第4話 ただ、もう一度会いたくて……

 魔法店の魔女、ドロシーが仮眠を取っている間、私は彼女から借りた本を読んで時間が過ぎるのを待っていた。


 聖女の力があるのに、なぜ私が魔法に執着するのかというと……この国を取り巻く情勢はあまりよろしくない。


 自然豊かで資源が豊富なこの国は、水面下で周囲の国々から狙われている。更には魔界と繋がる扉も国内に存在している為、時々魔物がやって来るなど問題が山積みだ。


 聖女の力は魔物や呪いなどのよこしまな存在から人々を守る事はできるが、人間からは守れない……。


 しかし、強大な魔力を持つ聖女が魔法を得意とするとなったら話は別だ。その存在は他国や魔界からの侵略の抑止力となり、そのおかげで平和が保たれてるとも聞かされた。


 そう聞かされたら、強くなるしかないよね?


 ◇ ◇ ◇


 本を読み終わる頃には、空が白み始めてきた。

 ドロシーも目覚めて、寝室からリビングに戻ってくる。


「ティア、おはよう。また徹夜で読んでいたのかい? 無理をすると倒れてしまうよ?」

「おはよう。大丈夫だよ! 体力があるのも私の取り柄だから。それより召喚魔法やろう」


 おばぁは困った顔で笑うと「仕方ないわね」といって私を手招きした。


 私とおばぁは庭に出ると召喚魔法の準備をする。大きく魔法陣が描かれた紙を広げて地面に敷いた。私はその前にひざまずき、祈るように両手を組む。


「いいかい? 急激に魔力を練ると私みたいになるから、徐々に魔力を練るんだよ?」


 おばぁの右腕は一部が青い宝石の様に固くなっている。これは強い魔術師や魔法戦士に見られる症状だ。


 流れる魔力がその人のキャパを越えると体の組織が変形・宝石化してしまう。一度そうなると治らないし、魔力の流れも変わって高度な魔法の扱いは難しくなってしまう。私は真顔でこくりと頷いた。


「無理だと分かったら、すぐに魔法陣を壊すんだよ?」


 そう言って彼女はかたわらに小さなナイフを置く。


「ドロシー。始めるね」

「ええ、がんばって」


 私は呼吸を整えて召喚魔法の詠唱を始める。


 召喚魔法は異界から召喚獣を呼んで契約・使役するものだ。これはかなり魔力を使うため上級向け。今回、何が出て来るかはお楽しみ。


 それに、呼び出したモノと信頼関係が築けない場合は、それと戦いが始まってしまう。力ずくで使役することが出来ればラッキー。最悪は命を落とす。


 言葉を紡ぐ度に体中に痺れるような痛みが走り、魔力を取られていく。無事に詠唱が終り、瞼を開けた。私の魔力を吸った魔法陣が白く輝いている。


 ……お願い、来て!!


「私の相棒になってください!!」


 私は最後に印を結んで魔法陣に魔力を流し込む。すると魔法陣から天に向かい光が放たれるが……



 スンッ……



 光が……き、消えた!?


 私は魔法陣と空を交互に見る。空中に何か居る訳でもなかった。

 じゃあ後ろかと思い振り向くと、そこには困った顔をしたドロシー。


「ティア、どうやら失敗したみたいだね……」

「えぇ!! 嘘でしょ!? 魔力の無駄遣いで終わったの!? あー……」


 えぐいよ~。なんでぇ~??……私は地面にバタンと倒れ込む。あぁ……空が明るくなってきた。


 ―――まずい! 夜明けが近い!! フローに怒られる!!


「おばぁ、ごめん! 私、帰らなきゃ!! 今日もありがとう! また魔法陣改善出来たら連絡するね!!」

「わかったわ。気を付けて帰るんだよ」


 私はふらつきながらも杖に乗り、猛スピードで城へと向かう。


 ◇ ◇ ◇

 

 寝不足に、魔力を悪戯いたずらに消費しただけなんてっ! あんまりだ!!


 ぶつぶつとボヤきながら飛んでいると城が近づくにつれて、違和感を感じた。早朝だというのに人が多い。大聖堂の方で何かあったようだった。それに私の部屋に誰かいる。


 私は庭の木陰に降り立って、大聖堂の近くで耳をそばだてた。


「大変だ! 大聖堂で聖女様が殺された!!」

「魔術医を早く!!それに国王様にも連絡を!!」

「朝の勤めの為に、中に入ったらっ……聖女様が冷たくなってて……」


 ―――え? 聖女わたしが殺された?


 丁度、近くを私の侍女たちが走って行ったので、フローティアの姿のまま彼女達の後ろを付いて行った。


 きっと、何かの間違い。フローは生きているはず。


 大聖堂に入ると数人の騎士が人が近づけないように規制線を張り、その奥に倒れている人影が見えた。


 白いネグリジェに薄桃色の髪。あの姿は私に化けたフローだ。


 ……なんで?


 ……嘘だ……あぁ……血の色からしてもうだめだ……魂が体から離れている。治癒魔法も効かない……えっ、待って?




 ―――私の所為せいで、フローティアが死んだ?




「お願いです! 通してください!!」


 どうしよう……どうしよう!! そうだ! 彼女はフローだって言わなきゃ。

 手が震えて、喉が締め付けられるように痛い。彼女の元に向かい走るが制止される。


「お願い! 離して!!」


 昨晩の呆れながらも微笑む彼女が脳裏をよぎった。


 嘘でしょ? もう会えないの?? これから先も、ずっと一緒だと思ったのに!! ごめん! 私が交換しようって言ったから!!!


「嘘よ! そんな……こんな事って……なぜあなたが?……聖女は……」


『……ダメ』


 ◇ ◇ ◇


 目が覚めると医務室の天井が見えた。


 どれぐらい眠っていたんだろう? 窓から見える景色は……お昼に近い。 確か……貧血で倒れて医務室に運ばれたんだ。早く大聖堂に戻らなきゃ。


 私は重い体を起こすとそこには―――


「お帰りなさい、メル。まぁ~た、徹夜で本でも読んでいたんですか?」


 フローティアが居た。

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