第41話 レミの心情と


「とりあえず、全員運び終わりましたね」


 冒険者ギルドに負傷したエルフの人たちを運び終えた俺たちは、そこで簡易的な治療を行った。


 幸い、一命を争うような負傷者はおらず、エルフの人たちが持っていたポーションと、冒険者ギルドにあったポーションなどで治療を行うことができた。


 そして、治療を終えた俺たちは、エルフの人たちを運んだ部屋とは別の部屋に集まっていた。


 俺の隣にはリリナ、正面にはレミさんとアリシャとアリシャのことを気にかけているエルフの女性が腰かけている。


 アリシャたちは別室で体を休めていて欲しかったのだが、どうしても同席したいと言われてしまい、この形になった。


 俺は深く息を吐いてから、じっとレミさんを見る。


「それで、詳しく話をお聞きしてもいいですか?」


 俺はあまり優しいとは思えない声色になっていることに気づきながら、その声色を変えられずにいた。


 レミさんがさっきのケインたちの決闘の見届け人ということもあってか、少しもやっとした感情が胸の奥にある。


 当然、レミさんが悪いわけではないことは分かっている。


 ただ、どうしても多少なりとも思うところがあったりもするのだ。


「そうですね。ただ、その前にお礼を言わせてください」


「お礼?」


 俺が何のことか分からずに首を傾げると、レミさんは俺に深く頭を下げる。


「あの決闘を止めてくれて、ありがとうございました」


「ん? ありがとうございましたって、どういうことです?」


 俺が深々と下げられた頭に戸惑っていると、レミさんは顔を上げて胸をなでおろす。


「ロイドさんが介入してくれなかったら、もっと悲惨な光景を街の人たちに見せてしまうことになる所でしたので」


「いや、それなら、そもそも決闘なんか許可しなければ――」


 俺はそこから先を言おうとしたところで、ぴたっと言葉を止める。


 すると、レミさんは悲し気な笑みを浮かべてから首を横に振る。


「冒険者同士の決闘に、冒険者ギルドは介入できませんので」


「そう、ですよね。すみません」


「いえ、ロイドさんが謝ることじゃないですよ」


 当然、普通の感性を持った人なら、あの場面を見たら止めたいと思うはずだ。


 でも、冒険者ギルドに属するレミさんがどちらかに肩入れをすることはできないし、受理した決闘を勝手に中断させることなんてできるはずがない。


 目を背けてしまいたいけれど、見届け人にとして背けることも許されない。


 エルフの人たちがケインにやられていく様をずっと見せられるというのは、結構ショックな光景だったと思う。


 俺はそこまで考えてから、深く頭を下げる。


「レミさんの心情も考えずに失礼なことを言ってしまいました。本当にすみません」


「ちょっ、本当に大丈夫ですって。頭を上げてください」


 俺が深く頭を下げていると、レミさんが慌てたように俺の頭を上げさせる。


 それから、レミさんはくすっと笑みを漏らす。


「本当に、まるで変ってしまいましたね」


「ええ、ケインの奴があそこまでするとは思いもしませんでしたよ」


「そうですね。ケインさんも変わりましたよね」


 レミさんは少しきょとんとしてから、そう言ってまた笑う。


 あれ? 何で笑われたんだろうか?


 俺がそう思っていると、レミさんは小さく咳ばらいを一つして姿勢を整える。


「それでは、改めて今回の件について説明しますね」


 レミさんはちらっと隣に座るアリシャを見てから、俺に視線を戻す。


「えっと、ケインさんたち『竜王の炎』のメンバーが、奴隷の売買に手を出し始めたのは知っていますか?」


「奴隷の売買?!」


 俺は思ってもいなかった言葉を聞いて、目を見開く。


 いや、奴隷の売買って、仮にもケインはこのアニメの主人公だろ?


「どこまでクズなんですか、あの嫌な人たちは……」


 そして、言葉を失った俺の隣では、リリナがため息と共にそんな言葉を漏らしていた。


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