第20話 元聖女は圧を掛けられる
枯れた井戸に水が戻り、謎の魔物に懐かれ、びしょ濡れになる。
私も何を言っているか分からないけど、これは本当。
疲れと、起った事象で呆然としていた私とルイスを見てフローが一言。
「二人とも綺麗になったじゃないですか?」
せめてもう少し丁寧に洗われたかったよ!!
魔物の水遊びに強制参加させられただけなので、シンプルにずぶ濡れだ。私はルイス君と目が合った。彼も不満げな顔をしている。きっと彼も私と同じで丁寧に洗われたかったのだろう。だよね?
彼の濡れた亜麻色の髪から水滴が滴っている。イケメンはびしょ濡れになっても絵になるんだなぁ。異国の言葉で『水も滴るいい男』と聞いたことがあるが……この事を言うのかな?
「違うと思いますっ!! 二人とも何見つめ合ってるんですか!!早く着替えて来てください!!」
「「はいっ!!」」
私達はフローの声に驚き返事をすると慌てて屋敷へと戻った。
◇ ◇ ◇
着替え終わり、日も傾きかけていたので夕飯の準備をする。
食料だが、ルイスが保存の効く野菜や加工肉等を事前に運び入れてくれていたようだ。それに今日はパンも持って来てくれたらしい。これは非常に助かります。
「ルイス? イイですか?? メルにご馳走を望んでも無駄ですよ? メルの生活力はゼロです」
フローは腕を組んで仁王立ちし、ルイスに向けて真剣に説いた。
耳を疑う内容だったが、ルイスも仁王立ちでフローに対峙して冷静に答える。
「そんなの知っています」
二人とも! 真剣な顔して酷い事言ってない!?
私は二人の間に割って入り、私の情報に関する訂正を入れる。
「王宮に入る前は農村でおじいちゃん達と一緒に暮らしていたから、簡単な料理は作れます!!」
―――と、言う事で、野菜とベーコンを煮込んで味付けし、ポトフを作った。
「メル……料理できたんですね……」
フローは自身の前に少量取り分けられたポトフを見て、珍しいものでも見たといった様な顔をしている。
料理と実験って似てるよね?? 聖女になってからも魔法薬の実験をしたこあるから……絶望的に料理が出来ないという事はないハズだ……はず。
「簡単なものなら……レパートリーは少ないけど。レシピが有ればレパートリーは増えると思う。ルイスも手伝ってくれてありがとう」
ルイスも野菜を切ってくれたりなど手伝ってくれたのだ。
ジャガイモの皮を剥く彼の手つきが慣れていたので、彼は私より料理が出来る! このイケメンは何でも出来るなと感心してしまった。
「いや、久々の料理と聞いたから。それに慣れない場所で一人で作るより二人で作った方が早い」
さも『当たり前』みたいにぶっきらぼうに言う彼は、意外と怖い人ではないのかもしれない。
私達は女神と料理に感謝を捧げ、食事を始める。
ルイスが料理を口にして感想をくれた。
「おいしいです」
「口に合って良かった!」
「素朴で優しい味ですね。好きですよ?この味付け。死んでから久々です」
ちなみに、最後の感想はフローの口から語られたものだ。
「「えっ!!」」
私とルイスは驚いてフローを見る。
「食べられるのか??」
だがフローの前に有る料理に変化はない。一体どういう事だろう?
「私もよくわかりませんが、味を感じました。私の為に供えてくれたからですかね?これからもぜひよろしくお願いします。特に甘いものは大歓迎です」
「うん、そう言う事なら……」
「いいでしょう」
料理を味わいしばらく経った頃だった。
私は気になる事をルイスに聞いてみた。
「ルイスは、いつ私達が入れ替わってるって知ったの?」
「メルが大聖堂で倒れた時だ。恐らく気づいているのは僕とクラウス導師でしょう。ちなみに祖母は気づいていない」
「そんなに序盤!? 」
「ああ、僕の心眼を甘く見ないで欲しい」
「おっそろしい観察眼ですね!?」
「涙で泣きぼくろが消えていたからな。それにメルはフローより瞳の色が淡い」
―――わぁ……泣きぼくろが消えていたの全然気がづかなかった。でも、そこまで見ていたとはさすが聖女を護る騎士団の副団長。
「きもっ!そこまで見てるんですか!?」
「ちょっと、フロー。言葉が汚いよ!? ここに来てから様子がおかしいよ?……まって!? ルイス、まさか……わざと私が正体を明かそうとするときに邪魔した?」
私はルイスの行動を思い出していた、肝心な時に彼に邪魔される。私の正体を早くから知っていたなら……
「ああ、止めた。聖女暗殺が失敗したと知れたら更にもう犠牲が出かねない。屍術師もなぜ聖女の遺体を狙ったのか理由が見えない。だから貴女にはフローで居て貰いました。もちろん貴女が殺していないことも分かったので、護衛も」
はぁ……成るほど。事件後は監視の振りをした護衛だったのか……。確かにルイスの言う事には一理ある。更には屍術師を誰が城に招き入れたかも……。
「職権乱用しましたね?」
「活用と言っていただきたい」
「まぁまぁ……二人とも落ち着いて。じゃあなんで私はここに?」
「そ、それは……貴女の行き先が無いから……それに放っておくと何をするかわかりませんし……丁度この家の管理者も居ないので屋敷が痛まないようにですね……」
―――ん? なんと?
ルイスは急にしどろもどろになった。意訳は『私を保護する為』だろうか??
「嘘がヘッタクソですね」
「……何とでも言ってくれ。とにかく!メルにはこの屋敷の管理を頼みたい。侍女と言いましたが、私の世話はしなくて結構。屋敷も庭も自由に使ってください」
「え!それって、実質自由じゃん!!」
「メル?ここは魔境と言われる領地で、ほぼ自給自足に近い土地ですよ?自由どころか、生きるので精一杯ですけどね。興味はありますが」
「そうです。馬車の中でも注意しましたが、間違っても犯人捜しをしようだなんて思わないでください。貴女の使命はこの家を魔境に呑まれない様に守る事です」
本人の口から魔境というワードが出た。もう半分呑まれているじゃん!という言葉を私は飲み込んだ。大人になったと思う。
確かに直近は食材が有るからいいけど、食材を探すなり育てるなりしないと飢えてしまう。でも……え~~~
私の不服そうな顔をみてフローは諭すように話しだした。
「メル?よく聞いてください。私は若くして命を落としました。まだやりたかった事沢山あるんです。ああ……あんな生活、こんな生活したかったです」
フローは涙を拭うようなそぶりを見せている。しかし、そのミステリアスな目に光る涙は無い。
「う、うん……どんな生活」
「私、王都生まれ王都育ちでしたので田舎に憧れがありまして。お給金を貯めて田舎に屋敷を買い、そこでゆっくりと過ごすのが夢だったんです。あ~~~そんな夢も叶えられず私、可哀そうです」
フローはチラチラとこちらを見ながらオーバーに嘆いて見せる。更に彼女は続けた。
「私、聖女殺しの犯人や陰謀には、まったく! 一ミリも!! 興味ありません。死んだ本人がこう言っているんです。わぁ~~私、メルとここでゆっくりスローライフしたいですわ」
最後はやや棒読みだが、圧は有る。
「「メル、いいですね?」」
二人してずいっと顔を近づけて圧をかけて来た。
「わ、わかりました……」
ダメだ!犯人探しの話題を出したら。圧がかかる。落ち着くまでは我慢しよう。
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