第58話 クモの魔物
「とりあえず、リリナとアリシャは魔物と距離を取ってくれ」
俺は長い脚をかさかさと動かすクモの魔物を前に、二人に指示を出す。
俺の考える作戦は単純だった。
遠くからアリシャに狙撃をしてもらいながら、その不意をリリナについてもらう。
あとは、俺が決定打を打ちこむというパターン。
何度も成功しているこのパターンでいけば、倒せない相手ではないはずだ。
とりあえず、二人が距離を取れるように時間を稼がないとな。
俺がそう考えて長剣をふり上げるよりも先に、クモのような魔物は口をもごもごとさせてから、上を向く。
ブシュルルッ!!
そして、何かを吐いたと思った次の瞬間には、俺たちの周りに半透明の何かが張り巡らされる。
陽の光に照らされて見える糸は何かの規則に従うように張られており、俺たちを逃がさないという強い意思を感じる。
「クモの巣、ですかこれ?」
「ああ。それも特大のな。リリナ、アリシャ。迂闊に触れるなよ」
下手に距離を取ろうとしたら、このクモの巣に捕まえられてしまうかもしれない。
俺たちが動かなくなっていると、魔物はクモの巣に飛び乗ってこちらの出方を窺うようにじっと見ている。
「とりあえず、ここから狙いますね」
アリシャはそう言うと、クモの魔物に弓を構える。
その瞬間、張り巡らされたクモの巣が微かに揺れる。
カサカサカサッ!
すると、その揺れを感じ取ったのか、魔物がクモの巣を伝って勢いよくアリシャに向かっていく。
「え?」
動きだした魔物に対して、アリシャはまだ『瞬風』を展開できていない。
マズい! このままだとアリシャが魔物の餌食になる!
そう思った俺は、体の向きを変えて振り上げていた長剣を思いっきり振り下ろす。
「『豪力(魔)』!」
ズシャァァァン!!
ちょうど魔物とアリシャの間に剣を振り下ろすと、魔物は俺の『豪力』に驚いたのか慌てて後退する。
俺が長剣を振り下ろした先では、斬られたクモの巣がはらりと舞っていた。
……やっぱり、この糸はある程度力を入れれば無理やり切れるな。
俺はそう考えると、再び長剣を振り被って長剣を振り回す。
「『豪力(魔)』! 『嵐爪(魔)』!」
ズシャァァァン!! バギャンッ!!
俺がスキルを使ってクモの巣を斬りまくると、俺たちの近くにあったクモの巣をあらかた取ることができた。
「けほっ、けほっ」
「こほっ、ロイドさま、戦い方がワイルドですね」
……少しやり過ぎたかもしれないな。
リリスとアリシャが砂煙で咳き込む姿を見て、俺は申し訳なさを覚える。
「リリナ、『潜伏』と『隠密』でアリシャと共に息を潜めていてくれ。アリシャはいつでも『狙撃』を打てる準備を頼む」
俺がそう言うと、リリスは急いでアリシャの手を取る。
「わかりました、ロイドさま」
「はい、いつでも撃てるようにしておきますね」
俺の背後に回った二人の声を聞いてから、俺は魔物を正面から見てどうしたものかと考える。
俺たちの周りにあったクモの巣は切ったと言っても、魔物に近づくためにはまだクモの巣を切る必要がある。
でも、目の前に広がるクモの巣を全て切って魔物の元に向かうというのは、あまりにも効率が悪すぎるしな。
魔物はどこか余裕があるのか、遠くから俺の行動をじっと観察しているようだった。
『嵐爪』で斬撃を飛ばすか?
いや、それだとただ避けられて終わる気がするな。
この状況で相手の動きを封じる技……。
「『嵐爪』よりもこっちの方がいいか?」
俺はそこまで考えてから、長剣を振り上げる。
「『竜風(魔)』!」
俺が剣を振り下ろしてスキルと使うと、台風の目を横にしたような状態の竜巻が魔物に向かって飛んでいった。
微かに地面を削るような勢いで飛んでいった竜巻は、クモの巣を断ち切ったり絡めたりして、魔物の足場を乱す。
そう、あくまで俺の狙いは相手の動きを止めること。
「ギ、ギッ」
「今だ、アリシャ!」
俺がそう言うと、俺の後ろから勢いよく風を切る音が聞こえた。
シューンッッ!!
そして、勢いよく飛んでいった矢は足場を乱されて動けない魔物の体を貫く。
ズシャッ!! ズシャッ!
「ギ、ギッ!」
二本の矢に体を貫かれた魔物は、そんな声を漏らして動きが鈍くなる。
リリナの『潜伏』と『暗躍』のスキルの力があってか、完全に不意を突かれて防御をすることができなかったのだろう。
俺は魔物が軽くよろめくのを見て、左手をぐっと魔物に向ける。
……この一瞬の隙を逃すわけにはいかない。
「『スティール』!」
俺がスティールを使うと、左の手のひらがぱぁっと光る。
そして、すぐにステータスを表示する画面が表示された。
『スティールによる強奪成功 スキル:硬糸(魔)』
「よっし、一番面倒くさそうなのを奪えたな」
俺が小さくガッツポーズをするが、まだスキルを奪われた魔物はそれに気づいていない様子だった。
さて、このスキルがどんなものなのか。
「せっかくだから、試してみるかな。『硬糸(魔)』」
シュルルッ!
俺が左手を魔物に向けながらスキルを使うと、クモの糸が俺の手から伸びていって魔物の体をぐるぐる巻きに縛り付ける。
「ぎ、ギ!」
「なるほど、拘束用のスキルか。結構自在に操れる感じなのか」
それから、俺は魔物相手に『硬糸』を使用して、使い方を色々と試すことにした。
色々と試しているうちに、すっかり動かくなった魔物を前に俺はまた左手を向ける。
「せっかくだから、スキルは取れるだけ取っておかないとな」
「ギ、ギ……」
俺は脅えるような魔物にスティールを浴びせてから、最後にまた剣を振り下ろすのだった。
ワイバーンを相手にする前に、良いスキルが奪えたかもしれない。
そんな事を考えて、俺たちは引き続き森のてっぺんを目指すのだった。
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