第40話 第二のヒロイン、悪役と出会う


 生きる希望だったアニメのヒロインを傷つけられて、黙っているわけにはいかない。


 俺の握っている長剣にも、自然といつも以上に力が入る。


 ……さて、どんなスキルを使って、こいつらをいたぶってやろうか。


 俺がじろっとザードの盾に隠れるケインを睨むと、ケインはみっともなく後退る。


「ひっ! ま、まてまてまて! おい、見届け人! 決闘中に乱入なんてダメだろ! 中止しろ、中止!」


「見届け人?」


 ケインが慌ててそう言った方を見ると、そこには冒険者ギルドのレミさんが立っていた。


 レミさんは不安そうな顔を俺に向けてから、何かを思いついたような顔で俺のもとに近づいてくる。


 そういえば、ケインが決闘だとか言っていたな。


 俺がそんなことを思い出しても、剣を納めないでいるとレミさんは俺をじっと見る。


「ロイドさん、決闘は本来本人たちだけで行うものです。しかし、今回はロイドさんの乱入、ケインさんからの中止の申し出があったので、ここで決闘は中止とします。よろしいですね?」


 レミさんがちらっとケインを見ると、ケインは何度も頷く。


「あ、当たり前だ! むしろ止めるのが遅いくらいだろ!」


 ケインは慌てながらそう言ってから、俺たちから顔を逸らす。


 あれ? 変わったケインってこんなに憶病だったか?


 俺に睨まれてから、なんだかケインの様子がずっとおかしかった。


 まるで、ロイドに色々されていた時のような反応だ。


 ロイドがパーティから抜けてから見るようになった、威張り散らしている態度とはまるで別人。


 ……もしかして、今まで威張り散らしていたのは虚栄だったのか?


「おい、ロイド。聞こえてないのか? 決闘は中止だってよ……お、おい! ロイド、いい加減にしろよ!」


 俺はそんなことを考えながら、ザードの盾を長剣で押し続けていると、ザードが起こったようにそう言う。


 ギチギチッと盾と長剣がきしむ音を聞きながら、俺は視線を再びザードの方に戻す。


 俺はザードのそんな言葉を聞いて、鼻で笑う。


「別に、決闘じゃなければ続けても問題ないんだろ?」


「ちっ! クソ野郎が!」


 ここまでアリシャをボロボロにしておいて、中止だから引き下がれと言われて素直に従う義理はない。


 俺が全く引かずにいると、ザードは大きな舌打ちを鳴らす。


「っ」


「大丈夫ですか? お嬢様?」


 そのままスキルを使おうとしたとき、後ろでアリシャが痛そうな声を漏らした。


 俺はアリシャに寄り添うエルフの女性の声を聞いて、盾を押し込もうとする力を緩める。


「アリシャ……」


「ロイドさん、決闘は中止です。この意味が分かりますよね?」


 俺がそんな声を漏らすと、レミさんは俺の目をじっと見てそう言う。


 このアニメの世界では、冒険者同士が戦う場合は見届け人を立てて、決闘の形を取らなければならない。


 そうしなければ、重い罰が下されるのだ。


 正直、例えそのことを知っていても、怒りに任せて剣を振ろうとしていたが、今はそんなことをしている場合ではない。


 俺は後ろで蹲っているエルフたちを見て、深く息を吐いてから剣を収める。


「あ? なんだ結局やめるのかよ」


 俺がいきなり退いたせいで、ザードは肩透かしされたように前によろめく。


「ああ。それよりも手当てが先だ」


 俺がそう言うと、ザードは納得していない様子で盾を下ろす。


ケインにちらっと視線を向けると、ケインはびくっと肩を跳ねさせて驚いてから、虚栄を張ったような顔で俺を睨む。


 それからケインは、『命拾いしたと思え!』と言って、メンバーたちを引き連れてこの場を後にした。


 ……またベタな捨て台詞だな。


 俺がそんなことを考えながらアリシャたちに目を向けると、アリシャはまっすぐ俺のことを見つめていた。


「助けて、くださったのですか?」


「いや、もう少し早く駆けつけられればよかったな。ごめんな」


 俺が膝をついてそう言うと、アリシャの目が微かに大きく開かれる。


 それから、アリシャは倒れている体をぐっと起こすと、言葉を続ける。


「あの、お名前を教えてくださいませんか?」


「俺か? ロイドだよ。ただの嫌われ者の悪役だ」


 俺が苦笑しながらそう言うと、アリシャは小さく声を漏らす。


「……ロイドさま」


 アリシャの声が微かに熱を帯びていたように聞こえたのは、きっと気のせいだろう。


 それから、俺はレミさんと話し合って、エルフの人たちを冒険者ギルドの個室へと運んで手当てをしてもらうことにしたのだった。

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