第2章 魔境de強制スローライフ
第17話 新生活は魔境で始まる
『楽しみですねっ!? メル!!』
聖女の葬儀も無事に終わり、私達は馬車に揺られて新天地に向かう。
メルは車窓から見える風景を見ながらウキウキとしている。私達は王都から離れ、東の端に位置するクロフォード家が治める辺境の領地へと向かっている。
私は表情で『う、うん。楽しみだね……』と語り、彼女を見ながら頷いた。
言葉を発して話したいが……目の前にはルイス君もいる為話せない。フローが見えていない彼にとっては、独り言を言う怪しい女になってしまう。
私を護ってくれていた騎士が、私の雇用主に成るとは……人生何が起こるか分からない。間違っても年上で雇用主である彼にルイス君なんて言えない!
私は外を眺めるルイスに尋ねた。
「ルイス様? その……あれからベルメールの情報は出ていますか?」
「出ています。僕の領地に向かって飛ぶ姿が目撃されていますが……それっきりです」
「じゃぁ、ベルメールを捕まえるチャンスがあるって事ですか??」
そう聞いて私は目を輝かせた。今の私の心を繋ぎとめるのは、ベルメールを捕まえる事。だが私の様子を見たルイス君は露骨に嫌そうな顔をして、口酸っぱく注意する。
「チャンスはありますが、
―――ひぃっ!!
『そうですよ? メルは生前の私より魔法が使えなくなったのですから、返り討ちに逢うだけですね』
「まったくです」
確かにそうだけど……二人してそんなに反対しなくてもいいじゃない!
昨日、魔法を使おうと試みたけど、攻撃と言えるような魔法は使えなかった。せいぜい生活に困らないくらいの一般魔法だけ。頭で描いた通りに魔法を使えていた頃が懐かしい。
私は右腕に出来た赤い結晶をさすりながら、二人に返事した。
「わかりました……」
◇ ◇ ◇
そして、新たな職場兼家へと到着する。私達は馬車から降りて
灰色の雲!
『あー…………かなり、ボロ……古い家ですね』
ボロいって……フローティア、本音が漏れてるよ?
私とフローは口をあんぐりと開けて、驚きながら屋敷の外観を見る。
この領地はルイス君の家が持つものだから、実質彼の家でもある。 私は彼に聞いてみた。
「ルイス様、ここって誰か住んでいるんですか?」
まさか、この家に私だけって無いよね? まさか……
「誰も住んでいませんよ? 」
そのまさかですか……私とフローはチラチラとアイコンタクトを取る。
でも、気楽でいいのかもしれない。二人だけなら仕事の合間にベルメールを探すことが出来る!チャンス!!
「ご苦労。王都に戻っていいぞ。帰りの道中も気を付けてくれ」
ルイス君は馬車の御者に云うと、馬車は来た道を戻るように去って行った。私達を残して。
「あれ? 待ってください? ルイス様、お帰りにならないのですか?」
「ええ、そうですよ? 暫く僕もここに住まう事にしました。貴女だけでは危ないですからね。さあ、中へ入りましょう。案内します」
―――わぁ……ルイス君もここに住むんだ。チャンス消滅!
そう言って彼は自身の荷物と、私の荷物の一部を持って屋敷へと向かい歩き出した。彼もこの屋敷に住まうと聞いてフローが慌てだす。
『え!? ルイス様も住まうんですか!? 待ってください! それは話しが違ってきます!! 聞いていません!! 私は反対です!! そしたら、未婚の男女がっ!! 同じ屋根の下で二人っきりだなんて!!』
「うっ……確かにそうだけど……ルイス君は私を見るたびに険しい顔するから、男女の仲になる様な感情はないよ。ほら、フロー行こう? 置いて行かれちゃう」
彼は今まで私に対して一度たりとも爽やかな笑顔を向けた事は無い。聖女時代ご迷惑をかけたからなぁ……さらにフローティアの姿に成り、この屋敷に来ることが決まってから彼の態度は一変して厳しくなったのだ。あの爽やかイケメンが消えた……
『メル! そういう所ですよ!? 一応乙女なんですから危機感を持ってください!?』
珍しくキーキー叫ぶフローを小声で宥めて、私は荷物を抱えて彼の後を小走りで追った。屋敷に入ると彼は魔法で光を灯し案内する。室内は埃が積もっていたので窓を開けながら移動する。
屋敷はこじんまりとしているが二階建てだ。ダイニングやキッチンなど案内されながら、彼はテキパキと指示する。
「二階の右奥の部屋を使ってください。僕は二階の左奥の部屋を使います。屋敷内の設備は自由に使ってください。到着早々申し訳ないのですが、荷物を置いたら掃除の準備をしてください。このままでは夜眠れそうにないので二人で掃除しましょう」
「わかりました、着替えてまいります」
私は一礼して荷物を持って階段へ向おうとした時だった。ルイスが私の右腕を掴み引き留めた。そして低く静かな声で私に告げる。
「あと、変装も解いてください。 聖女様」
「ふぇ……??」
せいじょさま……私が聖女だって、気づいていたの!?
私は彼の腕を振りほどき、思わず後ずさる。ルイスは『敵意は無いですよ?』と言わんばかりに両手を開いて私に見せた。
『やっぱり、気づいていましたか……食えない男ですね』
「ついでに言うと……聞こえていますし、視えてますよ? フローティア嬢?」
私達は顔を見合わせて驚き、再びルイス君を見た。
「えええええ!!!!」
『なんと……』
彼は、フローも見えていたのであった。
これから始まる新生活。私の胸のドキドキは不安による動機の方が大きい。そんなスタートであった。
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