第39話 決闘の乱入者

 アニメ『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』の二人目のヒロイン、アリシャ。


 彼女はエルフの村の族長の娘だ。


 アリシャは魔法の才に長けており、同世代の子たちとは比べ物にならない才能を持っていた。


 その才能を活かしたいという本人の願いもあって、アリシャは幼いながらエルフの村の自警団の一員として活躍をしていた。


 確か、アニメではアリシャたちは、エルフに悪事を働いたロイドを捕まえようとするのだが、からめ手を使われてピンチに追いやられる。


 そこに主人公であるケインが助けにくるという展開なのだ。


 ……それがどうしたら、アリシャがこのアニメの主人公にボロボロにされているんだよ。


「おい! もうやめてあげてもいいじゃないか!」


 俺が何も言えずにいると、どこかから男がそんな言葉を口にする。


 すると、ケインはその男を睨んで声を荒らげる。


「ふざけんな! こいつらは、俺たちを犯罪者だと言いやがった! 証拠もないのにな!」


「……証拠は、あなたたちが、もみ消したと聞きました」


 アリシャが何とか声を絞り出すと、ケインは鼻で笑う。


「もみ消したってことは、もうないんだろ? ないなら、俺たちは無実だ!」


 ケインがそう言うと、他のパーティメンバーはゲラゲラと声を出して笑う。


 そして、ケインは蹲っているアリシャを指さして、にやりと笑う。


「決闘で勝ったらどこにでも連れていけって言ってやったのに、おまえら簡単に負けるしよぉ……何が正義だ、馬鹿じゃねぇの」


 ケインはそう言うと、足元に転がした首輪を蹴ってアリシャにぶつける。


「いたっ」


「ほら、負けたんだからその首輪しろ。それが決闘の約束だろ?」


「お嬢様! その首輪だけはしたらダメです!」


 アリシャと共に倒れているエルフの女性がそう叫ぶが、彼女の声は虚しく、アリシャはその首輪を手に取る。


 ケインが蹴った首輪は、隷属の首輪という魔法具だった。


 着けることで対象者の命令を絶対に聞くようになるという、奴隷以外には使ってはならない禁じられた魔法具。


 まさに、アニメでロイドにアリシャが着けられそうになっていたものだ。


「おい、かわいそうだろ! やめてやれよ!」


 アリシャがそれを首に着けるのを躊躇っていると、先程とは別の男がケインにそう叫ぶ。


 すると、ケインはその声がした方を強く睨む。


「うるせぇ! 決闘は決闘だ! 勝った方の要求を呑むんだよ! 文句がある奴らはかかって来いよ、捻りつぶしてやるからなぁ!! ほら! かかって来いよ!! 雑魚共がぁ!」


 ケインが周りを煽るように言うと、ケインたちの決闘を見ていた人たちはただ悔しそうに顔を俯かせる。


 ケインたち『竜王の炎』はA級冒険者たちのパーティだ。


 いくら悪事を働こうが、その実力だけは本物。


 今のケインたちに歯向かってでも、アリシャを救おうと思う人たちはいないだろう。


「……そうか、途中参戦ありなのか」


 多分、俺を除いてそんな馬鹿はいない。


 俺は荷物を適当に投げ捨てると、長剣を引き抜いて構える。


「ん? まずい! ケイン、下がれ!」


 ザードが俺に気づいたようでケインの前に立って盾を構えるが、俺はお構いなしに強く地面を蹴る。


「『瞬地(魔)』」


「は?」


 そして、間抜けなロイドの声を聞きながら、俺は一瞬でザードの目の前まで移動していた。


 ザードは盾越しに俺とぱっと目が合うと、一瞬で何かを察したのか声を張り上げる。


「ケイン! 『支援』を頼む! こいつ本気だ!」


「え? あ、し、『支援』!」


 ケインが慌てながら『支援』を使うと、ザードの体が緑色の光に包まれる。


 ザードはケインの支援を受けて気を大きくしたのか、にやりと笑みを浮かべる。


「『剛盾』!!」


 しかし、俺は盾を構えるザードに臆することなく、振り上げた剣を思いっきり振り下ろす。


「『豪力(魔)』!!」


 ガギィィィィンッ!!


「ぐ、おおおおっ!!」


 俺の長剣とザードの盾が衝突して、鈍い金属音とぶわっという風圧があたりに広がる。


ザードは大きな唸り声をだしながらも、俺の一撃を受けて片膝も地面につけていなかった。


 ……これがケインの『支援』の力か。厄介だな。


「ろっ、ロイド」


 俺が剣をそのまま押し込もうとしていると、ケインが震える声で俺の名を呼んだ。


 俺が顔を上げて見てみると、ケインは脅えるような目で俺を見ている。


 俺はその顔を強く睨みながら、怒りが漏れ出ている声でケインを威圧する。


「文句がある奴はかかって来ていいんだよな? ケイン……殺されても文句は言うなよ?」


 アリシャをここまで痛めつけた奴を放っておくことなんかできるはずがない。


 俺は剣をさらに強く握って、次に使うスキルを頭に思い浮かべるのだった。


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