第53話 第1ラウンド
「くっそ、何も見えないぞ!」
「ケイン! とりあえず、『支援』を頼む! みんなは俺の後ろに! 『剛盾』!!」
「あ、ああ。『支援』!」
俺は突然の『黒霧』で辺りが見えなくなって取り乱すケインたちの声を聞きながら、レミさんとアリシャを両脇に抱える。
「『瞬地(魔)』!」
「きゃっ!!」
「わっ」
そして、そのまま『瞬地』のスキルを使って、一気にケインたちから距離を取ってケインたちの方を振り返る。
よっし、『黒霧』の範囲外に出られた。
ケインたちは『黒霧』の中にいるが、結構離れたおかげか、俺たちが今いる場所には『黒霧』に包まれていなかった。
ここなら、多少は俺たちの方が動きやすいかもな。
俺はそんなことを考えながら、両脇に抱えたレミさんとアリシャを地面に下ろす。
すると、レミさんはふらふらとしてからその場にぺたんと座り込む。
「な、なんだったんですか。急に」
「ケインたちが仕掛けてきたんで、自衛のために霧をはっただけですよ」
「霧をはっただけって……」
レミさんはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、俺たちもあまり悠長にはしてはいられない。
俺がアリシャの方を見ると、アリシャはすでにコンパウンドボウを構えて準備を済ませていた。
「よっし、アリシャ。後は頼むぞ」
「はい。任されました」
アリシャはそう言うと、口元を緩めてから頷いて弓を構える。
そして、じっとケインたちがいた付近を見てから、弓を引く。
「『魔法 瞬風』……『狙撃』」
アリシャが魔法を唱えると、矢の先に矢が一本分通れるくらいの小さな輪が形成される。
そして、アリシャはその輪を通すようにしながら矢を放った。
シュンッ!!
そんな勢いよく風を切る音が聞こえた次の瞬間、鈍い金属音が響く。
バギャンッ!!
「うわっ! なんだ今の音は?!」
「何かが盾のぶつかった! あいつらの攻撃だ!」
ケインが驚く声を上げると、盾でアリシャの攻撃を弾いたザードが続いて声を上げる。
声色的にとても焦っているように思えるケインたちに対して、アリシャは悠々とした様子で次の矢を構える。
「いきなり当たりましたね。あそこですか……それでは、『魔法 瞬風』、『魔法 瞬風』」
すると、アリシャは矢の発射口に二つの『瞬風』を形成させる。
そして、先程と同じように自然なフォームで弓を引く。
「……『狙撃』」
シューンッッ!!
二つの『瞬風』を通過した矢は、先程以上の速度で風を切ると、先程以上に大きな金属音を奏でる。
ガギャンッッ!!
「うおっ! さっきよりも随分と強い衝撃だぞ!」
「くそっ、何が起きてるだよ! おい、レナ! 早く魔法でこの霧を何とかするんだ!」
ケインとザードが騒いでいる声が聞こえるが、その声に反応するレナの声はいつまで経っても聞こえない。
「おい、レナ! 早くどうにかしてくれ!」
痺れを切らしたようなケインが大声でそう言うが、いつまで経ってもレナはケインの言葉に答えようとしない。
……どうやら、上手くいったみたいだな。
「レナさん? え、うそっ。た、大変です、レナさんがいなくなりました!」
俺がそんな確信を持った頃、取り乱したようなエミの声が聞こえた。
「いなくなった?! いや、こんな霧の中でどこに行くって言うんだよ!」
「わ、私に聞かれても分かりませんよ!」
エミが大きな声を張るのを聞いて、俺は笑みを浮かべる。
どうやら、リリナが作戦を成功させたらしい。
「『魔法 瞬風』、『魔法 瞬風』……『狙撃』」
バギャンッ!! ギャギャッ!!
「ぐっ! だめだ! 下手に動いたら狙われるぞ!!」
ザードはアリシャの攻撃から後ろにいる二人を守るだけで精いっぱいといった様子だ。
……やっぱりな。前衛職がザードだけという構成が、そもそもおかしいんだよ。
「アリシャ、もう少ししたら移動するぞ」
「はい。分かりました」
俺はアリシャにそう言ってから、近くにいたレミさんを見る。
「それじゃあ、レミさん。また冒険者ギルドで」
「わ、分かりました」
それから、俺たちはレミさんがこの場を去ってからしばらくして、ザードへの攻撃を切り上げてこの場を後にした。
多分、『黒霧』が消えるまではまともに動こうとはしないだろう。
あれだけアリシャの攻撃を受け続けたのだから、下手には動けないはずだ。
「アリシャ、念のために『潜伏』のスキルを使って移動するぞ」
「分かりました。お願いします」
俺はアリシャから出された手を握って、『潜伏』のスキルを使って森を移動していく。
目指す場所は洞窟とは全く関係のない場所。
そう、リリナとの集合地点だ。
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