第61話 新しい作戦
「……うん、この作戦が一番成功率が高いか?」
「ガアアアア!!」
俺がワイバーンを前に作戦を考えていると、ワイバーンが痺れを切らしたのかまた俺のもとに突っ込んで来ようとしていた。
俺は慌てて左手を地面につける。
「そう何度も受けられるかよ。『黒霧』!」
俺はそう言って、ワイバーンの視界を奪うために黒い霧を発生させる。
「ガアア……」
俺は一瞬大人しくなったワイバーンの声を聞きながら、急いでアリシャがいる付近に走っていく。
確か、記憶が正しければこの辺にいるはずだ。
俺がそう考えながらきょろきょろと探していると、『潜伏』で見つけづらくなっているアリシャを見つめた。
「いた、アリシャ! 作戦があるんだが聞いてくれるか?」
「ロイドさま。はい、もちろんです」
アリシャは一瞬驚いてから、こくんと頷く。
俺はアリシャの反応を見てから、きょろきょろと近くにリリナがいないか見渡す。
「できれば、リリナとも作戦を共有したかったんだが……」
今回の作戦はリリナとアリシャの役割が大きい。
だから、リリナとも情報を共有したかったのだが、『隠密』のスキルで隠れているリリナを見つけるのは難しいみたいだ。
「お呼びですか、ロイドさま」
「うわっ! びっくりした。いたのか、リリナ」
「もちろんです。ロイドさまのいるところに私ありですから!」
リリナはそう言うと、誇らしげにそう言って胸を張る。
どうやら、俺が気づかないだけで俺たちのすぐ近くにいたらしい。
……もしかしたら、リリナは俺が思っている以上に暗殺者としての素質があるのかもしれないな。
俺はそんなことを考えながら、小さく咳ばらいをする。
「とりあえず、リリナが近くにいてくれてよかったよ。作戦変更だ。二人にしてもらいたいことがある」
俺はそう言ってから、二人に今回の作戦を伝えるのだった。
「ガアアァ!!」
俺たちが作戦の共有と準備を終えた頃、ワイバーンが咆哮した。
それと同時に凄い勢いの風が『黒霧』を霧散させて、ワイバーンの視界を遮るものは何もなくなる。
そして、俺と目が合ったワイバーンはまた口から火の粉を漏らしていた。
「まぁ、長くはもたないだろとは思っていたよ」
俺はそんな言葉を漏らしてから、長剣の切っ先をワイバーンに向ける。
シューンッ、ピシッ、ピシッ!
すると、俺の後方からワイバーンに数本の矢が飛んでいって直撃した。
しかし、今度はその矢は刺さることなく、当たっただけで落ちていく。
ワイバーンからすると、ただ目障りで防ぐ必要もない攻撃だろう。
当然、そこに防御系のスキルを振ることもしないし、剣を構えている俺の攻撃に備えるはず。
「『瞬風』、『瞬風』、『瞬風』……」
「『鋭刃』、『弱点地点』……アリシャ、あそこ狙って」
俺は後ろでアリシャとリリナの声を聞きながら、にやりと口元を緩める。
奇襲を狙おうとしても避けられて狙えないという状況。
……それなら、油断する状況をこっちで作ってやるしかないよな。
「『狙撃』!」
シューーーンッ!!!
すると、今度はアリシャが凄まじい勢いの矢をワイバーンに飛ばした。
ワイバーンは矢が当たる直前で威力の違いに気づいたようだが、驚いて体を少しよじらせることしかできず、アリシャの矢が深くまで刺さる。
ズシャァッ!!
「ガアアアア!!」
リリナの『弱点地点』や『鋭刃』のスキルのおかげもあってか、アリシャの矢は随分と奥深くまで刺さった。
俺はその矢から不自然に垂れている一本の糸をぎゅっと握る。
その糸はクモのような魔物と戦った時に奪った『硬糸(魔)』というスキルだった。
「最大火力でいくぞ。『中級魔法 雷痙』!」
俺が『硬糸』を握りながら魔法を使うと、その魔法は糸を伝ってワイバーンの元へと向かっていく。
すると、突然ワイバーンの体が大きく跳ねる。
体の内側から痺れさせようとしてんだから、防ぎようがないよな。
「ガアアアア!!」
ワイバーンは体が痺れてしまったのか、体の自由が利かなくなって地面に落下する。
「『瞬地(魔)』」
俺はその瞬間を逃さず、『硬糸』に触れたまま駆けだす。
ズドォーーン!!
ワイバーンが地面に落下して、地面を揺らす音を聞きながら、俺はスキルを使ってワイバーンの目の前に移動する。
そして、その勢いのままに長剣を振り上げる。
「『豪力(魔)』!」
ズシャァァァンッ!
「ガアアアアアア!!」
俺が長剣を思いっきり振り下ろすと、ワイバーンの体から血しぶきが上がる。
……くそっ、結構硬いな。
力任せに斬りつけたはいいが、他の魔物ように体を真っ二つにすることはできず、大きな一太刀が入っただけだった。
「『弱点地点』、『鋭刃』、『毒刃』」
「ガアアァ!!」
そして、俺の近くではリリナがワイバーンの弱点に短剣を突き立ていた。
肉をえぐられて暴れそうになるワイバーンを見ながら、俺は左手をワイバーンに向ける。
ここまでダメージを与えたのなら、俺のスティールも効くかもしれない。
俺は左手をぐっと構えて力を入れる。
「『スティール』!」
「ロイドさま! 後ろ!」
「後ろ?」
リリナの声に驚いて振り向こうとしたとき、横腹に強い衝撃が走った。
そして、そのすぐ後に自分の体がふわっと浮いた。
「おおお! 『強突』!」
聞き覚えのある声を聞きながら、俺は宙を舞う。
何が起きているのか振り向こうとした左の手のひらは、もっと後方にいるある人物の方に向いていた。
「よくやったザード! そのままロイドを潰して、俺たちが手柄を横取りしてやるんだ!!」
俺が吹っ飛ばされた所を見て、高笑いをしているのはこのアニメの主人公のケインだった。
下品な笑い声は、もうこのアニメの主人公としての要素は何も残っていないように見える。
いや、まだケインには主人公らしい要素があったか。
パーティメンバーの力を底上げするケインだけのスキル『支援』。
それがある限り、ケインはまだこのアニメの主人公なのかもしれない。
「がはっ! ごほっ、ごほっ!!」
俺は地面に転がされて砂ぼこりまみれになりながら、ちらっと俺を吹っ飛ばした奴を見る。
すると、そこにはニヤッとした笑みを浮かべるザードの姿があった。
「くそっ、『支援』した体で突っ込んできやがって」
俺はズキンと痛む横腹を擦りながら、ザードを睨む。
これって、大丈夫な痛みなのか?
俺があまりの痛さに蹲っていると、急に俺の目の前にステータスを表示する画面が現れる。
「え、さっきの『スティール』成功したのか? ……ん?」
『スティール』を使った直後に吹っ飛ばされて、左手は別の所を向いていた気がする。
あの状態でも何かスキルを奪えたというのか?
俺がそんなことを考えていると、ステータスを表示する画面には思いもしなかったスキルが表示されていた。
『スティールによる強奪成功 スキル:支援』
「え、」
俺はそこに表示されたスキルを見て、思わずそんな言葉を漏らすのだった。
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