第23話 魔ヤギは満腹で寛いでいる!

「メル? この状況を説明してくれないか?」


 ルイスがジト目で魔ヤギと私を交互に見ながら説明を要求してきた。


 そんなぁ。私だって、この子魔ヤギがついて来ていたのを知ったのが数分前だ。私は狼狽えながらも順を追って説明した。


「昨日、聖女の力を使った泉の様子が気になって見に行ったら、この子に会って……草を差し出したら食べてくれて、満足してる最中に逃げたつもりだったんだけど……付いてきちゃったみたい」


 私は力なく笑った。嘘は無い全部本当だ。しかし、ルイスは難しい顔をしている。


「黙って泉に行ったのか?」


 ―――!! しまった!!!


「黙って行って、ごめんなさい!! 聖女の力が本当に使えてるのか不安でつい……」


「……はぁ。無事だから良かったものの……次は一声かけて欲しい。約束だぞ?」


「う、うん」


 怒られなくて良かった……。

 ルイスはため息を吐くと、スヤスヤと眠る魔ヤギを見つめた。よほど沢山食べて気持ちいのだろう。警戒心が全くない。


「コイツには起きたら森に戻ってもらいましょうか?」

「そうだね……森は結界の影響で弱い魔物は逃げて行ったみたい」


「ふむ……つまりこのヤギらしき魔物はそれなりに強い魔物と言う事か。それなら今のうちに倒しておいたほうがいいか……」


 ―――ひえ! ルイスが物騒な事を言い出した。確かに魔物だけど悪さはしていないから追い払うだけで大丈夫だよ!!

 などとあたふたしていると……


「まぁ~た……二人とも、何騒いでるんですか?」


 屋敷の壁からにゅっとフローティアが顔を出した。そしてミステリアスな彼女の視線が、私達の視線の先に居る魔ヤギを捉える。


「何ですか?この黒い動物は?」


「魔物みたい……泉からついてきちゃって、畑の草を食べて満腹で眠っちゃった」


「あらま……呑気な魔物ですね」


「何が悪さをする前に倒そうと思ってな。メルの結界を越えて来たらしい」


「まぁ。それは見かけによらず丈夫な魔物ですね? ふぅ~ん……ヤギに似ていますね?……よく見ると意外と可愛い顔をしています……」


 フローは身を乗り出して魔ヤギの寝顔を観察していた。眠りながらも周囲の音を聞き取って耳をピコピコと小さく上下に揺らしている。それを見てフローは口元を緩めた。この表情は……


「……こほん。このヤギ?に畑に生えた草を食べきってもらってから追い出してもいいのでは? 草むしりの手間が省けます」


 ―――やっぱり!


「それもそうだが……」


 魔ヤギもフローの提案が聞こえたのか。起きて顔を上げるとフローを見ながら甘えるように鳴いた。


「メ゛エ゛エ゛ェー」


「まぁ!私が分かるみたいですね?この畑もゆくゆくは使うことになりますからね。使えるモノは魔物も使いましょう」


 私とルイスは思わず顔を見合わせた。


「飼ってみたかったんですよね?ヤギ♡」


 フローは嬉しそうにヤギに熱視線を送るのであった。


「おい……また増えるのか?」

「一匹も二匹も変わりません。それに餌は沢山有りますからね。名前はどうしましょうか?黒くて綺麗な毛並みだから……」


「メ゛エ゛」


「こやつ、コクヨウって言う名前みたい~」


 私にしがみ付いていたムゥーナがひょっこりと顔を出して通訳する。

 ルイスは昨日よりも流暢に話すムゥーナにおどろいていたが、フローは気にも留めなかった。


「あらいい名前ですね。わかりました。コクヨウしっかり食べてくださいね?」


「メ゛エ゛エ゛ェー!!!」


 フローのお気に入りが増えた。


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