第54話 魔法使い誘拐作戦


「ロイドさま! こっちです!」


 洞窟がある方角とは反対のほうに走っていくと、そこにはリリナの姿があった。


 俺が『潜伏』のスキルを解くと、リリナは俺たちに気づいて大きく手を振っている。


 俺はアリシャの手を放して、リリナの元に近づく。


 そして、予め決めていた合流地点についた俺はリリナに笑みを向ける。


「リリナ、お疲れ様。素晴らしい手際の良さだったぞ」


「にへへっ、そうですか?」


 俺がそう言うと、リリナはにへらっとした笑みを浮かべる。


 ケインたちに気づかれずに作戦を実行できたのは、リリナの働きが大きい。


 俺がリリナの頭を撫でてあげると、リリナはご機嫌に銀色の耳をピコピコと動かす。


「もがっ、もががっ!!」


 すると、足元で何か声にならない声が聞こえてきた。


 ちらっとそちらを見てみると、そこには座った状態で木に縛り付けられて口を縄で縛られているレナがいる。


「もがっ、もがっ!!」


 レナは俺たちを睨みながら必死に暴れているが、リリナが縛った縄から逃れることができないらしく、しばらく暴れまわった後は息を切らして大人しくしていた。


「……何か言いたそうだな」


 俺はそう言ってから、口を縛っている縄を解いてやる。


 すると、レナはハッとしてから、俺を強く睨む。


「ちょっと、どいうつもりよ!!」


「どういうつもりって、なにがだ?」


「今の状況がよ! なんで私が攫われて拘束されないといけないの?!」


 レナはふーふーっと肩で息をしながら、そう言う。


 俺はふむと考えてから、小さく頷く。


 ……まぁ、教えてあげもいいか。


 もうレナは戦線に復帰できないわけだしな。


「おまえたちのパーティって、メインの攻撃手段はレナの魔法だけだろ? 空を飛ぶ魔物を相手にするなら、あのパーティはレナを失えばほとんど攻撃手段がないようなものだ」


 俺がそう言うと、レナはあっと小さく声を漏らす。


 俺はそんなレナを見ながら、言葉を続ける。


「そもそも前衛職がザードだけって言うのが歪なんだよ。後衛三人を一人で守るわけだろ? その中でも、ケインが重要だからケインを守るようにレナが一番後ろに立つ。一番攫いやすいところに重要人物を配置するのはどうかと思うぞ」


 俺はレナにそう言ってから、今回の作戦を思いだす。


今回の作戦は次の通りだ。


 まず初めに、俺が『黒霧(魔)』でケインたちの視界を奪う。


 次に、アリシャが弓で攻撃をすることで、ザードは前方向にしか警戒がいかなくなる。


 あとは、レナが『黒霧(魔)』を魔法でどうにかしてしまう前に、暗殺者スタイルが身についたリリナがレナを攫う。


 リリナが『黒霧』の中でも動けるということは、前に戦った魔物で実証済みだからな。


 レナがパニックになっている間に、ケインの『支援』が届く範囲外に出てしまえば、リリナでもレナを連れ去るのは難しくはない。


 ……まぁ、闇討ちみたいな感じだから、せこいと言われればせこいかもしれないが、勝つためには仕方がないだろう。


「うるさい、うるさい! 私たちの実力についてこられるような冒険者がいないのが悪いのよ!!」


 すると、しばらく黙っていたレナが苛立つように声を荒らげる。


 俺はレナに強く睨まれながら、少し前から気になっていたことを聞くことにした。


「そういえば、荷物持ちの男はどうしたんだ?」


「あんなのすぐにやめていったわよ! 何もできないくせに、根性はないし、クソったれだったわ」


「なるほどな……嫌われ過ぎているから、前衛の補強もできなかったってことか」


 荷物持ちの子にも逃げられるのだから、優秀な前衛職なんて入ってくれるわけがない。


 レミさんもケインたちは相当嫌われていると言っていたし、そのせいで人が寄ってこないのだろうな。


 俺がそんなことを考えていると、レナは顔を俯かせてぎりっと歯ぎしりをする。


 それから、レナは顔を上げて俺を小ばかにするように笑う。


「そもそも、あんたが急にやめるとか言い出すからでしょ?」


 レナはそう言うと、鼻で笑ってから言葉を続ける。


「噂になってるわよ。あのロイドが人助けをしてるってね。私たちのパーティやめた途端に良い人気取りって……今さら正義の人ぶっても遅いからね」


「確かに、ロイドは色々とやり過ぎていたかもしれない。でも、これ以上悪事を働かないように踏みとどまるのは悪いことではないだろ?」


 俺がそう言うと、レナはニヤッと口元を緩める。


「は? よく言うわよ。私たちの考えに気づいて急に逃げ出しただけのくせに、本当に正義の味方気どり?」


「私たちの考え?」


 俺は思ってもいなかった言葉に首を傾げる。


 一体、何のことを言っているんだ?


「白々しいわね、本当に……腹が立つ」


 レナは大きなため息を漏らしてから、俺をキッと強く睨む。


「だから、さんざん煽てて実行犯に仕立て上げて、あんたに悪事の大半の罪をなすりつけていたことよ。それに気づいてパーティを抜けたんでしょ、あんた」


「……は?」


 俺は想像もしなった言葉を前に、間抜けな声を漏らす。


 いやいや、待ってくれ。


 そんな設定、知らないぞ。


 俺はアニメで描かれていなかった設定を知らされて、戸惑いを隠せずにいた。



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