第42話 決闘の理由


「ケインさんたち、最近は珍しい種族を捕まえて奴隷商に流しているらしいんです。誘拐して、奴隷商に売るなんて普通に犯罪ですからね」


 レミさんは怒り顔でこれまでのケインさんたちの行動を教えてくれた。


 どうやら、ケインたちは俺たちがいない間、さらに冒険者ギルドで暴れまわったり、悪事を働きまくったりしているらしい。


 その中でも一番酷いのが、奴隷の売買に関わっているということだった。


 そして、その話を聞いていく中で、俺はなんでアニメでロイドたちがアリシャたちに追われていたのかを思い出した。


 ……そうだ、アニメではロイドたちが奴隷の売買に手を出すんだった。


 エルフの子供を誘拐して、そこをアリシャたちに取り押さえられそうになるんだったな。


 アニメではロイドが奴隷の売買を行おうとして、そこをアリシャたちに取り押さえられそうになるのだ。


確か、俺の記憶が正しければ、ケインを追放するまでは奴隷の売買には手を出してはいなかったはず。


ということは、悪役のロイドがパーティを抜けてから、ケインたちが自分たちで話し合って奴隷の売買に手を出したということになる。


 ……アニメの主人公が奴隷の売買に関わるって、どうなってるんだよ、本当に。


「ケインさんがエルフの子たちを誘拐して奴隷商に売ろうとしたんです。それを聞きつけて、エルフの方々がこの冒険者ギルドにやってきたんですけど、ケインさんが無実を主張し続けまして」


「その結果、ケインがキレ散らかして、決闘で負けたら罪を認めるって言ったんですね?」



「はい。大体そんな感じです」


 俺が頭を抱えながらそう言うと、レミさんはため息まじりにそう答える。


 なんだろうな。ケインがアニメのロイドみたいな行動を取ると考えれば、ケインの行動が読めるようになってきた気がする。


 俺が深くため息を吐いていると、ふと正面に座るアリシャと目が合う。


「あっ」


 アリシャが何か言葉を口にしようとしていると、それに気づいたアリシャの隣にいるエルフの女性がハッとして俺を見る。


 そして、勢いよく立ち上がるとピシッと姿勢を正す。


「失礼。まだ助けていただいたことのお礼がまだでした。この度は、私たちを助けていただき、本当にありがとうございました」


 アリシャもエルフの女性に釣られるように立ち上がると、その女性と共に深く頭を下げてきた。


 俺は彼女たちに頭を上げてもらおうとするが、彼女たちは中々頭を上げようとはしなかった。


「いえいえ、そんな大したことはしていないので」


「そんな謙遜なさらないでください。A級冒険者たちを相手に臆せずに戦う姿、感服いたしました」


 エルフの女性はそう言うと、胸に手を置いて先程の俺の戦闘を思い出すように目を瞑る。


 俺が照れ臭くなって頬を掻いていると、彼女は言葉を続ける。


「申し遅れました。私はローアと申します。こちらはアリシャ、族長の娘さんです。本当にロイドさんに助けていただかなかったら、今頃どうなっていたことか、想像もしたくありませんね」


 ローアはそう言うと、アリシャの頭を優しく撫でる。


「……まさか、自分たちの実力はC級冒険者レベルだと言ってきたあの穢れた者が、A級冒険者だったとは思いませんでしたよ」


「そ、そんなこと言ってきたんですか」


「ええ。私たちもC級冒険者が相手なら勝てるかと思ったのですが、考えが甘かったみたいですね」


 ローアは悔しそうなにそう言うと、小さく歯ぎしりをさせた。


 なるほど。なんでA級冒険者に決闘を挑んだのかと思ったが、そんな事情があったのか。


 確かに、ケインたち個人のステータスはC級冒険者レベルだ。


 でも、明らかに騙すつもりで言ったのだろうということは、ケインたちの性格から考えれば簡単に想像がつく。


 きっと、アリシャやローアを馬鹿にして笑いながら言ったのだろう。


 ……タチが悪いことこの上ないな。


 俺がそんなことを考えていると、突然部屋の扉がコンコンっとノックされた。


 レミさんが返事をして数秒後、開けられた扉の先には女性の冒険者ギルド職員がいた。


「レミさん、ちょっといいですか?」


「はい? なんですか?」


 冒険者ギルドの女性は、ちらっと俺たちのことを見てから、気まずそうな顔で言葉を続ける。


「あのー、ケインさんがお見えです。『さっきの決闘の結果はどう考えても俺たちが勝ちだったんだから、エルフの娘をよこせ!』って怒鳴り込んできました。どうしましょ」


「えー、決闘の中止の確認は取ったんですけどね」


 レミさんが辟易とした様子で立ち上がったのを見て、俺も立ち上がる。


「ロイドさまも行かれるんですか?」


「ああ。少しここで待っていてくれ」


 俺は首を傾げるリリナにそう言って、レミさんと共にケインの元に向かうことにした。


 決闘を中止にさせたのは俺なわけだし、俺が行かないわけにはいかないよな。


 さて、ケインは一体どんなことを言ってくるのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、俺はレミさんと共に冒険者ギルドの個室を後にした。

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