青い海が映っていた。



 私たちはキスをした。それはきわめて自然なキスだった。

 打ち寄せる波の音とgentle breeze 。


 波が私たちの足元を洗った。



 「濡れちゃったね? ストッキングがびしょびしょになっちゃった」


 私は静かに晴美をお姫様抱っこをして防波堤に彼女を降ろすと、ハンカチで彼女の足を拭いてあげた。

 

 「ありがとう、栄次。昨夜の話、訂正するわ。あなたは女に慣れてる」

 「男ならこうするのは当たり前だろう?」

 「ううん、あなたは女を知っているわ。どうしたら女が喜こぶかを知っている」

 「俺、褒められているのかな?」

 「お礼がしたいの、あなたに」

 「お礼?」

 「ふたりきりになりたい」


 晴美は私の首に両手を回し、耳元で囁いた。

 

 「今日、私を抱いて」



 私たちは海沿いの旅館に宿をとった。


第5話 デュエット

 潮騒の音が聞こえていた。

 私たちは食事を終え、温泉にも浸かり、床に就いた。

 

 「海の音が聞こえるね?」

 「海がすぐ傍にあるからな?」

 

 私は晴美の浴衣の帯を解き、優しく抱きしめた。

 晴美の手を握り、彼女も私の手を握り返して来た。


 「海の音を聞きながらするなんて、とろけちゃいそう。

 ねえ、とろけちゃったらどうする?」

 「じゃあ一緒に溶けて海に帰ろう。人間は海から来たんだから」

 

 そう言って私は晴美の白い首筋にキスをした。


 「あっ、そこ、急所・・・」


 晴美の体がビクンと反応した。


 「じゃあ、ここは?」

 

 晴美の柔らかな乳房に触れ、私はそれを吸った。

 少し強く。


 次第に私たちのデュエットは加速されていった。


 やがてそれは大きなうねりとなり、晴美がそれに達したのを見届けてから、私も後に続

 いた。

私は日本に帰国して、初めて女を抱いた。


 

 晴美は私に寄り添い、囁いた。

 

 「私たち、うまくいきそうね?

 会話もカラダの相性もいいみたい。うふっ」

 「それはどうかな? 俺は性格が陰険だから」

 「陰険な人は自分の事を陰険だなんて言わないものよ。「俺ってモテるんだぜ」っていう男に限って全然モテないようにね?」

 

 私は晴美の髪をやさしく撫でた。


 「それじゃ、お試しということで。よろしくお願いします」

 「よろこんで・・・」


 そして私と晴美の「お試し恋愛」が始まった。






 早速、修一から連絡が来た。


 「栄次、聞いたぞ、晴美ちゃんと付き合うことになったんだってな?」

 「ああ、ありがとう、シュウのおかげだよ」

 「どうだ? 今度ダブルデートということで、一緒にディズニーでも?」

 「彼女、ディズニーランドは嫌いだって言ってたからどうかなあ?」

 「ディズニーデートは晴美ちゃんと涼子からの提案だから大丈夫じゃねえか?」

 「ならいいけど・・・」


 涼子にまた会える。

 私はすぐにそれに応じることにした。

 

 「涼子も喜んでいたんだ、お前たちが上手くいって良かったって。

 じゃあ、週末に」

 「ああ、わかった」


 涼子も喜んでいる? 何を? 私と晴美が付き合うことを?

 それとも私と再会出来ることを?


 いずれにせよ、また涼子に会える。


 それだけで私は十分幸福だった。



第6話 ダブルデート

 その日は雲ひとつない秋晴れだった。

 空は高く、海から吹く風が心地いい。

 遥か沖合では海上自衛隊の演習が行われているようだった。


 ランドでは酒が飲めないので、私たちはディズニーシーに行くことにした。


 舞浜からミッキーを模った窓のモノレールに乗り、私たちはディズニーシーに向かった。

 場内にはカンツォーネが流れ、ここはまさにイタリアだった。


 ディズニーシーはイタリアの高級リゾート、ポルトフィーノを模して造られているらしい。

 私たち4人はポルトフィーノにテレポーテーションしているようだった。



 「たまに聴くカンツォーネもいいわね?」

 「そうね? やっぱり音楽はそこの土地に合った物でなくっちゃ。

 お酒も音楽も。では早速飲みますか?」

 「涼子は酒が好きだからなー」

 「修一だって好きでしょう? 弱いけど」

 「あら、私たちも大好きよね? 栄次」

 

 そう言って、晴美は私と腕を組んで見せた。

 それはまるで、涼子と修一に見せつけるかのように。


 「あらあら、もうすっかり恋人気分ね? 晴美と栄次」

 「ねえ栄次、子供は何人欲しい?」

 

 私は横顔で苦笑いをした。

 涼子の前で、そんな話をされることには抵抗があったからだ。

 

 「赤くなってる、赤くなってるー!

 栄次ってカワイイ!」

 「俺たちは3人は欲しいな。な、涼子?」

 「えっー、私はひとりか、いなくてもいいかなあー。

 子供、苦手だし・・・」


 涼子の顔が一瞬曇った。

 だがそれは、直ぐに消え、涼子が私に訊ねた。


 「栄次は子供、好きなの?」

 「あまり、考えたことはないな。

 俺がまだ子供みたいなものだから」

 「もう、30なのに? アハハハハ」


 そう言って晴美も、みんなも笑った。


 「じゃあ、どこを回るか作戦会議ね。

 まずは生ビールで乾杯をしましょう!」

 「賛成!」

 「異議なーし!」




 私たちはレストランに入り、ビールを注文した。

 

 「では僭越ですが、ご指名なのでこの私が乾杯の音頭を取らせていただきます!」

 「誰も指名してなんかいないわよー」

 「まあまあ、そう言うなって。

 それでは皆さん、我々カップルが、見事、ゴールイン出来ますように、乾杯!」

 「カンパーイ!」


 だがその時、私と涼子だけは乾杯を言わなかった。


 「あー、美味しいー! もうどこも見ないでこのままここで飲んでいたいわ」


 涼子のグラスを持つ白い手に、私はドキリとした。

 美しいヴィーナスのような手だった。

 この美しい涼子を、修一は抱いているというのか?

 私の心にはさざ波が立っていた。



 「ねえねえ、どこに行こうか? センター・オブ・ジ・アース? それとも海底2万マイル?」

 「あの大きな船に行こうよ」

 「何で?」

 「お酒が飲めるから。それに歩くのも疲れるし、並ぶのもイヤだから」

 「せっかく来たんだぜ」

 「そうよ、お酒は夜、いっぱい飲めばいいでしょう?」

 「しょうがないなあ、じゃあ行くとしますか?」

 「出発進行!」


 私たちは様々なアトラクションを見て回った。



 「もう、クタクタ。私、ここで待ってるからみなさんでお好きにどうぞ」

 「まったくもー、涼子はオバサンなんだからあ」

 「だってオバサンだもん、もうすぐ三十路だし」

 「俺も少し休むよ」


 涼子とふたりっきりになれるチャンスだった。

 その突然の僥倖に、私は努めて冷静を装い、疲れたフリをしてみせた。


 「えっー! 栄次までー? こっちはホントのオジサンか? あはははは」

 「そうだな? 俺はオジサンだ」

 「もうー、しょうがないなあ。

 じゃあ栄次と涼子はここで待っていなさいよ。私と修一で回って来るから!

 行こう、修一」

 「いってらっしゃーい。アンタたちは本当にタフだわ」

 「俺たちはターミネーターだもんな? 晴美?」

 「もちろんよ! 私たち、若者だもんねー、修一?」

 「じゃあ、待ってろよ、ダッーッと回って来るから」

 「ああ」

 「いってらっしゃーい」


 涼子は修一たちに小さく手を振った。

 修一と晴美は嬉しそうにアトラクションへと走って行った。


 二人が去っていくと涼子がポツリと言った。


 「私ね、本当はこういうところって苦手なの。

 人混みってキライ。栄次は?」

 「俺も得意じゃないな。

 イタリアのフィーノは好きだけどね?」

 「私はミラノとローマ、そしてフィレンツェには行ったけど、フィーノってリビエラの近くなんでしょう?」

 「美しい港町だよ、クルマは入れないから船が唯一の交通手段になる」

 「行ってみたいなあ、フィーノ」

 「ハリウッドスターの御用達のようだしね?」

 「連れてって、私をポルトフィーノに」

 「俺じゃなく、修一に頼むべきじゃないのか?」


 私はうれしかった。


 「栄次と私はただの友だちだもんね?

 でも彼にイタリアは似合わないなあ」

 「それもそうだな?」


 私と涼子は笑った。


 「ねえ、飲んで待っていようよ、あそこのガーデンレストランで」




 私たちはビールとソーセージ、そしてポテトを注文した。


 「あー、歩いた後の生ビールは沁みるわねー」

 「そうだね? 新橋で飲むビールとは違うな?

 ここは映画のロケのセットみたいだけど、一応、イタリアだしね?」

 「ねえ、アメリカは良かった?」

 「良かったって、何が?」

 「女の子とか?」

 「知らないな、恋愛には縁が無かったから」

 「ウソ、駄目よ胡麻化しても。

 一緒に暮していたくせに」

 「どうしてそう思う?」

 「なんとなく。女の勘よ。

 でも当たるのよ、私の勘は。うふっ」

 

 その時、晴美から電話が来た。


 「ちょっとー、今どこにいるのよお? さっきのところにいないんですけどー」

 「回れ右してごらん、そこのレストランでビールを飲んでたから。ほら」


 私と涼子はふたりに手を振った。


 

 晴美と修一がやって来た。

 

 「ズルーイ! 自分たちだけまたお酒飲んでるー!」

 「いいでしょう? お休みなんだから」

 「アンタたちまるで夫婦みたいじゃないのお! 怪しいーぞ、このふたりー?

 クンクン、匂うぞ匂うぞ。エッチな匂いが」


 晴美が犬のように、顔を私たちに近づけた。


 「こんなお酒ばっかり飲んでる夫婦なんていないわよ。

 さあ晴美も修一も、一緒に飲もうよ」


 そしてまた私たちの酒盛りが始まった。




 帰りの電車では余程遊び疲れ、酒に酔ったのか? 晴美と脩一はまるで子供のように寝てしまっていた。

 私の肩に凭れ掛かり、私の手を握ったまま眠っている晴美。

 それを見て微笑む涼子は、まるで晴美の姉のようだった。


 「ホント、ふたりとも子供みたい。うふっ」


 私は微笑み、頷いた。


 「ホントだな?」


 

 電車から見える東京湾が夕日に染まり、黄金をばら撒いたように夕暮れの海が輝いていた。



第7話 夢と穏やかな暮らし

 「晴美ちゃん。今朝、うちの畑から獲ってきたトウモロコシよ、食べて食べて」

 「うわー、いい香り! おいしそう! では早速、いっただっきまーす!。

 あちち、あちち。フウーフウー、ハフハフ。

 すごく甘ーい! めっちゃ美味しいです! お母さん!」

 「なんだかこうしていると、私たち親子みたいね?

 うちは男の子でしょう? なんだか晴美ちゃんが自分の娘みたいな気がするの。

 晴美ちゃんがうちにお嫁さんに来てくれるなら、農業はしなくてもいいからね」

 「そんなのイヤですよー。

 私もお母さんとお米とか作りたいです!

 土いじりは子供の時から大好きですから!

 虫とかヘビとかも全然平気なんです、私」

 「まあ、うれしいわ。

 でも晴美ちゃんみたいなお嬢さんに、農家は似合わないわよ。

 それに農家の嫁なんて、誰もなりたくはないしね?

 晴美ちゃんがウチのお嫁さんになってくれたらなあ。ねえ、栄次?」

 

 晴美はよく家にやって来るようになっていた。

 農家には不似合いな、真っ赤なアルファロメオに乗って。


 上手に歯を使ってトウモロコシの身を外しながら、晴美は言った。


 「ねえ栄次、火星ってどんなところなの?」

 「地球からの距離は最接近時で7,528km、約780日をかけて地球を周回している。

 質量は64,200京トン。重力は地球のそれを1とした場合、その0.38倍だ。

 火星にはファボスとダイモスという衛星がある。

 平均気温はマイナス43℃。

 最低気温はマイナス140℃で、最高気温は20℃まで上昇する。

 大気の90パーセント以上は二酸化炭素で、酸素はわずか0.1%しかない。

 本来、二酸化炭素は熱を吸収しやすいが、大気が薄いのであまり気温は上昇しない」

 「火星にはどうやって行くの?」

 「ロケットで地球を離れ、宇宙船に乗り継ぎしながら片道217日もかかる。

 火星でのミッションを終えて地球に帰還するまで、651日が必要になるんだ」

 「約2年じゃない! 地球に帰れるまで。

 嫌だなあ、そんな狭いところに閉じ込められて2年だなんて。

 でも、栄次となら平気かも」


 私はNASAの火星有人探査のプロジェクトチームのメンバーだった。


 1960年、ソビエトの火星探査計画「マルスニク計画」に端を発し、アメリカ、中国と競い合うように火星探査計画が進められていった。

 火星には氷が存在することが確認されている。

 つまり水が存在するということは、生物が存在するという可能性にも繋がる。

 火星から飛来したと考えられる隕石には、1マイクロメートルほどの微生物の化石と、有機化合物が検出されていた。

 ただし、この微生物は遺伝子を保有するにふさわしい分子構造を組み入れられない大きさ故、それが果たして生命体の存在につながるかは学者の中では否定的だった。



      Red Planet (赤い惑星)


 

 そして今、私の目の前で母親と楽しそうに話す晴美がいる。

 人間にとって大切な物とは一体何だろう?

 夢か? それとも現実の中で穏やかに生活をする幸福か?

 私はそれが曖昧だった。


 「お母さん、今日、泊って行ってもいいですか?

 私、お母さんと一緒のお部屋で寝たいんです。

 色々と栄次さんの子供の頃のお話も伺いたいですし」

 「あら、それは大歓迎よ。

 じゃあ今日はお酒でも飲みながら、北陸の親戚が送ってくれた蟹があるから蟹鍋でもしましょうか?」

 「やったー! じゃあお母さん、私もお手伝いさせて下さい」

 「そう? じゃあ、一緒に作りましょうか?」

 「ハイ!」


 母のうれしそうな顔を見ていると、迷うことなど何もなかった。

 苦労を掛けた母には早く安心させてやりたいとも思う。

 聡明で美しく、いつも明るく振舞うやさしい晴美。

 これ以上の花嫁はどこにもいない。

 彼女は理想の妻に、そして嫁になるはずだ。


 だが・・・。

 私の心は依然として定まらないままだった。



第8話 開く新たな扉

 晴美と母は布団を並べて敷いた。


 「晴美ちゃんはウチの栄次のどこが好きなの?」

 「自分をよく見せようとしないところです」

 「あの子、そういうところ、あるかもしれないわね?

 子供の頃から手の掛からない子供だったわ。

 いつも本ばかり読んでいてね、あの子が宇宙に興味を持つようになったのは、小学校の入学祝いに夫が買い与えた

天体望遠鏡だったのよ。いつも星ばかり眺めていたわ。

 そして言ったの、「ボク、火星に行く」って」

 「それがNASAに入るきっかけになったんですね?」

 「そうね、親バカだけどあの子はいい子よ。

 きっとあなたを大切にしてくれるわ」

 「私が栄次さんをしあわせにします。もちろんお母さんも」

 「ありがとう晴美ちゃん。これからも栄次をよろしくね?」

 「はい、よろこんで」







 農作業を終え、私は風呂から上がり、缶ビールを飲みながらNASAのホームページを開いた。

 NASAを離れた今も、火星への憧れはNASAに置いて来たままだった。



 LINE が入った。晴美からだった。



      今 お風呂から上がって

      髪の毛を乾かしてまーす

      栄次は今 何してた?




 私はすぐに返事をしなかった。

 いつも晴美の話は長くなるからだ。

 電話をしようとも考えたが、止めた。

 私は再びNASAの情報検索を続けた。



      雨 酷いね?

      会いたいなあ 栄次と

      ねえ 電話してもいい?



 彼女はふたりの自分を巧みに使い分けていた。

 チェリストの晴美と、それを否定するもうひとりの晴美がいた。

 世界的に活躍する演奏家に挫折した晴美は、神に選ばれることを望んでいた。

 自分の才能とその限界の狭間で。


 前にセックスを終えた後、晴美が言ったことがある。


 「みんなはストラディヴァリが素晴らしいというけれど、その素晴らしい音色を引き出すには、弓のストラディヴァリといわれる「トルテ」がなければダメ。

 いい音楽を奏でるにはいいチェロが必要。そして私には私を弾きこなす、栄次という「弓」が必要なの。

 栄次、私の弓になって欲しい・・・」



 

 またLINEが入った。だが今度は涼子からだった。



      今 晴美と一緒なの?



 私はすぐに返信をした。



                ひとりだよ


 

      今ね ひとりで渋谷で

      飲んでるの

      迎えに来てよ 栄次

 



 私はすぐに涼子に電話を掛けた。


 「もしもし、どうした? 修一とケンカでもしたのか?」

 「時々ね、そんなあなたのやさしさにイラつくことがあるわ。 

 私、どうしていいのかわからないの・・・」

 「飲み過ぎだよ、明日は仕事だろう?」

 「私ね、つまらない高校の音楽の先生じゃないのよ。

 私はピアニストなんだから。美人ピアニスト。あはははは

 わかってんの? 火星博士・・・」

 「とにかく早く帰った方がいい。深夜に女が渋谷で一人で飲むなんて、いくら日本でも危険だ」

 「だから迎えに来てよ。私がさらわれないように。

 私、ひとりじゃ帰れないもん」

 「店はどこだ?」

 「松田優作もよく来ていた、『門』っていうBAR。

 すぐ来てね? 私がお持ち帰りされないうちに」


 私はすぐにタクシーを呼び、着替えてタクシーに飛び乗った。

 途中、新幹線の中から晴美にLINEをした。



       ゴメン 今日は農作業で

       疲れたから

       明日、電話するよ


                  つまんないのー

                  絶対だよ おやすみなさい

                  愛してる?


       Yes, of course.

Good night. Honey

 


 私は晴美にウソを吐いた。

 これが涼子がイラつくという、俺の「やさしさ」なのか?

 でもこれはやさしさとは言わない、男の狡さだ。

 誰も傷つかない、傷つけたくはないという「偽りの優しさ」だった。


 私はいつもそうだった。

 他人と争うことをいつも避けて生きて来た。

 だがそれは日本での話だ。

 欧米人には通用しない。自分の考えを持たない無能な奴だと思われてしまう。


 私は夜の新幹線の窓に斜めに流れる雨雫を目で追っていた。

 雨が一筋の流れになり、合流したり離れたり。

 そうして枝分かれしながら、いつかは落ちて消えてゆく雨。


 真っすぐ落ちても、斜めに落ちても落ちるのは同じだ。

 果たして人生には正しい「堕ち方」などあるのだろうか?





 渋谷駅のタクシー乗り場は雨の為、長蛇の列になっていた。

 私は走った。土砂降りの雨の中を傘もなく、水溜まりさえも気にすることなく私は走った。


 

 (涼子に会いたい、寂しさに震えている涼子を助けたい!)



 私はメロスのように必死に走った。




 店のドアを開けると、カウンターの中央に、見覚えのある#か細い__・__#涼子の背中を見つけた。


 「涼子!」

 「来てくれたのね? 来てくれないのかと思ってた・・・」


 涼子は淋しそうに笑った。


 「君が俺を呼んだんじゃないか! ライムソーダを」

 「かしこまりました」


 涼子は私に抱き着き、キスをした。

 それは炎のように熱いキスだった。

 そしてそれは裏切りの口づけ、背徳のキスでもあった。


 

 「びしょ濡れだね? 私がこのカラダで拭き取ってあげる・・・」

 

 私は涼子を強く抱きしめた。

 ここが日本だということも忘れて。


 彼女の香水の香りがした。

 私は眩暈めまいがしそうだった。

 その香水はリンダがいつも着けていた、シャネルの19番だったからだ。

 私はライムソーダを一気に飲み干した。


 「帰ろう。涼子」


 涼子は黙って頷き、私の腕に自分の腕を絡ませた。




 私たちはホテルのある坂道を、傘も差さずに無言で登って行った。

 すべての「しがらみ」を忘れて雨の中を。


 ネオンが雨に滲む、派手なラブホテルの前に私たちは辿り着いた。


 涼子は私の手を引いて、二度とは戻れない棘多き薔薇の道へと私をいざなった。

 


第9話 背徳の恋

 ベッドの上での涼子は、誰もが知るいつもの涼子ではなかった。

 まるで別人のように涼子は私を求め、私たちは愛し合った。

 今までのもどかしい、自分たちの感情を吐き出すかのように。


 性行為とは秘められた性癖の解放でもある。

 普段は心に閉じ込め、秘匿している自分自身の野生を解き放つ行為、それが本来のセックスなのだ。


 いつもの私は穏やかであり、他人との争いを好まない人間であり、そして涼子もいつも爽やかで明るく、知性と教養を兼ね備えた女性だった。

 清楚で相手への気遣いを怠らない、非の打ちどころのない才色兼備の涼子。

 そんなふたりが、獣のようにSEXに没頭していた。



 「栄次、もっと強く、もっと激しく私を滅茶苦茶にして! 私に罰を与えて頂戴!

 恋人を裏切り、親友の恋人を誘惑した私を!」


 叫ぶように懇願する涼子。


 「私を壊して! 私は、私は本当は、本当は栄次が、好きな、の!」

 「涼子、好きだ! ずっと前から!」

 「あうっ、ぐっう、はあはあはあはあああ、ん、ん、ん、ん・・・。

 私も、私もよ、私も、ずっとあなたが、好き、だった・・・、あうん、あん、あん・・・、は、初めて出会った、あの、日から、ずっと・・・」

 「涼子!」

 「栄次っ!」


 私たちの愛は、ダムが決壊したかのように一挙に噴出した。

 ベッドは激しく軋み、やがて静かになった。

 ふたりはすべてを出し尽くし、快楽の余韻に浸っていた。


 

 「栄次・・・、やっと素直になれたわ、本当の自分に・・・。

 初めて出会った時から、あなたのことだけを見ていたわ・・・」


 涼子は私の胸に顔を乗せた。


 「大昔の人間は、こうだったのかもしれない。

 本能のまま愛し合い、本能の命じるままに生きていた。

 常識や道徳などは存在せず、思ったように生きていたはずだ。

 獣のように生き、そして死んでいった。

 愛という概念は相手を想い、自分を捧げ、捨てることだと俺は思う。

 そしてやがて人は、他人の目を意識するようになり、色々な感情や行為を隠すようになった。

 本来の自分を、そんなくだらない常識の檻の中へ押し込めてしまったんだ。

 あれをするな、これは駄目だと。

 そんなことをしたら笑われ、非難されると」

 「くだらないことよね? 人間の常識なんて。

 私ね、音楽に挫折して高校の音楽教師になったの。

 音楽の先生に#でも__・__#なるか、って感じで。

 だから本気であの子たちと向き合うことが出来ていない。

 音楽の楽しさ? 笑わせないでよ・・・。

 音楽は「音を楽しむ」って書くけど、でもそんなの、それを聴く人のエゴよ。

 私にとっての音楽は「音我苦」なの。

 #音を我、苦しむ__・__#なのよ。

 苦しいのよ、私にとっての音楽は・・・」

 「すごいね? 涼子は」

 「何がすごいの? プロのピアニストになれなかった私に、一体なんの価値があるっていうの?」

 「だってそれだけ音楽が好きだってことだろう? だから思い悩む。

 キライならそんなことは考えないものだよ」

 「恋愛と似ているかもね?

 どんなに好きでも叶わぬ恋・・・。

 私はピアノの神様に愛されなかった・・・」

 「僕は火星という恋人と別れ、家を継いだ。

 でもね? だからと言って農業#でも__・__#とは思ってはいない。

 農業「も」好きだ。

 火星も好き、農業も好き、それでいいと思うんだ。

 自分に合わないことや、キライなこと、それを我慢して続ける必要はないと思う。

 一度きりの人生なら、後悔したくはないからね?」

 「栄次は日本に帰って来て良かった?」

 「良かったよ」

 「夢を諦めて実家を継いでも?」


 私は涼子を強く抱きしめて言った。


 「それで俺は涼子とこうして巡り逢うことが出来たからね?

 辛く厳しい人生の旅を、一緒に歩いて行きたい人と出会うことが出来た。

 それより大切なことなんて人生にはないよ」

 「私たち、あの人たちを裏切ることになるのよ、それでもいいの?」

 「その覚悟があるからこそ君を抱いた。涼子はどう?」

 「私も平気、もう自分に嘘は吐きたくないから。

 この人「でも」じゃなく、この人「が」好き。いえ、栄次じゃなきゃダメなの。

 修一はやさしい人よ、でもあの人じゃないの、私が自分を捧げたい人は修一じゃない、あなたよ。

 だって優しいだけの男なんて、星の数ほどいるもの。

 私は彼のやさしさに強引に押し切られただけ・・・。

 福山雅治に抱かれたいという女は全員じゃないわ。

 綾瀬はるかと付き合いたい男だってたくさんいるだろうけど、全部じゃない。

 男と女は理屈じゃないの、惹かれ合うか、惹かれ合わないかなのよ。

 親友の晴美から絶交され、憎まれ、罵倒されてもいい。

 私はあなたに決めたの。私は栄次が好き・・・」

 「涼子を迎えに行くと決めた時。俺は覚悟を決めた。

 あのふたりを傷付けても涼子が欲しいと。

 だってしょうがないだろう? 好きになってしまったんだから、涼子を。

 どんな罰を受けても構わない。俺は涼子を奪いたい。

 恋とはするものではなく、落ちるものだから」

 「だったら一緒に落ちましょうよ、どこまでも深く」



 私たちは再びサバンナを駆け回った。


 獣のように全力で。



第10話 それぞれの想い

 それは青天の霹靂だった。

 携帯が鳴った。それはリンダからだった。


 「ハーイ、エイジ。

 私よ、あなたの愛した子猫ちゃん、リンダよ。

 今、ナリタ・エアポートなの。

 トウキョウのロイヤルパークホテルに宿泊しているから、今夜、会えないかしら?

 ごちそうしてよ、シャブシャブ、スシ、ラーメン、テンプーラ? アハハハハ」

 「JAXAにでも来たのか? 仕事で?」

 「ううん、日本に来た目的はね、ヘッドハンティングよ」

 「ヘッドハンティング?」

 「そう、有能な日本の頭脳、エイジ・ウエダをね?」


 突然のリンダの言葉に私は狼狽えた。

 それは丁度、NASAに戻って研究を再開したいと空想していた矢先だったからだ。

 確かに何度か復帰の打診がないわけではなかったが、現状は農家を継がずにアメリカへ戻ることへは躊躇があった。

 そして、涼子のこともある。

 私と涼子は修一と晴美に謝罪した。

 私たち4人は修一のアパートに集まった。



 「おつまみとお酒、いっぱい買って来たよー。

 ささ、呑んで呑んで、食べて食べてー」


 晴美は買って来たつまみを広げ、ビールを配った。

 これから起こるであろう修羅場も考えず、ひとりではしゃいでいた。

 私が口火を切った。



 「話があるんだ。大事な話だ」


 すでに修一には私と涼子が付き合っていることを電話で告白していたが、晴美には話していなかった。

 そして今日、4人で修一のアパートで会うことになったのだ。

 修一が沈痛な面持ちで晴美に言った。


 「晴美ちゃん、コイツら付き合ってんだってさ。どう思う?」

 「ナニナニ? エイプリルフールかハロウィーン?

 それともドッキリ?」


 私は静かに言った。


 「ごめん、ホントなんだ」


 すると晴美は缶酎ハイを開け、ゆっくりと私の頭にそれを注いだ。

 だが誰も、それを止めようとはしなかった。


 「ねえ栄次? 私、そんなにおバカだと思ってた? この修一と違って私はバカじゃないわ。

 そんなの、そんなのとっくに・・・、会った時から知っていたわよ!

 あんたたちふたりがお互いに、お互いに好意を持っていることなんか!

 私、ピエロにされたのね?

 だって、栄次を私に紹介したのって涼子でしょう?

 答えてよ! 説明してよ! これがどういうことなのか? 涼子!

 だったら最初から、私に栄次なんか会わせなきゃ良かったじゃない!

 そうすれば傷付くのは、このバカひとりで良かったのに!

 私まで、私まで巻き込まないでよ!

 なんで自分が好きな男を、私に宛がおうとしたの!

 どうしてくれるの! 栄次を愛してしまったこの私を!」

 「止めろよ、晴美ちゃん。

 しょうがねえじゃねえか? 俺たちは負けたんだよ。

 晴美ちゃんが言う通り、俺はバカだよ、大馬鹿者だ。

 コイツらを会わせたのは、この俺なんだからな?

 栄次に誰か紹介してやってくれって頼んだのもこの俺だ。

 恨むならこの俺を恨んでくれ、コイツらは悪くない。

 俺も晴美ちゃんも、このふたりには似合わなかった、ただそれだけなんだよ。

 わかってやろうぜ」

 「修一がそんな中途半端な薄っぺらい優しさしかないから、涼子に愛想をつかされんのよ!

 愛はね? 奪うものよ! さらうものなの!

 自分だけ、カッコつけてんじゃないわよ! 何よ! 自分だけが悪者のつもり!

 なんで涼子を檻に入れてちゃんと鍵を掛けておかなかったのよ!

 愛はそうしないと、そうしないと逃げて行ってしまうものなの! 愛は逃げてゆくの!

 あんたは檻を開けっぱなしにしていたじゃない!

 「僕は君に相応しくない、好きな男と#して__・__#きなよ」って!

 バッカじゃないの! 女はね、奪って欲しいものなの! 自分をさらって欲しいのよ!」

 「ごめんなさい、晴美・・・。

 どうしようも出来なかった、自分の気持ちを抑え切れなかったの。

 誘ったのは私の方よ。

 私には才能がなかった。だからピアニストの夢を諦めた。

 でもね、でも栄次だけは諦めたくなかったの!

 表現したいものがわかっているのにそれが出来ないもどかしさ。

 だから、高校の音楽教師に「でも」なろうと挫折したのよ!

 恋愛にまで、自分に嘘を吐きたくなかった!

 何を失ってもいい! どんな罰でも受ける!

 許して欲しいなんて言わない! だってそれは卑怯だから!

 一生、晴美と修一に恨まれても構わない! 私は私の思うままに生きることにしたの!

 だってもう、後悔したくはないもの! 自分の一度きりの人生を!」


 晴美が涼子の頬を打った。


 「何よ偉そうに! 音大の時からそうだった! いつも自分だけが悪いんだって顔して! そんなあんたが大っ嫌いだった!

 挫折したですって? 涼子だけじゃないわよ! 私は挫折だらけの人生よ!

 子供の頃からみんなに褒められて、「晴美ちゃんは上手ね」「天才現る、だね?」とか言われて! 天才? ふざけるんじゃないわよ! 誰が天才よ! 私は天才になりたい天才よ!

 でも私は「上手ね」という評価でしかなかった! 不味くはないけど美味しくもない、そんなチェリストだった!

 本当の天才なら聴衆を「黙らせる」ハズでしょう?

 プラハでも何度も挫折を味わったわ!

 「どうして私には才能がないんだろう」ってね!

 そんなのあんただけじゃないわよ! あんただけじゃ!」


 晴美と涼子は泣いた。

 この小さな部屋が涙で沈むのではないかと思うほど二人は号泣していた。


 「栄次、覚えているよな? 高校のラグビー部で、お前は俺にキャプテンを譲ろうとした。

 お前はそういう奴だ。自分をいつも犠牲にしようとする。

 でもな? そうされた方の気持ちをお前は考えたことがあるか?

 お前ほどの実力もない俺が、キャプテンを譲られようとした俺の気持ちが!

 それで何がうれしい? そんな安い同情なんていらねえんだよ!

 涼子は俺じゃなく、栄次を選んだ。

 同じなんだよ、あの時と!」

 「修一・・・」


 そして修一は私を2発殴った。

 多少、チカラを抜いて。


 「1発は俺の、そしてもう1発は晴美の分だ!

 これでスッキリしたよ。涼子のこと、よろしくな?」


 晴美もまた、涼子を平手打ちした。


 「これはこのおバカな修一の分。

 ああ、私もスカッとした! 同情されるのなんてまっぴらだわ。

 涼子、これで栄次と別れたら許さないからね?

 そして栄次も。

 涼子は私の唯一の親友だから。泣かせるようなことしたら殺すから!」


 そして修一が言った。


 「晴美、後は俺たちだけで反省会をしようぜ。コイツら抜きで」

 「うんうん、呑も呑も! 朝まで飲み明かそう! この人たちの悪口で盛り上がろう!」

 「今日はもう帰ってくれ。そのうちまた、みんなで飲もうぜ。

 俺たち、友だちだもんな?」


 私と涼子は、共に最高の友人を持っていたことを気付かされた。


 そして涼子は教師を辞めた。



最終話 夢

 私は涼子を連れて、リンダと銀座でしゃぶしゃぶを食べていた。

 

 「ワンダフル! これって本当にビーフなの?

 お口の中でとろけちゃう!」

 「アメリカ人は赤身が殆どだからな?」

 「ホント、どうやってスライスするのかしら? こんなに薄く。

 これも宇宙食にすればいいのにね?

 火星への旅は長いから、食事は楽しみだから」

 

 器用に箸を使って肉を食べるリンダ。

 箸の使い方は私が教えたものだった。


 「デイビットは元気かい?」

 「元気よ、彼はベッドではいつも元気。

 私たち、2年前に結婚したの。

 彼もエイジに会いたがっていたわ。

 ジャパンに来たら、きっと彼も驚くはずよ、この「しゃぶしゃぶ」にね?

 彼にも食べさせてあげたいわ」

 「君とデイビッドが結婚?

 驚いたよ、そしてコングラチュレーション」


 私たちはリンダと握手をした。


 「がっかりした?」

 「俺に涼子がいなければね?」

 「リンダ、私たちは決めたの。もう#他人の物__・__#は盗らないって」

 「それはダメよ、それは「恋愛泥棒」だわ」

 「じゃあ私は泥棒ね? 栄次を親友から強奪しちゃったから」

 「元カノの私が言うのもなんだけど、栄次はナイスガイよ。

 しあわせにしてもらいなさいね、リョウコ。

 ところでエイジ、電話でも話したけどNASAに戻って来る気はない? 報酬は倍よ、どう?」

 

 そして涼子が流暢な英語で言った。

 

 「ありがとう、Mrs.リンダ。

 喜んでお受けしますわ、火星は彼の夢ですから」

 「おい、俺はまだ何も・・・」

 「行きたいんでしょう? アメリカに?

 テキサスで始めましょうよ、私たちの新しい人生をそこで」

 「母さんを一人置いて行くわけにはいかないよ」

 「土地とお屋敷、農業は誰かにまかせて、お母さんと一緒にテキサスに行けばいいじゃない。

 そして将来、日本に帰国したら一緒に農業をすればいい。

 私は世界中、いえ、月でも火星でも栄次について行くわ。

 だから行きましょうよ、アメリカへ、ヒューストンへ。

 人生なんて、どこに住むかじゃなくて、誰と一緒に暮らすかでしょう?

 火星はあなたの夢じゃないの?

 私はその夢を追いかけるあなたが好き。

 あなたの夢は私の夢だから」

 「ステキなワイフね? Mrs.リョウコは?

 リョウコならエイジを渡してあげる」

 「いいえ、まだ私はミセスではなく「ミス」なの」

 「それは酷い! そして危険よ!

 エイジ、早く結婚しなさい! そうじゃないとこんな美人、誰かに盗まれてしまうわよ!」

 「そうだね? 盗まれたら大変だ」


 私は涼子の手を強く握った。


 「涼子、結婚しよう」

 「ハイ、よろこんで!」




 夢は真夏の陽炎かげろうのようなものだ。

 追えば逃げてゆくが、たとえ追いつくことが出来なくても、それを追い駆け続けることにこそ価値がある。

 夢は見る物ではなく、追いかけるものだからだ。

 それが叶うかどうかは問題ではない。


 



 3カ月後、私と涼子は日本を発つことにした。

 修一も晴美も、そして母も成田まで見送りに来てくれた。


 「涼子、ぜったい遊びに行くから泊めてよね?」

 「よろこんで!」

 「元気でな、栄次、涼子」

 「ありがとう、修一」

 「ありがとう」

 「お母さんなら大丈夫だからね? 無理はしないでね。

 家のことは紘一叔父さんと早苗たちが手伝ってくれることになったから、安心して行って来なさい」

 「当分は日本とアメリカの往復になるけど、母さんも無理しないでくれよな?」

 「栄次もね? もちろん涼子さんも」



 私と涼子は入籍を済ませ、アメリカへと渡った。





 テキサスの広大な小麦畑が、まるで緑の海のように風にそよぎ、波打っていた。

 私と涼子は爽やかなヒューストンの風に吹かれ、NASAのロケット発射台を見詰めていた。


                                       

                                       『陽炎』完 

 


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【完結】陽炎(作品230623) 菊池昭仁 @landfall0810

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