第45話 勝負の内容


「今回は一つの依頼をケインさんたちとロイドさんたちに挑戦してもらいます。より早く対象の魔物を倒して、その素材を持って帰って来た方が勝者となります」


 レミさんはそう言うと、一つの手配書をテーブルの上に置く。


 その依頼書には、森の奥の洞窟に住み着いたワイバーンの討伐に関する情報が書かれていた。


「これってもしかして、ケインたちの『デコイ』で寄ってきた魔物ですか?」


「はい。タイミング的に考えて、その可能性が高いですね」


 レミさんが苦笑するのを見て、俺もため息を漏らす。


 まぁ、せっかく魔物を狩るのなら、ケインたちが呼んだ魔物を倒した方がいいかもな。


 俺がそんなことを考えていると、アリシャが首を傾げる。


「ケインというのは、あの穢れた者たちですよね? 『デコイ』をしたというのは、どういうことでしょうか?」


 ……穢れた者っていうのは、多分ケインたちのことだよな?


 そういえば、アニメでアリシャがロイドのことをそんなふうに呼んでいた気もする。


「そうだよ。あの嫌な人たちが魔物を森に呼んだの」


 すると、穢れた者が誰を示すのかすぐに分かったのか、リリナがむくれながらそう言う。


「魔物を呼ぶ、ですか?」


 アリシャはリリナの言葉を聞いても意味が分からなかったのか、俺をちらっと見てくる。


 そうだよな。


 初めて聞いただけで理解できるほど、ケインのやっていることは普通じゃないもんな。


 俺はリリナの後を引き継いで、これまでケインがしてきたことをアリシャとローアに教えるのだった。




「そ、そんなことがあったんですか?」


「信じられないくらい愚かな人間ですね。捕まえることはできないんですか?」


 アリシャとローアはケインのことを聞き終えて、順々にそんな言葉を口にする。


 確かに、やっていることを考えればそろそろ憲兵に捕まりそうなものだけどな。


 俺がそんなことを考えてレミさんを見ると、レミさんは小さく首を横に振って苦笑する。


「どれも決定的な証拠が掴めないんですよ。人伝いに聞いたりしているだけなので。もう一手、何かがあれば捕まえられそうなんですけどね」


 多分、もっと詰めれば粗でも出てきそうなものだが、詰めようとするとケイン辺りがぶち切れるのかもしれないな。


 俺はため息を漏らすレミさんの苦労を察して、視線を逸らす。


 すると、ローアが顎に手を置いて真剣な顔で何かを考えだす。


「今回の勝負は魔物の討伐ですよね……それで、あの穢れた者たちは納得したのですか? 人を傷つけなければ、生けていけない人間のように見えましたが」


「はい。そこは大丈夫です。しばらく期間を置けば対人での決闘も可能だと言ったのですが、どうしても早く勝負をしたいとのことでしたので、こちらを提案しました」


 一瞬、ローアが凄いことを言った気がしたが、確かに的を射ている言葉だと俺は少し感心する。


 今のケインの状態は、確かにそんな感じがするな。


 俺はそう思いながら、アリシャとローアを見る。


「勝負は一週間後に行うことになりました。まぁ、こっちはリリナと二人なので、数的には負けていますが、なんとかするしかないですね」


 正直、一人くらい追加のメンバーが欲しい所ではあるが、今から新しいメンバーを探すのは無理だろう。


 普通のパーティならメンバーを見つけるには十分な日数ではあるが、街中の嫌われ者のロイドのパーティに入ってくれて、ロイドと共にケインに喧嘩を売ることになる依頼を受けてくれる人はいないだろうな。


「あの、それでしたら、私をお供させていただけないですか?」


「え、アリシャ?」


俺は思っても見なかった言葉を前に、少し間抜けな声を漏らしてしまう。


 すると、アリシャはぐいっと体を前のめりにして言葉を続ける。


「ロイドさまにここまでしてもらって、私が何もしないわけにはいきません。私もその勝負に参戦させてください」


「でも、今回の決闘での怪我があるだろ? 安静にしていた方がいいんじゃないか?」


「怪我は数日で完治させてみせます。なので、どうか私も連れていってください」


 アリシャはそう言うと、胸に手を置いて真剣な目を俺に向ける。


 正直、ケインにあれだけのことをされたアリシャを勝負の場に連れていくことには抵抗がある。


 ……でも、アニメでもアリシャって、一度決めたことは撤回しない性格だったよな。


 俺はそんなことを思い出して、小さな笑みを浮かべる。


「そこまで言ってくれるなら、一緒に来てもらおうかな。ただし、嫌われ者の俺と一時的にでもパーティを組むと、後々生きづらくなるかもしれないぞ?」


 俺がアニメのロイドのような悪人顔で言うと、アリシャとローアは少しの間ぽかんとしてから、すぐに噴き出す。


「え? あれ? 何か変なこと言ったか?」


 俺は思ってもいなかった二人の反応を前に、間抜けな声を漏らす。


 アリシャとローアはしばらく笑ってから、笑い泣きをして出た涙を拭う。


「ロイドさまが悪役だなんて……ふふっ、面白い冗談ですね」


「全くです。ロイドさんも冗談を言うんですね」


 二人は俺がふざけていると思ったのか、そんな言葉を口にする。


「いや、冗談じゃなくて本当にそうなんだって」


 俺が慌てて訂正するように言うと、アリシャはニコッとした笑みを俺に向ける。


「穢れていない綺麗な魂の人が、悪役なわけないじゃないですか。ふふっ」


「え? 魂?」


 そういえば、エルフって魂の穢れが見えるんだっけ?


 俺はそんなアニメの設定を思い出して、小さくあっと声を漏らす。


 あ、だから、ケインたちのことを穢れた者って言っていたのか。


「いや、でも、しっかり嫌われてるんだぞ。そうですよね、レミさん?」


「えぇ、普通そんな聞き方します?」


 俺がレミさんに話を振ると、レミさんは眉を下げる。


 確かに、この聞き方はずるいかもしれないな。


 どう考えても悪いことを言えない聞き方だったかもしれない。


「正直に言いますよ?」


「え、はい。お願いします」


 俺がどうしたものかと考えていると、レミさんは一歩前に出る。


そして、小さく咳払いをしてからアリシャたちを見る。


「確かにロイドさんは街中の嫌われ者ですよ。恨んでる人も多くいますし、自分から関わりたいと思う人はいないと思います」


 ……まぁ、当然そういう評価だよな。


 俺は改めてロイドの嫌われ具合いを知らされて、顔を引きつらせる。


「むー。そんなことないと思いますけど」


 リリナは面白くなさそうな顔でレミさんを睨んで、そんな言葉を呟いた。


 すると、レミさんはリリナの言葉を聞いてから、俺の方を見て眉を下げる。


「だから、みんな戸惑っている感じですね」


「戸惑っている?」


 俺が首を傾げると、レミさんは言葉を続ける。


「ええ、最近のロイドさんは以前のロイドさんらしくないので。リリナさんのこととか、アリシャさんを助けたりとか色々と」


「あぁ……なるほど」


 レミさんに言われて、俺は頬を掻く。


 以前、リリナが俺に騙されていると思ったレミさんが、俺のことを悪く言った時、リリナが冒険者ギルドで俺を庇ったことがあった。


確か、俺のことを優しい人とかヒーローとか言っていた気がする。


 そして、今回はケインに痛めつけられていたアリシャを助け出した。


 傍から見れば、信じられない光景だろう。


 戸惑わない方が無理な気がする。


 当然、リリナのときもアリシャのときも街の人や冒険者たちから強い視線を感じてはいた。


 俺がそんなことを考えていると、レミさんは口元を緩める。


「だから、今なら一緒に行動をしても、以前よりは風当たりはマシかもしれませんね」


 それから、レミさんは悪役に向けるにしては優しすぎる笑みを俺に向ける。


俺はそんなレミさんの笑みに上手く反応することができずにいた。


 思わず固まってしまうほど、意外な評価を受けたから。


 ……ほんの少しずつ、ロイドに対する評価が変わってきているのかもしれない。


 俺はレミさんの言葉を受けて、そんなことを少しだけ感じるのだった。



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