第9話 侍女たちは何かに怯える
大臣達から『大広間に全員集合!!』
と、指令が出たと言われ、急いで着替えて廊下に出る。すると私の監視役・ルイス君と目が合った。
彼は私の姿を見て少し驚いた後、すぐに目を逸らし冷たい表情になった。
―――なっ、何か悪い事したかな?? 服装どこか変だった??
私は慌ててヘッドドレスの位置を確認する。
「お待たせして、申し訳ございませんでした……」
彼はコホンと小さく咳払いをした後、笑顔に戻った。……良かった、さっきのは見間違いか。危うく怒られるのかと思った。
「いえ、こちらこそ
廊下を歩いていると後ろから声を掛けられた。
「フロー!! 大丈夫!?」
聖女担当の侍女達が2人……つまりフローの同僚だ!!
話し好きのリズとおっとりして優しいアリサ。これは、バレないように気を引き締めないと。私は息を整え、気持ちを落ち着け念じる。私はフロー……冷静沈着……。
「ええ、もう大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「良くなって安心したわ!フローが倒れた時はもうびっくりしちゃった。でも、どうしましょう! 聖女様があんなことに……この国はどうなってしまうのかしら??」
リズはクルクルと表情を変えながら嘆く。良かった、今の段階で私が偽フローである事は彼女にバレていない。しめしめ。
片や相方のアリサは顔色が悪かった。リズほど口数は多くないが、普段なら穏やかに相打ちをして、会話に参加するタイプの子だ。
「アリサ、顔色悪いけど大丈夫? 体調良くないの?」
私は思い切って尋ねてみた。
「えっ……だ、大丈夫。聖女様が亡くなって怖いなって……」
「そうなのよ!アリサ、事件が有ってからずっとこんな感じで震えてて……でも、本当に怖いよね?ドラゴンを撃退した様な方が殺されるなんて……」
アリサは不安からか、制服の左袖を右手でギュッと握った。
よく見ると目の下にはクマが有り、顔色が悪い。昨日よく眠れなかったのかな??
「フローはどこ行ってたのよ! 許可も出さずに朝帰りなんて。彼氏?」
「彼氏だなんて!!」
思わず声を荒げてしまった。前を歩いていたルイスが冷ややかな目で私を見る。更には隣りを静かに歩いていたフローもムッとして私の顔を覗いてきた。イメージが崩れるって言うんでしょ!? 分かってるって。
「……違いますよ。黙っていたのですが、実は魔法を習っていて……昨日はそれで出かけていました」
私の答えを聞いたリズは、露骨に残念そうな顔をした。
「なんだ、彼氏じゃなかったのかぁ……聖女様殺しの犯人、噂だとクラウス導師様が怪しいんじゃないかって。聖女様とは仲が良かったじゃない? 油断させて……って。それに第一発見者は導師様とシスターって話よ?」
クラウス導師は女神寺院の中で一番偉い人だ。長いプラチナブロンドの髪を結った50代のイケオジで優しく人気がある。トラブルを起こすような人には到底見えないが……
彼女が言う通り、
彼が女神から神託を受けて私が選ばれた。その為、何かと気にかけてくれるのだ。父親と娘というのかな? そんな関係だ。
よく大臣に怒られる私を『よく言って、聞かせます』と庇ってくれる人でもある。彼が居なけれな2・3時間と続く大臣の説教から抜け出せない。
大聖堂の鍵は彼が管理しているけど……私を殺す理由が見えない。
私は小さく咳払いをして、リズを諭した。
「リズ、不確かな情報をそれらしく話してはダメよ? 内部の人間の犯行とは決まっていないのだから」
「ゴメン! そうよね? クラウス導師様がそんなことする訳無いわよね? やるとしたら反聖女派の人間よね? 確かに、外から誰か入り込んでいたら怖いわ~!!」
彼女はまた一人できゃあきゃあ言いながら怖がるが……私は眉をしかめた。
「反聖女派?」
思わずぽつりとつぶやいてしまった。
その言葉を聞くとアリサはビクリと肩を震わせる。
ねぇ、待ってぇ? 反聖女派って何??
私の視線は、隣を歩くフローに向けて瞬時に泳いでゆく。彼女はこっそりと私に耳打ちした。私以外に見えないなら声も聞こえないだろう。
『近年、聖女の存在を疑問視する派閥が出来たんです。その中心人物は3大臣の内の1人、シアン大臣です』
……シアン大臣。
「君たち、遅いぞ!!」
大広間に足を踏み入れると盛大に怒鳴られた。その声で室内がしんと静まり返る。
その声の主は、鋭い目で私達を見ていた。 私達三人は素早く室内に入り、後方に並ぶ。
私達の後ろにも、まだまだ入室しようとしてる人は居るのに……なぜ聖女担当の侍女達だけ怒鳴るの? 私はムッとした表情で彼を見る。
彼こそが、何かと
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