第10話 犯人探しと不審な男

 目が合えば 説教聞かされ 一時間 私は何も 悪くないのに


 思わず遠い目をしながら、過去にシアン大臣から受けた所業を思いだしていた。


 エンカウントすると、お説教を始める稀有けうな存在。彼が反聖女派なる派閥を作ったのか。へぇ~、私が知らない所で、やるねぇ。


『メルは、魔法以外には無関心だから、知らな過ぎなんです』


 私の心を読んだかのようにフローはピシャリと言ってのけた。

 それはそうなんだけどね。あぁ……だからシアン大臣は私や寺院関係者に厳しかったのか。


 大広間に使用人はじめ関係者が揃った。


 部屋の前方には三大臣が揃っている。彼らは国王陛下より勅令を受けて、まつりごとを行なうのだ。


 1人目は先ほど紹介したシアン大臣。三大臣の中で一番若い。濃いブルーの短髪に眼鏡をかけ、騎士団を統括している。


「聖女様が何者かに殺された件だが、まだ犯人は見つからんのか!!」


 ―――探してる最中ですって。お説教してたら犯人も逃げちゃいますよ。


 みんなも同じ思いなのか、騎士達以外の空気は白けている。それを見た二人目の大臣が大きく咳払いする。


 2人目はイェロー大臣。彼は60代で若い頃から諸国を巡って政治を勉強していた人だ。国王陛下とも親しい。彼は国王の右腕として二人の大臣のバランスを取ながら国内外の平和を守っている。


「シアン大臣、犯人探しも重要ですが、国内の状況を報告してください」

「それは私から……」


 言葉を挟んだのは3人目の大臣・マジェンダ大臣。50代の彼女は元王宮魔術師団の団長だ。大臣となり魔術師団と聖女と寺院関連の面倒を見てくれている。厳しくも優しい人だ。ただ、この王宮内で一番怒らせると怖いと語り継がれている。


「聖女様死亡で一番恐れられていた結界消失ですが、何故かそれはまぬがれています。その理由は現在調査中です。聖女様の訃報ふほうは、つい今しがた国内外に向けて発表しました。葬儀は明後日の予定です」


 マジェンダ大臣を悔しそうに見つめながら、シアン大臣は訊いた。


「新しい聖女選定はどうなる? 不在の期間が有っては結界が保たんだろう!! 早く新しい聖女を立てねば!!」


 えぇぇ……それはそうですけど。聖女死んだばかりよ?皆の前で話さなくても……

 でも、何で反聖女派なのに新しい聖女を立てたがるんだろう?


『恐らく、彼は神託で聖女を選ぶのが嫌みたいですね。メルが選ばれた時も、彼は別の人間を聖女にと推していました。……メルが聞きたそうな顔をしていたので』


 私の心の声が顔に書かれていましたか。


 マジェンダ大臣もそれが不快だったのか、シアン大臣を見て細眉をピクリと動かして睨んで答えた。


「次期聖女の神託は喪が明けてからと、国王様が仰せでしたので。メルティアーナ様は歴代聖女の中で一番力をお持ちで、魔法学にも熱心な方でした。彼女は生前、自身の魔力を魔法石に注入した物を大量に残しています。結界の魔力供給源は今日中にでもそちらに切り替えます」


「はぁ!? そんな、もので対応してもすぐに……」


「―――半年は持ちます。たとえ、その後石が無くなったとしても一カ月は魔術師団で対応可能です。新しい聖女様のお話は急がずとも問題ございません。まずは聖女様に感謝と安らかな眠りを願うのが先です」


 マジェンダさん! いい人!!……そう言えば、そんな魔法石を山ほど作って寺院内に転がしていたな……こんな時に役に立つとは。備えあれば憂いなしだね。

 彼女の報告を聞いてイェロ―大臣は頷いた。


「うむ、マジェンダ大臣。報告ありがとう。では聖女様を殺した……」


「ちょっと待ったーっ!!!」


 イェロ―大臣の声を遮って、この場に不釣り合いな明るい男の声が聞こえてきた。皆、一斉に入口に注目して騎士団メンバーは剣を手にして構える。


 初めて見る男だった。


 20代半ばの少し伸びたくせっ毛の金髪に、眼鏡を掛けた男。異国の魔術師だろうか、 変った紋様が入ったローブを羽織っている。警備もいたはずなのに、どうやって城に入ってきたの?


 彼の登場に室内がざわめく。そして


「「つまみ出せ」」


 イェロー大臣とマジェンダ大臣の声が被った。

 その声と共に近くに居た騎士たちが男を取り押さえて、部屋から引きずり出そうとする。


「僕は!怪しいものではありませんっ!!聖女を殺した犯人を捜してると聞いてやってきました。僕ならその犯人、わかりますっ!!」


『わかりますっ!!』の所で、眼鏡をちゃきっと上げてドヤ顔をするこの男。怪しい……


『まぁた、変なのが出てきましたね』


 フローは眉をひそめてぼやいた。


 はぁ~……そうね。

 私、色々事件が起き過ぎてもう驚かなくなってきたよ……


 盛大なため息を吐くしかなかった。

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