第44話 ほんの少しの恩返し


「ロイドさま! ご自分を賭けるなんて本気ですか?!」


 俺が冒険者ギルドの個室に戻ると、頬を膨らませたリリナに詰められてしまった。


 それから、リリナはジトっとした目で俺を見つめる。


 俺は頬を掻きながらリリナから視線を逸らす。


「えっと、なんでそのことを知ってるんだ?」


「嫌な予感がしたんで、みんなで個室から覗いてました! そしたら、凄い話しが聞こえてきたんですけど!」


 リリナがぐいっと前のめりになって言うと、後ろにいたアリシャとローアがうんうんと頷く。


 なるほど、だからバレているのか。


 俺があぁと一人納得していると、リリナがぷりぷりと怒っている様子で俺を見上げる。


「それで、本気でご自分を賭けるんですか?」


「まぁ、そうなるかな」


 俺がそう答えると、リリナは不満そうにむーっと唸る。


 俺のことを心配してくれているんだろうと思って、リリナの頭を撫でてみたのだが、中々リリナの機嫌が直りそうにない。


 ……参ったな。どうするか。


「あの、ロイドさま」


 俺がそんなことを考えていると、アリシャが一歩前に来て俺の名を呼んだ。


「えっと、別にアリシャまで『さま』付けで呼ばなくてもいいんだけど」


 俺がそう言うと、アリシャは小さく首を横に振る。


 それから、アリシャは俺をじっと見つめる。


「お聞かせください。なぜそこまでして、私を助けようとしてくださるのですか?」


 アリシャがそう言った隣では、ローアも同じように真剣な目を俺に向けていた。


 まぁ、普通に考えれば初対面の子を助けるにしては、色々とやり過ぎている気がする。


 俺はちらっとリリナを見てから、アリシャに小さな笑みを向ける。


「昔、色々あって本気で死のうと思ったことがあったんだ。そのときに、リリナやアリシャみたいな子に救われたから、今度は俺が助けたいって思ってるだけだよ。恩返しって感じだな」


 それは、以前にリリナに言ったのと同じ言葉だった。


 ブラック企業時代に勤めていたときに自殺を考えたことがあった。


そのときに、なんとか踏みとどまれたのは、リリナやアリシャたちがいるこのアニメがあったからだ。


 だから、俺は今回も一方的な恩返しをする。


 たとえ、自分自身を賭けることになっても、アリシャが嫌な思いをする方が嫌だから。


「私みたいな子?」


「ああ。まぁ、ただの俺の自己満足だ。そんな自己満足に付き合ってくれたら嬉しい」


 アリシャはいまいちしっくりきていないのか、きょとんとした様子で首を傾げる。


 そうだよな。俺が勝手に画面越しに恩を感じているだけだしな。


 俺がそう考えていると、アリシャはくすっと微かに笑う。


「……本当に、変わったお方」


 アリシャはそう呟くと、微かに潤んだ眼を俺に向ける。


「そういうことでしたら、私も覚悟を決めます」


 そして、アリシャは微かに顔を赤らめてから、言葉を続ける。


「私のことをもらってくださるよう、ロイドさまたちを応援させていただきます」


「もらってくださる? ああ、そっか。さっきの会話聞いてたんだよな」


 そういえば、さっきケインたちにアリシャをもらうとか言ったんだったな。


 変わった言い回しが少し引っかかったが、アリシャの真剣な表情から、アリシャの気持ちが伝わってくる。


「おう。絶対に勝つから安心していてくれ」


 俺が負けてしまったら、アリシャはこのことをずっと気に病むだろ。


 そうならないためにも、アリシャに幸せでいてもらうためにも、俺たちはケインたちに勝たないとならない。


 大変かもしれないが、まったく勝機がないわけではない。


「対人で行う決闘にならなかったのは、幸いだったかもしれませんね」


「そうですね。純粋に対人で戦ったら、勝てるかどうか分かりませんからね」


 俺はレミさんの言葉に大きく頷く。


 すると、俺たちの会話を聞いていたローアが首を傾げる。


「対人ではないのですか?」


「ええ。対人の決闘を短期間で何度も行うことはできないので、別の形で勝負をしてもらえるように提案をしました」


 レミさんは笑みを浮かべてそう言うと、今回の勝負の内容について説明を始めた。

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