第55話 この物語の被害者


「本当に最悪よ。どこで気づかれたのか……」


 レナはそう言うと、大きなため息をつく。


 そんな不貞腐れる姿を前に、俺は何も言えずにいた。


 大半の罪をなすりつけていた? 気づかれた?


 まてまて、そんな設定聞いたことないぞ。


 俺はそんなことを考えながら、アニメの展開を思い出す。


 確か、アニメでロイドたちが憲兵に捕らえられたとき、ロイドが一番罪が重かった気がする。


 それは全ての悪事の主犯がロイドだったからだ。


でも、レナの口ぶりから察するに、それらは全てレナたちに意図的に組まれたものだったということなのか?


 俺が困惑していると、レナが小さく笑みを浮かべる。


「まぁ、もうあんたの代わりにケインがいるからいいけどね。ケインは勝手に暴走することもあるけど、罪を全面的に被ってくれてるからありがたいわ」


 俺はレナの言葉を聞いて、目を見開く。


 少し目を離したうちに、ケインは別人と見間違えるくらいに変わっていた。


 鬱憤が溜まっているときに、煽てられて変わっただけだと思っていたが、それだけではなかったらしい。


……まさか、ケインをそんなふうに扱っていたとは。


 俺が何も言えずにいると、レナは鼻で笑う


「長年かけて煽ててきたアンタとは違って楽でいいわよ、ケインは」


「長年煽ててきた?」


「そうでしょ? なに、随分と白々しい演技を続けるのね」


 レナそう言うと、俺をじろっと睨んでから大きなため息を漏らす。


 俺は長年煽ててきたという言葉に引っ掛かりを覚えて、アニメの展開を思い出す。


 レナの口ぶりから察するに、長年煽ててきたというのは、ロイドのことを言っているのだろう。


 確か、アニメではロイドたちがいつ頃からパーティを組んでいたのか描写したシーンはなかった。


 でも、先程のレナの言葉を信じるのなら、ロイドは長年レナたちに煽てられてきたということになる。


 ケインと同じように煽てられて、乗せられて悪事に手を染めるようになったということだろう。


 仮にそうだとしたら……元々、ロイドは悪い奴だったのだろうか?


 もしかして、このアニメの被害者って……。


「ロイドさま?」


「ロイドさま? 大丈夫ですか?」


 俺がそんなことを考えていると、リリナとアリシャが心配そうに俺の顔を覗く。


 俺は自分がしばらく考え込んでいたことに気づき、慌てて顔を上げる。


「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」

 

 そうだ。今は深く考えている場合じゃないよな。


 レナを連れ去ったことによって、スタート地点がケインたちよりも遠くなっているのだ。


 あまり悠長にはしていられない。


「じゃあ、俺たちは行くから」


「は? ちょ、ちょっと、どういうこと? 私はどうなるのよ?」


 俺がレナをその場に置いて立ち去ろうとすると、レナが慌てたように俺を呼び止める。


 俺は振り向いて、ふむと考えてから口を開く。


「この辺りは冒険者もよく通る。運が良ければ見つけてもらえるんじゃないか?」


「ま、待ちなさいよ! 本気で言ってるの?」


「あ、そうだ。後からケインたちを追うのはいいけど、おすすめはしないぞ。多分、ケインの『支援』がないレナが森の奥まで行ったら、普通に魔物に殺されかねないからな」


 俺がそう言うと、レナはさーっと顔を青くさせる。


 まぁ、この辺りは小型の魔物しか出ないし襲われるようなことはないと思うのだが……まぁ、言わなくてもいいだろう。


 俺がそこまで言って立ち去ろうとすると、レナが慌てたように口を開く。


「え、ちょ、ちょっと! それなら余計に縄解いてから行きなさいよ!!」


 俺たちはそんなレナの言葉をそのままにして、森の奥を目指すことにしたのだった。


 しかし、その道中もずっとレナに言われたことが頭から離れることはなかった。

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