第57話 バランスの取れたパーティ


俺たちはレナを森の入り口近くに置いて、そのまま森のてっぺんへと向かっていた。


 色々と考えたいことはあるが、今はそれよりも勝負を優先しなければならない。


 俺はレナから聞いたことを一旦忘れるように自分に言い聞かせて、勝負に集中することにした。


 その森だが、どうも以前とは少し様子が違っているようだった。


 以前秘薬を取りに森のてっぺんまで向かった時に比べて、道中の魔物たちは活性化していなかった。


 まだケインたちが『デコイ』をした影響が残っているが、以前ほどの戦闘を強いられることはなかった。


その結果、俺たちは以前よりも早く森のてっぺんを目指すことができそうだった。


……まぁ、俺たちが楽をできているのはそれだけではないんだけどな。


「あ、ちょっと待ってください。あそこに魔物がいます」


 アリシャはそう言うと、何もいない茂みの奥を指さす。


「……何かいるのか?」


「どうなんでしょう。私も分かりません」


 俺とリリナが目を細めてアリシャが指さす方を見ていると、アリシャは手際よくコンパウンドボウを構える。


「『遠視』。うん、そんなに強くなさそうなので、ここから狙っちゃいますね。『瞬風』……『狙撃』」


 そして、アリシャはそう言うと、流れるような仕草で弓を引く。


 シュンッッ!


「ビギィィ!!」


 そんな風を切り裂く音が聞こえたと思った次の瞬間、遠くで魔物の悲鳴が上がった。


 俺がちらっとアリシャを見ると、アリシャは満足げにこくんと頷く。


「やりました。一発です、ロイドさま」


「そ、そっか。すごいな。いや、本当に」


 俺は魔物の悲鳴がした方を見ながら、そんなことを呟く。


 一体、これで何度目だろうか?


 アリシャが俺たちに見えない魔物を仕留めたのは。


 そう、俺たちが森をスムーズに進めているのは、アリシャが俺たちに見えないくらい遠くにいる魔物を簡単に倒してくれるからだ。


 魔物もそんなに遠くから狙われるとは思っていないのか、油断していることが多く、簡単にやられていく。


 遠方からバレずに相手をしとめる仕事ぶりは、本当のスナイパーのようだ。


 遠方の敵はアリシャが視覚で、近づいてきた敵はリリナが耳と鼻で魔物を感知するというパーティとしての戦い方が完成しつつある。


 とても即興パーティの完成度じゃないんだよなあ……。


「なんか手持ち無沙汰すぎるんですけど」


「そうだよな。なんか俺たちが楽し過ぎてるよな」


 リリナが少しつまらなそうに呟く声を聞いて、俺も隣で自然と頷く。


 以前はリリナと二人だけで攻略しただけあって、疲労感が結構溜まったことは記憶に新しい。


 その時と比較してしまうせいか、疲れていないことがなんだか申しわけない気がする。


「アリシャ、そんなに連続して戦って疲れてないか? たくさん『瞬風』を使ったら、魔力の消費だって馬鹿にならないだろ?」


「いえ、私は大丈夫ですよ。この魔法、一瞬だけ矢を勢いよく飛ばすことに特化しているので、消費は少ないので」


 アリシャは汗を拭ってから、ニコッとした笑みを浮かべる。


 少し疲れているようにも見えるが、本人的には魔物を倒す達成感を心地よく感じているのかもしれない。


 もう少ししたら休憩を入れた方がいいかもな。


 俺がそんなことを考えていると、リリナの銀色の耳がピコピコっと動く。


 機嫌がいいときの動き方とは違う、緊張感のある動き。


 そして、次の瞬間、リリナがバッと茂みの方を睨む。


「ロイドさま! こっちの方から凄い勢いで何かが来ます!」


 俺とアリシャはリリナの声を聞いて、急いでリリナが睨む方に長剣と弓を構える。


 やがて、がさがさっと大きな音がしたのち、黒くて大きな影が見えた。


 ブシュルルッ!!


数本の長い脚が見えたと思った次の瞬間、その魔物が何かこっちに向かって吐いてきた。



 ……いきなりかよ!


「『嵐爪(魔)』!!」


 ズシャァァ!!


 俺は長剣を上から振り下ろして、鋭い斬撃でその何かを切り裂く。


 はらりと舞った何かが降ってきたのでそれ手で払う。


「なんだこれ……糸?」


 俺は触り心地があるような糸を前にして、その魔物の正体を察した。


 ……さっきの影、俺の身長を優に超える大きさだったよな?


 俺は背後でガサガサッと動く音に冷や汗をかく。


 おっかなびっくり振り返った先にいたのは、真っ黒な体に赤い斑点模様をした大きなクモのような魔物だった。


 さすが異世界だ、スケールが違い過ぎるだろ。


 俺は別々に動く真っ黒い脚を持つその姿を前に、顔を引きつらせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る