第43話 新たな決闘と条件
「おい! いつまで待たせるんだよ!」
冒険者ギルドのカウンターに向かうと、そこにはケインたちの姿があった。
さっきは感じなかった勢いがある辺り、他のメンバーに煽てられて気を大きくしてからやってきたみたいだ。
いや、少し顔が赤いか? もしかして、アルコールを飲んでから来たのかな?
俺がそんなことを考えながらレミさんと共にカウンターに向かうと、俺を見たケインは分かりやすく顔を引きつらせる。
「っ! ロイドっ」
多分、さっきのことがあったから、なんとなく気まずいのだろう。
ケインはすぐに俺から顔を逸らして、レミさんを見る。
「おい! さっきの決闘は実質勝負が決まっていただろ! 約束通り、エルフの娘をよこせ!」
「ケインさん。勝負が決まる前に中止を求めたのはケインさんですよ?」
レミさんがもっとも過ぎることを言うと、ケインに腕を絡めているレナとエミが強くレミさんを睨んでから、順々に口を開く。
「はぁ? あんたが勝敗の結果を言わなかったのが悪いんでしょ。自分の非も認められないの?」
「そうですよ。ケインさんが慈悲を与えたというのに、それにも気づけないんですか?」
ケインは二人の援護を受けてどや顔を浮かべている。
……どこにドヤれる要素があったんだ?
俺がそんなことを考えながら、首を傾げる。
そして、俺はふと気になったことをケインに聞いてみることにした。
「ていうか、なんでケインはアリシャを欲しがってるんだ?」
ただ罪を認めたくないだけなら、ここまでアリシャを欲しがる理由が分からない。
奴隷商に売るつもりなのか?
俺がそう言うと、ケインは俺を強く睨む。
……これも全部虚栄なのだろうか?
俺がそう考えながらケインを見ていると、ケインは機嫌悪そうに口を開く。
「あぁ? 俺たちに逆らったらどうなるのか見せしめにするんだよ。荷物持ちとしてボロボロになるまでこき使ってやるんだけだ」
「見せしめって……おまえ、本当にそれだけのために、あの子をパーティに入れる気なのか?」
俺はあまりにも幼稚なケインの言葉に驚きを隠せなかった。
普通に考えれば、エルフは魔法や遠距離からの攻撃が得意とされているのだから、パーティの後衛に置くはずだ。
それなのに、ケインはパーティの戦力としてではなく、自分の強さを周りに知らしめるために、アリシャをパーティに加えようとしている。
それも、以前にリリナに言った時と同じく、酷い扱いをしようと考えている。
とてもじゃないが、アリシャをケインのパーティになんて送ることなんてできない。
というか、なんでそこまで荷物持ちに強く当たろうとしているのだろう?
そう考えとき、一つの答えが頭に浮かんだ。
「……そういうことか」
俺がそんな言葉を呟くと、レナとエミが俺をじろっと見る。
「ていうか、ロイドには関係ないでしょ? 邪魔しないでよ」
「そうですよ。あなたには関係のないことなので、首を突っ込まないでください」
二人が順々にそんな言葉を呟いてから、ケインが薄ら笑いを浮かべて俺を見る。
「ロイド。なんだ、その目は? 勝負に勝ったのは俺だ。だから、あのエルフは俺の条件を呑み込む必要があるんだよ。おまえには関係のないことだから、でしゃばんな」
「……関係があればいいんだな?」
「あぁ?」
俺がそう言うと、ケインは眉をひそめて目を細める。
俺はカウンターから身を乗り出すと、ケインをまっすぐ睨む。
「アリシャはお前のパーティにはもったいない。それなら、俺たちがもらいたい」
「な、何言ってんっだ、ロイド」
「俺が勝ったら、アリシャは俺たちがもらう。逆に俺が負けたら、俺がおまえのパーティで荷物持ちでも何でもしてやるよ。アリシャの代わりにな」
俺がそう言うと、ケインは肩をぴくっと動かす。
やっぱりそうだ。
ケインは荷物持ちに昔の自分の姿を重ねて、昔ロイドにやれたことを自分がすることで鬱憤を晴らしているんだ。
単なる弱者や自分に歯向かってきたものを従えることで、自分が強くなったと錯覚したいのだ。
それなら、そこに本人である俺が出ていったらどうなるか。
ケインはずっとロイドのことを恨んでいるはず。
今まで長い間溜まった鬱憤をその本人にぶつけられるという状況を前にして、この案を断るはずがない。
多分、この決闘を受け入れた時点で、アリシャが自分たちのものにならないなんて気づきもしないだろう。
多分、すぐに食付いてくるはずだ。
「アリシャよりも、俺をこき使った方が見せしめになるんじゃないか? なぁ、ケイン」
俺がそう言うと、ケインはニヤッと悪だくみをするような笑みを浮かべる。
……いい笑顔だ。
とても、主人公の浮かべる笑みには見えないけどな。
これで、結果はどうあれアリシャを救うことはできたかな。
俺はそう考えながら、静かに口元を緩める。
こうして、俺はアリシャをかけてケインと決闘をすることになるのだった。
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