第18話 騎士様と元聖女と幽霊(仮)の共同生活

 ルイスの家が所有する辺境領地の別邸で新生活することになったが、驚くべきことが3つある。


 1つは、とてつもなくボロいお屋敷だった。

 2つは、そこにルイス君と一緒に住む事。

 3つは、ルイス君が私の正体を知っていて、フローも見える事。


 ―――バタンッ!!


 私達は階段を駆け上がり、あてがわれた部屋へと逃げ込んだ。その部屋にはベッドが二つあり、小さなクローゼットと机が置いてある。

 駆け込んだ為、部屋には埃が舞い上がり咽ながら窓を開けた。新鮮な空気を吸って気を落ち着けようとするが、一人では冷静になれない。


「フロー!! どうしようっ!! ルイス君が気づいていた!!」


 一体彼はいつから気づいていたのだろうか!?

 フローは少し怒りながらブツブツとつぶやき、考えを整理している。


「フ、フロー……大丈夫?」


 フロー大きなため息を吐いた後、覚悟したかのように顔を上げる。


「……悩んでも仕方ないですね。彼の事は様子を見ましょう。とりあえず魔法を解いて、仕事着に着替えましょう。部屋が散らかっていると考えも纏まりません」


「そうだね、こんな状態じゃ眠れないもんね」


 埃だらけの室内を見渡して、ため息を吐いた。半日で綺麗に出来るだけ綺麗にしないと。

 彼がいつ私達に気付いて、私達をどうするつもりなのかが不気味だ。だけど何かするつもりなら、わざわざ私の正体を明かさないだろう……フローが言う通り、ルイス君の事は様子見だ。


 私は数日振りに髪色を薄桃色に戻した。髪を結い、作業用のワンピースに着替えエプロンを身に付ける。


「よし! 頑張るぞ! 沢山動いてよく眠る!!」

「そうです。それでこそメルです。頑張ってください」


 私はハッとして、フローを見る。

 表情から思考を読んだ彼女は、さらっと答えた。


「私は物に触れないので、応援担当です」


 ◇ ◇ ◇


 一階に居るルイスの元へ行くと、彼も汚れてもいい服装に着替えて掃除道具を出していた。彼は私を見ると少し驚いて、またいつものしかめっ面に戻る。


「水を汲みに行きましょう。家の井戸が枯れているので、少し離れた所にある泉に行きます」

「まぁ! 井戸が枯れてるんですか!?」


 私の後ろに隠れるように立っていたフローが、ひょっこりと顔を出す。


「ええ。しかし、これから行く泉も無事なのか怪しいくらいです」


 それを聞いてフローは唖然とする。

 確かに水も無ければ生きていくのが大変だ。私達はルイスの後を歩きながら尋ねる。


「このお屋敷って、どれくらい人が住まわれていないんですか?」


「1年くらいですね。本来なら祖母が住まう予定だったのですが、可愛い弟子が出来たから先にのばすと。それで時々僕が様子を見に来ていました」


「それってもしや……」


 私がドロシーの元に通い始めたのも同じ時期だ。


「貴女の事です。1年もよく隠れて通いましたね」


「えっ……それほどでも……」


「褒めていません。まったくあなたは危なっかしんだから……」


 ぴぃ!こわい!!


「怒られちゃいましたね?」


 彼とうまくやって行けるかな? 不安になってきた。


 ◇ ◇ ◇


 私達は泉と言われる……言うには心許ない水たまりの近くに来た。



 周囲の森の中からは魔物や野生動物の鳴き声が聞こえてくる。

 かろうじて水は沸いているが……水量が少ない。それに木が生い茂って辺りは暗く、雰囲気が禍々しい。


『ギャーァァァァ!!』


 森の中から複数の魔物が飛び出してきた! だけど、ルイス君は慣れた手つきで全てを成敗!!


 ―――わぁ……。


 この森は魔物飛び出し注意だぁ……。まだ小型だから良いけど噂によると大型のモノもいるらしい。森の奥からは私達を見ているのか複数の視線を感じる。だが、先ほどのルイス君の強さを見て襲うのを躊躇ているようにも感じられた。弱肉強食~。


「まぁ~た、ずいぶん禍々しい場所ですね……泉にしては心許こころもとない」


「ええ、魔界の扉が出現してから年々とこの泉の水量が減っているんです。それに合わせて屋敷の井戸の水量も減ってしまっているので、いずれはここも枯れてしまうのかもしれません」


 水が枯れたら、困るなぁ……枯れて欲しくない!

 私はおもむろに手を組んで祈ってみた。


「メル、何をしてるんですか!?」

「この泉が枯れない様にって祈ってる。あと、この周辺が清浄で有るようにって祓い清めと守りも」


 集中して祈ると周囲が一瞬光る。

 どことなく空気が澄んだ気がする。よかった、こっちの力はまだ使えた。

 正直聖女の力も失っていたらどうしようと思っていた。

 ルイス君は感心していた。


「聖女の力はまだ使えるんですね?」


「うん、この力は魔力と回路が違うイメージがあって……ってごめんなさい!!」


 聖女時代の名残で砕けた言葉遣いになってしまった。当時もこれで怒られた事がある気がする。私は怒られると思い身を縮めたが……


「言葉遣いは僕の前なら砕けていても結構ですよ」


「……はい」


 私は思わず疑う様に彼を見てしまった。彼も聖女としての振る舞いに厳しい方だったけど……私と同じくフローも彼の反応に驚いていた。


「あらまぁ。騎士団の堅物が……メルの祈りは目に見える効果はなさそうですけどね……」


 う~ん。フローの言う通り泉の水量は変わらずだった。もっと違う効果を付けておいた方が良かったかな? 飲んだら体力が回復するとか。それはまた明日にでもしょう……。


 私達は桶に水を汲み、屋敷へ帰ろうとした時だった。


 ガサガサッ!!


 茂みの中から音がして……放物線を描きながら私めがけて飛んできた。

 しまった!ここ!魔物飛び出し注意だった!!!


「「メル!!」」


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