第60話 ワイバーンとの戦闘


 俺は初めて肉眼で見るワイバーンを前に軽く感動していた。


 今まで相手にしてきた魔物は前世で似たような動物を見たことがあったが、ワイバーンは俺が前世で見てきたどの動物とも違っているように見える。


「ん? なんか殺気立ってないか?」


「グルルッ……」


 確か、冒険者ギルドの話ではこの洞窟を住処にしているという話だった。


 てっきり、自分の住処なのだからくつろいでいるものかと思ったが、辺りをきょろきょろと見渡りしていたり、小さく唸っていたりして落ち着いていないよう見える。


 俺が不思議に思って首を傾げていると、それを見ていたリリナが隣で呟く。


「私たちのことに気づいていなくても、自分の縄張りに何者かが入ってきたことには気づいているのかもしれませんね」


「なるほどな。そうなってくると、いつかは俺たちのこともバレるってことだよな」


『潜伏』のスキルは姿を見えなくするスキルではない。あくまで、気づかれにくくするスキルだ。


 何者かがいるかもしれないと警戒されていると、『潜伏』のスキルの効果も薄くするかもそれない。


「それなら、今のうちに先手を取った方がいいかもな」


 相手の方が力が強いのなら、先手を取ることは必須だ。


 不意を突けるかもしれないこのチャンスを逃すのは得策ではないだろう。


 俺がそう言うとリリナとアリシャはこくんと頷く。


 それから、リリナとアリシャが武器を構えたを見て俺は言葉を続ける。


「それじゃあ、アリシャは遠くから弓で、リリナは隙を見て魔物にダメージを与えてくれ。俺は魔物の注意が二人にいかないように派手に動くからな」


 俺は二人が再び頷いたのを確認してから、二人から距離を取る。


 そして、俺が少し距離を取ったのを確認してから、アリシャは矢の先をワイバーンに向ける。


「『瞬風』、『瞬風』……『狙撃』」


 シューーンッ!!


 そして、勢いよく風を切る音と共に、矢はワイバーンに向かっていく。


「ガアァァ!!」


 しかしワイバーンは飛んでくる矢に気づいたのか、突然大きな咆哮を上げて空に飛び立つ。


 アリシャの矢はひらりとかわされてしまい、ワイバーンがじろっとアリシャがいる方角を睨む。


まずい、このままだとアリシャの居場所がバレる!


そう思った俺は慌てて『潜伏』を解いて、ワイバーンの元に飛び出す。


 そして、ワイバーンが俺の姿に気づいた瞬間、長剣を振り上げる。


「『嵐爪』!」


 俺が剣を振り下ろすと、勢いよく斬撃がワイバーンの元に飛んでいく。


「ガアァァ!!」


 ガギィィィィン!!


 しかし、俺の斬撃はワイバーンの硬い爪で弾かれて、洞窟の壁をえぐるだけの結果に終わる。


 あんな簡単に『嵐爪』を……何かのスキルか?


 俺がそんなことを考えていると、ワイバーンは俺をじっと見る。


「ガアァァ!!」


 そして、ワイバーンは俺に向けて咆哮する。


 どうやら、随分と怒っているみたいだ。


 ワイバーンの口の端から火の粉のようなものが飛んでいるのは、気のせいだろうか?


「『瞬風』、『瞬風』……『狙撃』」


 俺がそんなことを考えていると、ワイバーンに向かって一本の矢が勢いよく飛んでいく。


 シューーンッ!! ガガッ!


 アリシャの飛ばした矢はワイバーンの体に直撃したが、勢いが弱かったのか先が軽く刺さっただけでピタリと止まった。


 おそらく、遠目からでも分かる硬い鱗のせいだろう。


 やはり、決定打には欠けるか。


「ガアアアア!!」


 すると、ワイバーンは矢が飛んできた方をちらっと見てから、俺の方に凄い勢いで向かってきた。


 そして、口を大きく開けると、火の粉を辺りに振り撒きながら炎の玉のような塊を吐き出してきた。


 ゴウゥゥ!!


 勢いよく俺に向かってくる炎を前に、俺は慌てて剣を構える。


「くそっ、『竜風(魔)』!」


 俺が剣を振り下ろしてスキルを使うと、台風の目を横にしたような形の竜巻が、炎の塊に向かって飛んでいった。


 そして、竜巻は炎の塊と衝突すると、炎の塊と相殺されて熱風を辺りに吹き散らす。


 ボシュゥゥッ!!


「あつっ……ん?」


「ガアアア!!」


 俺が熱風に目を細めると、その熱風に紛れてワイバーンが俺のもとに突っ込んで来て、鋭い爪を俺にぐっと伸ばしてきた。


 俺は慌ててまた長剣を構えて、伸びてきたワイバーンの爪を弾く。


「うおぉっ! 『豪力(魔)』!」


「ガアアァ!!」


 ガギャンッッ!! ガガッ!!


 俺がなんとか力任せに剣を振ってワイバーンの爪を弾くと、鈍い金属音が洞窟に響く。


 その勢いをもろに受けた地面が大きくえぐれて、ワイバーンは一度俺と距離を取るために翼を広げて空を舞う。


「はぁ、はぁ……随分とパワー系の戦い方をしてきやがる」


 なんとか攻撃をしのぎ切った俺とは違って、ワイバーンは軽やかに翼をはためかせている。


「まともに戦いをするためにも、まずは何とか地上に下りてきてもらわないとな」


 俺はそんなことを呟きながら、頬に伝ってきた汗を拭うのだった。

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