第24話 元同僚からの手紙
「あらぁ♡ ふふふ♡ 意外と可愛いじゃないですか」
フローティアはヤギに似た魔物のコクヨウを撫でながらご満悦だった。
実際彼女は物体に触れないので、撫でるモーションをしているだけ。それでも笑みがこぼれている。
私は井戸から水を汲んできてコクヨウの前に置いた。彼はそれをゴクゴクと嬉しそうに飲んでいる。そんな彼の姿をフローはうっとりとして見ていた。
「フローがこんなにも動物好きだなんて知らなかったよ」
「ええ。昔読んだ絵本にもヤギが出て来ていたので憧れていました。ヤギのミルクでチーズを作って……あぁ、夢が広がりますね♡」
気になる事も有るけど……楽しそうなフローの顔を見れて良かった。
◇ ◇ ◇
リビングでルイスが手紙を読んでいた。何通も届いたらしく、私の顔を見るとその中から一通を引き抜いて私に差し出す。
「メル、本家から手紙が届いている。リズとアリサからだ」
リズとアリサ！？ 彼女達はフローの元同僚であり私の世話をしてくれた元侍女だ。彼女達は元気だろうか？ 私は手紙を受け取り早速内容を確認する。
―――親愛なるフローティアへ
元気？ 魔物に食べられていない？ 私もアリサも元気だよ？
クロフォード家の皆様や先輩方がとても優しくて！！ 私もアリサもよくしてもらってるの。元気が無かったアリサの顔色も元に戻って来たし、前みたいに話すようになってひと安心。アリサに至っては弟もクロフォード家の領地に移住することが決まって喜んでるよ！
ルイス様もフローと一緒と聞いて安心しました！ 二人とも王宮ではよく話していたから、良かったね！！ たまにはフローからも手紙頂戴ね！お幸せに！！』
リズもアリサも元気そうで良かった！！ だが、それよりも気になる部分がある。
別の手紙を読みながらルイスは目を泳がせている私に尋ねた。
「二人とも元気そうか？」
「うん、『元気』って言ってたけど……ルイスとフローって昔から仲良かったの？」
それを聞いてルイスは目を丸くした。
「何のことだ？ 僕は王宮では特に誰とも……」
「リズが、二人は良く話して仲がいいって……まさか、フローと恋人関係だったの？」
「―――！まさか！そんなこと無い俺は！！……ごほん。僕の恋人は仕事だ。バカな事を考えていないで……ほら、この家に残っていた本だ。好きに読んでくれ」
彼は顔を赤らめながら本を三冊渡すと足早に部屋から去って自室へと戻って行った。
―――あやしい。一人称が僕から俺になっていた。ふ～ん？ でも、分かっちゃうんだから。
仕事が恋人って言っても、やっぱりフローに向けた態度は私とは雲泥の差だった。あんなキラキラ笑顔を見せる仲と言う事だ……。
―――応援してるよ！ ルイス！！ 伝えられるといいね！？
新たな目標も出来てホクホクしている私は、彼から受け取った三冊の本を見つめた。開拓日誌にレシピ集、魔物図鑑……本はどれも手書きだった。
「あら？何を読んでいるのですか？」
フローがにゅっと壁から顔を出してきた。
「あ！フロー。ルイスから本を借りたんだ！開拓日誌とレシピ集と魔物図鑑だって」
「まぁ。興味深いラインナップですね。私にも読ませてください」
「いいけど……本触れないよね？」
殺されて体を失った彼女は物体に触れない。当の本人もそれを忘れていた様でキョトンとしていた。
「そうでした……でも、何事も挑戦です」
そう言って彼女は本に手を翳した。そして驚いて目を丸くした。机に置かれた本が薄らと光に包まれている。
「その表情は……読めたの！？」
「コクヨウは本に載っていましたが、ムゥーナは載っていません！」
フローは大真面目な顔をして叫んだ。あっ……読めたんだ。フローは楽しそうに読んだ内容を説明する。
「魔界のヤギのミルクも美味しいらしいです。楽しみですね♡」
「フロー言おうと思っていたんだケド……コクヨウは雄だよ」
「え？……じゃあミルクは？ チーズは？」
私は静かに首を振った。
この日フローはずっと悲しそうだった。
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