第62話 勝負の結末と


「ロイドさま! 大丈夫ですか?!」


「あ、ああ。いつっ」


「ポーションすぐに出しますね!」


 リリナは俺のもとに駆け寄ってくると、俺の荷物からポーションを取り出して俺に飲ませてくれた。


 俺はそのままリリナからポーションを受け取り、瓶に入っているポーションを飲みきる。


 俺は体の痛む部分を押さえながらも、ステータスを表示させる。


確認するところは、『ステータス』で奪ったスキル一覧。


 すると、そこにはやはり『支援』と書かれたスキルが入っていた。


 やっぱり、ケインの『支援』のスキルがある。


 俺が奪ったことだよな?


 でも、なんで……。


 俺はそこまで考えて、さっきの一連の出来事を思い出す。


 俺は『スティール』を使った瞬間、ザードに体を吹っ飛ばされた。


 そういえば、その時に俺の左手はケインに向けられていた気がする。


 つまり、さっきの俺の『スティール』はワイバーンにではなく、ケインに使ったということになるのか。


「ロイドさま……」


 俺がそう考えていると、リリナは心配そうに俺を見つめる。


 それから、リリナは顔を俯かせてからぼそっと呟く。


「……許さない」


 リリナはすくっと立ち上がると、温度を感じさせない冷たい目をザードに向ける。


俺はその目に既視感を覚えて、慌ててリリナの手を掴む。


「ま、待ってくれ、リリナ! 俺は大丈夫だから、な?」


「嘘ですロイドさま痛そうな顔してます」


 俺がリリナを止めようとすると、リリナはこてんと力なく首を傾げる。


 まずいな、このままだとザードの命が危ない。


「ほ、本当に大丈夫だから。な?」


 俺が軽くリリナを揺らすと、リリナは目をぱちぱちとさせてから、あれ?と言っていつもの調子に戻った。


 俺はいつも通りになったリリナを見て胸をなでおろす。


それから、俺は俺を突き飛ばしたザードたちの方を見る。


 ザードたちはというと、吹っ飛ばされた俺の代わりにワイバーンに目を付けられていたみたいだった。


「ザード! そのまま突っ込め! 俺の『支援』がある限り、おまえはA級冒険者なんだからな!」


 ケインはザードに命令して、後ろの方で得意げに笑っている。


 どうやら、ケインはまだ『支援』を奪われたことを把握していないらしい。


 いや、まて、この状況かなりマズくないか?


「いくぞ、ザード!『支援』! あ、あれ?」


「ああ、分かってる! 『硬化』、『強突』!! ん? お、おいっ」


「ガアアア!!」


 ワイバーンに突っ込んでいったザードは途中で何かに気づいたようだったが、ワイバーンの前足に大きく跳ね飛ばされた。


 ガシャンッ!!


「ぐわぁっ!!」


 ザードの盾とワイバーンの爪が衝突して、鈍い金属音が響く。


 そして、ザードはそんな声を上げながら地面に体を強打する。


「ぐうぅっ……おい、ケイン! なんで『支援』をしないんだ!!」


 ザードが血だらけの右手を押さえながら叫ぶと、ケインは何が起きたのか分からないといった様子でたじろぐ。


「し、したはずなんだ! なんで『支援』が発動しないんだ? え、どういうことだ?」


「ケインさん、私にも『支援』をお願いします! ザードさん、すぐに治しますからね!」


「あ、ああ。『支援』!」


 ケインとエミは急いでザードのもとに駆けよる。


それから、エミがザードの傷口を確認してから優しく手を当てる。


「『ヒール』……ちょっと、ケインさん! 早く『支援』を!」


「や、やってるぞ! 使ってるはずなのに、な、なんで発動しないんだ?」


「もうっ、『支援』が使えないなら邪魔なんでどいていてください!」


 エミは苛立った様子でそう言うと、ケインを強くどんっと押す。


 ケインは押されてふらふらとしてから、ぶつぶつと独り言を漏らす。


「いやいや、急に使えなくなるっておかしいだろ。え? 『支援』がなくなったらどうなるんだ? お、俺の立ち位置は? せっかくモテるようになって、お金だって入ってきて、俺を見下していた奴らを見返してきたのに……」


 ケインは顔を俯かせながら、そう言って力なくぺたんと座り込む。


 それからふと顔を上げて、俺と目が合ったケインは何かに気づいたように声を漏らす。


「ロ、ロイド。おまえ、まさか……俺の『支援』を奪ったのか?」


 その顔は悪役というにしては覇気がなく、主人公というにしては誠実さがないように思えた。


「なんでだよ。おれのスキルなんていらないって言ってただろ? 『ザコのスキルなんかあったら、俺が穢れるだろ』って言って笑っていただろ? それなのに、な、なんで急に奪うんだよ! な、なんでぇ!!」


 何かに縋るような顔を向けられて、俺は思わずケインから目を逸らす。


「ガアアアア!!」


 すると、ケインのすぐ後ろに移動していたワイバーンが大きな口を開けていた。


 口から火の粉を零している様子から、また炎を吐くのだろう。


 それだというのに、ケインは全くそれに気づく素振りを見せない。


「ロイド! 答えろよ! なんで、なんで今になってこんなことするんだよ!!」


 チュンッ!


 ケインが大声を出していると、ケインのすぐ隣を矢が勢いよく通り過ぎた。


 そして、矢は炎を吐こうとしていたワイバーンの目をえぐる。


「ガアアアア!!」


「え、な、何が起こって……」


 ケインは頬にかすった矢に驚きながら、微かに垂れてきた血を拭う。


「邪魔です。矢で貫かれたくなければ、どいていてください」


 アリシャはそう言うと、またすぐに次の矢を弓にセットする。


 アリシャの声が怒りを抑えたような声だったこともあってか、ケインは慌てるようにワイバーンから離れる。


 アリシャの怒りは以前に仲間を傷つけられたことによるものなのか、さっきザードに俺を攻撃させたことなのかは分からない。


 分からないが、その怒りが確かなものであることは分かった。


 ケインは脚を空回りさせて、こけながらワイバーンから逃げる。


その様子は、なんと言うかとても惨めに見えた。


「……とりあえず、ワイバーンを倒してこの勝負を終わらせるか」


「ロイドさま、お体は大丈夫なのですか?」


「ああ。まだ痛むけど問題はない。リリナのおかげもあって、随分とワイバーンの動きも悪くなってるみたいだからな」


 俺はリリナにそう言ってから、足元がおぼつかなくなっているワイバーンを見る。


 多分、時間が経ってリリナの毒が効いてきたのだろう。それか、まだ俺の魔法の効果が残っているのかもしれない。


 俺は初めに見たような俊敏さがないワイバーンに左手を向けて、ぐっと力を入れる。


「『スティール』」


 俺が『スティール』を使うと、左の手のひらがぱぁっと微かに光る。


 そして、その後すぐにステータスを表示する画面が現れた。


『スティールによる強奪成功 スキル:炎弾』


「ガ、ガア?」


 俺がスキルを奪うと、ワイバーンの口から漏れ出ていた火の粉が急に姿を消した。


 それも仕方がないのかもしれない。


 そのもとを俺が奪ってしまったのだから。


 俺が戸惑っているワイバーンの元に駆け出すと、ワイバーンは俺に噛みつこうとして大きな口を開ける。


 そして、その口が俺に迫って来たタイミングで、俺は振り上げた長剣を思いっきり振り下ろす。


 多分、炎を吐くことができても、口から炎を放り込まれたら普通じゃいられないだろう。


「『炎弾』!」


 ゴワアアァ!!


 俺が剣を振り下ろすと、炎の塊が唸りを上げながら勢いよくワイバーンを襲う。


 ワイバーンが口を開けていたこともあって、炎の塊はそのままワイバーンの体の内側を焼き尽くす。


「ガアアアアアアァ!!」


 ワイバーンはそんな断末魔のような悲鳴を上げて、地面に勢いよく倒れむ。


 そして、俺はその隙にワイバーンの首元に回り込む。


「じゃあな、これで最後だ。『豪力』!」


 俺が力いっぱいに剣を振り下ろすと、ワイバーンはそれっきり動かなくなった。


 こうして、俺たちとワイバーンの戦いは幕を下ろしたのだった。



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