第8話 凍れる花は黒に近い

 甘いマスクのイケメン騎士・ルイスに、聖女殺しの容疑者として『黒に近いグレー』判定を受けてしまった私は……彼に監視される事となってしまった。怖いっ!

 

 監視と聞いておののく私を、幽霊ゴースト(仮)となったフローティアは冷ややかに見つめる。あの顔は、私に『もう少し冷静になってください』と言っている。私は冷静を装い、ルイスに尋ねた。


「ルイス様? 私の他に居るんですか? その……『黒に近いグレー』」


「三人います。聖女の遺体を発見した、二人。それに貴女あなたです。その二人は現在慎重に聴取が進められています。ただ、城の外部からぞくが忍び込んだ可能性も拭いきれない。現場に証拠も残されていない為、調査は難航しています 」


 ……わぁぁ。三人かぁ。


 ◇ ◇ ◇


 話しながら歩いているうちに、使用人寮のフローの部屋の前に到着した。早くフローと作戦会議をしたい。念のため、彼に聞いてみた。


「ルイス様、まさか部屋の中に入るとかは……無いですよね??」


 彼は相変わらず、聖女に見せたことのない笑顔で爽やかに答える。そんなに態度が違うと寂しいなぁ。


「いえ、部屋の前で待っています。僕の事は気にせずゆっくり着替えて来てください。ただ、窓から逃げるのは無しですよ?『黒』だと思って追いかけますからね?」


 ひぃっ!笑顔の裏が冷たいよぅ。

 真顔で彼が私を追いかけてくる姿を想像してしまった。彼から地の果てまで追いかけられる絵面は恐怖でしかない。


「ハイ……肝に銘じます。では暫くお待ちください」


 私はそう言い残して、フローと共に部屋に入った。

 ガチャリと扉を後ろ手で閉めると、ぺたりと床に座り込む。


 あ゛~っ!! 生きた心地がしないっ!!


「『凍れる花わたし』はミステリアスなんです。扉の前だと彼にメルの声が聞こえてしまいます。早く部屋の奥に来てください」


「はぁい……」


 私はのそりと立ち上がって、部屋の奥にある木製の椅子に座った。フローの部屋は個室だ。中は整頓されていて綺麗だった。

 彼女はベッドの上に畳まれて置いてある濃紺の服を指差した。これは侍女のみんなが来ている制服。


「メル、この服に着替えてください。じゃないと目立って仕方ないので」


 確かに、お忍び用の私服で城内を歩くと目立つ。


「分かったよぅ……ねぇ、何で魔法解かないの? みんな誤解したままじゃん」


 などと疑問を聞きながらも私は制服へと着替え始めた。その濃紺のワンピースからはフローの香りがして涙腺が弛みそうになる。


「誤解を解くチャンスはまだ有ります。入れ替わったままで見える事もあるでしょう?」


 そう言われて思い当たる節があった。


「確かに……ルイス君があんなに笑う人だとは思わなかったよ。それに聖女殺しの犯人捜しを第三騎士団が名乗り出てくれて驚いた。騎士団のみんなは普段ピリピリしていたから。私、嫌われていたと思った……」


「それは、メルが彼等に心配をかけてばかりだからでしょう。油断すると前線に飛び込む聖女なんて聞いたことありません」


 それは、おっしゃる通りで返す言葉がございません。


「うっ……分かった。もう少しこのままで居る。はっ! そうだ!! フローは犯人の顔見ていないの!?」


 殺された本人が見ていれば解決なんだけど。


 彼女は左上を睨む様に見ながら考え込む。当時の事を思い出そうとしているのか、今度は目を瞑り顎に手を添えて、首を傾ける。そして、彼女は目を細めて言った。


「……覚えていないです。気が付いたらメルの前に居たので」


「そうなんだ……」


 しゅんとしてしまった。でも、怖い場面を何回も思い出すよりはいいのかな? この後も根気強く調べれば犯人も分かるはず! 私はグッと拳を握りしめ気合を入れた。そんな私を見てフローはあっけらかんと言ってのける。


「まぁ、犯人探しは興味ないんですけどね。メル、髪も直してくださいよ……って不器用だから無理ですね。髪はそのままで、ヘッドドレスとエプロンも忘れないでくださいね」


「へぇ!?!?!? 今、なんて!?」


 100歩譲って不器用のくだりはいいよ!? でも、前、その前!!


 ―――コン!コン!コン!


「フローティア嬢、どうしました!? 大きな声が聞こえましたが!? あと3大臣達が事件の件で話しがあるそうなので、使用人も大広間に集合せよとの事です。支度はできましたか?」


「ほら~。彼に騒がれるのも面倒なんで、早く行きますよ」

「わ、分かったよ~。も、問題ございません。終わりましたので、今参ります!!」


 また気になる所で邪魔が入ってしまった。いつも良い所で!! でも、目立った行動をして心証を悪くしてもいけない。私は慌ててエプロンとヘッドドレスを身に付けて、部屋から飛び出すのだった。

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