第56話 ケインside
一方ケインたち。
ケインたちはレナを失った状態でワイバーンがいる洞窟を目指していた。
そして、レナという攻撃手段を失くしてしまったケインたちは、森の攻略に苦戦を強いられていた。
「グォオ!!」
「『剛盾』! ぐっ!」
ケインの『支援』を受けて防御力を強化されたザードは、大きなカバのような魔物からの突進に耐える。
そして、その隙を見て、その後ろから短剣を手にしたケインが魔物に向かって突っ込んでいき、短剣を振り下ろす。
ガガッ!
しかし、ケインの短剣は魔物の皮膚表面を軽く傷つけただけで、大したダメージを与えられていなかった。
「くそっ! 全然斬れないぞ!」
ケインの『支援』は自分の身体強化もできる優れものだ。
それでも、攻撃系統のスキルを持っておらず、元のステータスも低いケインの攻撃は、防御力が高い魔物には通じなかった。
そのままザードの後ろに退いてきたケインを見て、ザードは舌打ちを漏らす。
いつもはケインのことを煽てているザードだが、襲ってくる魔物の攻撃からいくら守っても、まったく通る攻撃をしてくれないケインに苛立ちを覚えていた。
「おい、ケイン! 頼むからたまにはダメージを入れてくれ!」
「あぁ? それなら、おまえが倒せばいだろ!! 俺がいなければ、おまえはA級じゃいられないんだぞ! 口の利き方には気を付けろよな!」
「くっ……分かったよ。『支援』はちゃんとしておいてくれよ」
ザードはぴくっと眉を動かしてから、ため息を漏らす。
そして、今日だけで何度目にもなるスキルを使うために、ぐっと身を屈める。
「『硬化』……『強突』!」
ザードは強く地面を蹴ってそれらのスキルを使い、魔物目がけて突進をしていく。
ガギィッ!!
魔物との鈍い衝突音が聞こえても、ザードは足を休めようとはしない。
「グォォ!!」
「おおらぁ!! 『強突』、『強突』!!」
そして、『支援』のスキルを受けたザードは、そのまま立て続けにスキルを使って、魔物に何度も突進をしてく。
「グォ、グォォ!!」
「おらぁっ! 『強突』!!」
そのまま崖まで魔物を追いやっていくと、最後に思いっきり魔物を押し込んで魔物を崖から落とす。
「ぐ、グォォ!!」
そして、魔物を崖から落としたザードは、息を切らしながら魔物が落ちていく様子を崖の上から見下ろす。
「はぁ、はぁ……どうだ、この野郎」
ザードはそう言うと、膝に手を置いて息を整える。
本来ならば、ケインの『支援』のおかげもあってそこまで疲れないはずだが、今回は違っていた。
ケインの攻撃が通らない以上、メインで攻撃をするのはザードの仕事になる。
それに加えて、盾役としてエミとケインを守らなければならない。
実質一人での森の攻略。それも、攻略のペースはケインに合せなければならない。
色んな条件が重なり、ザードはいつも以上に疲弊していた。
「ザードさん、お疲れ様です」
「よくやったな、ザード」
ザードが戦い終えると、エミとケインがそう言ってザードの元にやってくる。
なぜか堂々としているケインの姿を前に、ザードは喉まで出そうになっていた言葉を呑み込んで、顔を引きつらせた笑みを浮かべる。
「なぁ、ケイン。やっぱり、一度レナを探しに行かないか?」
エミはザードの言葉を聞いて、隣にいるケインに腕を絡める。
「そうですよ、ケインさん。レナさんを探してみませんか? すこし時間はかかるかもしれませんが、そっちの方が確実じゃないですか?」
レナが攫われたとき、レナを探そうという二人の意見を無視して洞窟に向かうと言ったのはケインだった。
今なら、ケインを説得できるかもしれないと思ったエミは、いつもよりも体を密着させてケインの説得を試みる。
しかし、ケインはぐいっとエミの体を押して、エミを突き飛ばす。
「探しに行くわけないだろ! その間にロイドの奴にワイバーンを先に討伐でもされてみろ、あいつに復讐ができないだろうが!」
ケインはそう言うと、苛立ちをそのままにずんずんと森を歩いていく。
「ほら、馬鹿なこと言ってないで早くいくぞ! ついてこい!」
そんな言葉を吐いて先に行こうとするケインを見て、ザードとエミは顔を見合わせる。
「……付いて来いって言ったって、あいつ『支援』くらいしか使えないだろ」
「……神輿としては担ぎやすいんですけどねぇ。性格に難があり過ぎです」
二人は小声で聞こえないようにそんな言葉を漏らしていた。
『竜王の炎』のメンバーは、誰もケインのことを認めてはいなかった。
ただケインの『支援』というスキルがあるから、それを利用しているだけ。
だからこそ、そんな認めていない男に自分たちを悪く言われて良い気がするわけがなかった。
「おい、ちんたらするなよ! 俺のおかげでA級でいれるんだからな、おまえらは!!」
ケインに振り向いて怒鳴られてしまい、ザードとエミは渋々その背中を追うのだった。
ただ、その目は仲間に向けるには冷たすぎるものだった。
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