第38話 第二のヒロイン、主人公に出会う

 リリナが覚醒してから数日間、俺たちはしばらく森に籠って上流の魔物たちを倒して過ごした。


 リリナの成長はめまぐるしく、気を抜けば簡単に追い抜かされてしまう気さえした。


 俺もうかうかしてられないと気合を入れて魔物を倒してきたが、そろそろ街に戻る必要がありそうだ。


「よっし。とりあえず、一旦街に戻るか」


 俺が荷物の中の食糧を確認してからそう言うと、リリナはきょとんと首を傾げる。


「え? もういいんですか?」


「ああ。どうせ数日で何とかできるもんでもないしな」


 ケインたちがどれほどの魔物をこの森に呼んだのかは分からないが、数日森に潜ったくらいで解決できるような数ではないことは確かだ。


 俺たちだけでも結構な数の魔物を倒したし、一旦様子見をするのもいいんじゃないかと思う。


 上手くいけば、強い魔物同士で勝手に潰し合ってくれるかもしれないしな。


「それに、レミさんが上手いことケインたちを説得してくれたかもしれないからな」


 俺はそんなことはないかと思いながら、苦笑する。


 そんな簡単に説得できたら、嫌われ者の俺なんかに魔物の討伐なんて頼まないよな。


「むー。あの嫌な人たちが説得されることなんてあるんですかね? 逆ギレしかしなさそうです」


 リリナはそう言うと、俺の隣で微かにむくれていた。


 ……うん。なんとなくだけど、俺もそんな気がしている。


 だから、ケインたちの様子が変わったかどうかはついでに見る程度だ。


「まぁ、あとは単純に魔物の素材を街に持っていきたいっていうのもある。さすがにこれ以上は持ち運べないしな」


「そうですね。そういうことでしたら、賛成です!」


 リリナがこくんと頷いたのを見て、俺はすっかり重くなった荷物を背負って、リリナと共に森を下ることにした。




「とりあえず、冒険者ギルドに行って素材の買い取りをしてもうか……ん? なんだあれ?」


「凄い人の数ですね」


 森から帰還した俺たちは、街の入り口付近にいる人だかりを前に、そんな言葉を漏らす。


 何かを見物しているようだが、みな顔色が良くない。


人によっては目を逸らしたり、歯ぎしりをしたりしている人たちもいる。


 一体、何を見ているんだろうか?


 俺たちが街に入るためにその人だかりに近づいていくと、俺の顔に気づいた人たちが道をあけていく。


 何かに脅えるような目で見られると、ロイドが嫌われ者であるということを再確認させられる。


 しかし、その目がすぐに俺から逸らされて、人だかりの中心に向けられる様子を見て、俺は首を傾げる。


 あれ? 俺に脅えているわけではないのか?


 俺がそんなことを考えながら歩いて行くと、人だかりを通り過ぎた。


「え?」


 そして、その先に広がる光景を前にして、俺は言葉を失った。


「……っ」


 白と緑の衣装に身に纏った人たちが数人傷だらけで倒れており、呻き声のようなものを漏らしている。


そして、そのすぐ近くにはこのアニメの主人公ケインと、『竜王の炎』のパーティメンバー達の姿があった。


 ケインは鼻で笑ってから、抑えきれなくなった笑い声を上げる。


「アハハ! 何がエルフの精鋭だ! ただの無能の寄せ集めじゃねーかよ!!」


 ケインがそう言うと、パーティメンバーも合わせるように大きな声で笑いだす。


 そして、ケインは傷だらけの人たちを見下すように笑いながら、禍々しい首輪を雑にその場に転がす。


「ほら、敗者は言うことを聞くんだろ? それをつけて俺に従え」


「っ」


 ケインの言葉を受けて、ぐっと起き上がろうとするが、起き上がれずに転んでしまう女の子。


 その女の子の顔には見覚えがあった。


細い金色の髪と少し長い耳が特徴的で、歳のわりに落ち着いた雰囲気のあるリリナと同い年くらいの可愛らしい女の子。


 その子は、アニメ『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』に出てくる二人目のヒロインだった。


「……アリシャ」


エルフの血を引いた魔法に長けたそのヒロインは、このアニメの主人公によってボロボロにされていた。



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