第19話 魔物は人間に懐くのか?
ぶふっっ!!!
茂みの中から何かが飛び出て来て、私の顔にしがみついてきた。感触は柔らかくモフモフとした毛並みを持っている。ただ、爪と髪の毛が絡んで少し痛い……
「「メル!!」」
フローティアとルイスが心配する声が聞こえた。
私はバランスを崩すが、踏み止まり桶を地面に降ろした。貴重な水!!無駄に出来ない!!!ルイス君が持っていた桶が転がり水が零れる音が聞こえた。そして駆け寄ってくる音が聞こえる。
『むぅ~!!!』
ゼロ距離から可愛らしい鳴き声が聞こえる!?
私は顔にへばりついてきたモフモフを両手でしっかり捕まえてゆっくりと剥がした。爪立てちゃヤダよ? お願いだよ??
私の願いが通じたのかそのモフモフは私の頭から四肢を離してくれた。
やっとその正体と対面すると……白とミルクティー色の毛並みをもった初めて見る動物だった。いや、頭に小さく一対の角が生えている。この子……魔物だっ!驚いて思わず手を離そうとしたが……
『むぅ~~~♡』
この魔物は私の右腕をその太めの脚で、がっちりホールドして頬ずりしていた。
な、懐いてる!? 爪も経てずにつぶらな瞳もうるうるしていて可愛い。
「何してるんですか! メル様早く離してください!!」
「そうですよ! 食べられちゃいますよ?」
まさか! こんな小さな子が……この魔物は口を大きく開けると……
ぱくっ!
あっ……食べられたけど、痛くない。
私の右腕に噛みついた魔物をみてルイスは慌てふためいている。
「ほら言ったこっちゃない!」
「大丈夫、痛くないよ? 甘噛みというか、舐めてるだけだよ。くすぐったいよかわいいなぁ」
こんな可愛い魔物が居たんだ~。最近の展開から久々に癒される。
だがルイス君は魔物を両手で掴み私から引き離した。
「こいつ!! メル様、大丈夫ですか!?」
「うん、ただ甘えてただけみたい。可愛かったよ?」
引き離された事に不満だったのか魔物は尻尾でルイス君の顔をビシビシとはたく。
しっぽの攻撃に耐え切れず、ルイス君は魔物を手放した。
魔物はしゅた!と着地すると森の奥へと消えて行った。
ああ……可愛かったな。
「怪我が無くて良かった。さぁ、腕を洗ったら戻りますよ?」
「はぁーい……」
私達は泉を後にした。
◇ ◇ ◇
「まぁ、こんな感じでしょうか?」
埃だらけの部屋が見違えるほどきれいになった。
掃除をしたかのような貫録を出すフローだが、実際は二人でフローティアに応援されながら屋敷を必死に掃除した。大きな屋敷じゃないのが幸いして、今日使う予定のある部屋はきれいになったのだ
「少し休みましょう。僕は水を汲んできますので、メル様は着替えてください」
私達は埃だらけだ。今日の夕飯や体を清める為にも水は必要だ。私は屋敷を出ようとする彼の後を慌てて追った。
「私も一緒に行きます! ルイス様も疲れてるでしょ? 二人の方が早いです」
それに雇用主です!!
「なっ! ……ゴホン、メル様? その“ルイス様”呼びはおやめください。ルイスで結構ですので……」
「じゃあ、私もメルって呼んでください。もう聖女じゃなくて、ただのメルなんだから」
ルイスは目をギョッとさせて驚く。そんな変な事を言ったつもりはないのですが?? 彼は気恥ずかしそうに名前を呼んでくれた。
「あ、ありがとう……メル」
「うん!」
よかった! 少しルイスと距離が縮まった気がする!
私達が井戸の傍を通り過ぎようとした時だった。
見覚えがある物が井戸の蓋の上に居たのだ。森で出会った茶色と白のモフモフの魔物……器用に立ち上がってこちらを見て両手を上げていた
『むぅ~~~!!』
「こいつ! ついて来てたのか! しっし、森へ帰りなさい」
ルイスが追い払おうとするが、魔物はひらりと躱して井戸の周りをクルクルと走りまわる。そして時折井戸を気にするそぶりを見せたのだ。
「ルイス……この子、井戸を気にしてない? 何かあるのかな? 試しに蓋を開けてみてもいい?」
「いいですけど……気を付けてください?」
彼はそう言いながらも蓋を開けるのを手伝ってくれた。
蓋を開けるとひんやりとした空気を感じる。……もしや、これは??
ルイスも何か感じたのか、近くにあった小石を井戸に投げ入れた。すると……
―――ちゃぽん
「「ああああぁっ!!」」
井戸に水が満ちていた。
「待ってっ下さい、今片づけた釣瓶を持ってきますから……確か納屋に」
ルイスが踵を返した時だった。
『むっむむぅ~♪』
魔物が手を空に向けて掲げている。その動きに合わせて井戸の中から水が浮き上がる
『むぅっ♪』
魔物は私達に向けて手を差し出すと、それに合わせて水も私達目掛けて飛んできた。
「きゃあっ!!」
「わあっ!!!」
「どうしました二人とも!?」
屋敷の壁をすり抜けてフローが様子を見に来た。ずぶ濡れになってペタンと座り込む私達を見て驚く。
「二人仲良く水浴びですか? 私も混ざりたかったです」
「違いますッ!」
「この子にやられたぁ……」
「む~~~~ぅっ!」
嬉しそうに私達の周りをぴょこぴょこと走り回る魔物を捕まえて、ずいっとフローに向けて差し出した。彼女は呆れたような顔をしてため息を吐いた。
「はぁ~。何はともあれ、井戸に水が戻ってきて良かったですね?」
フローの言う通りだ。これで、水を手に入れやすくなった。
魔物は嬉しそうに私の右手に頬ずりする。
はぁ、魔境に住む生物は良く分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます